東急田園都市線は渋谷駅から二子玉川駅までの間、地下を走ります。渋谷駅の隣、池尻大橋駅から二子玉川駅の手前の用賀駅までの5駅(世田谷区・目黒区内)を対象に「Green UNDER GROUND」と名付けられた駅のリニューアルプロジェクトが進行しています。

目黒区、世田谷区を走る東急田園都市線の地下部分の5駅で駅の改良プロジェクトが進行しています。写真は沿線でも有数の人気を誇る駒沢公園。この近くに住みたいという人も多いのではないでしょうか(筆者撮影)

45年経った駅をこれから求められる駅に

この区間は、かつて玉川線、愛称「玉電」と呼ばれるコンパクトな電車が地上を走っていました。それが1977年に地下化され、新玉川線として開業。2000年に田園都市線に統合され、現在に至ります。
 
1964年の地下化工事着手前にはどのルートを走るか、駅をどこに配置するかなどさまざまな意見が出たそうですが、最終的には今のルートに約2キロメートルおきに駅を配することになったそうです。

リニューアルというよりバリューアップ

それから45年。鉄道も、社会も大きく変化しました。

コロナ前まで乗降人員は増加傾向にありました。鉄道に求められるものが変わってきたのでしょう(提供:東急株式会社)

「地下化以降の45年間で、乗降客数は1日最大約20万人増加しました。当時は電車内の空調はほとんどありませんでしたが、現在は必須の設備。2000年の交通バリアフリー法以降は誰にも使いやすい鉄道が求められるようにもなっています。今後は地球温暖化にも配慮する必要もあります」と東急電鉄株式会社工務部の山口洋賢さん。

駅構内に掲示されていたプロジェクトの解説。この5駅は桜新町がピンク、用賀がブルーなどとそれぞれにテーマカラーが異なっています。ということは、この駅はどこでしょう? 答えはぜひ、現地で確認してみてください(筆者撮影)

さらにコロナ禍により、毎日定期券を利用して通勤する人が減っています。その一方で自分が住んでいる地域の中で働いたり、人と会ったり、遊んだりといったさまざまな活動は増えています。都心への通勤は減ったものの、地域の中での人の動きは止まっていません。当然、駅の役割も変わります。

「都心への入口というだけでなく、地域の人たちとの接点を増やし、移動する機会を作る場として駅があると考えています。移動の楽しい地域であれば、エリア内の価値も上がっていくでしょう。その前にまず駅が盛り上がるようにと考え、地域の人たちと連携して多種の試みを始めようと計画しています」と東急プロパティマネジメント株式会社の秋元隆治さん。

つまり、これからの時代に求められるハードとしての機能を備えた駅であると同時に、これまでの駅にはなかったソフトを意識した改修が行われるということでしょう。リニューアルというより、バリューアップというのが正しいのかもしれません。

工事が進む駒沢大学駅

このプロジェクトで目指すものは上記の3点。単に新しくするというより、それによって価値向上を目指すという点がポイントです(提供:東急株式会社)

具体的には安全、安定性の向上をベースに環境改善、価値向上の3点を目指し、すでに駒沢大学駅での工事が行われています。

駒沢大学駅はプロジェクト対象である5駅のちょうど中央に位置していると同時に、東急が2019年に発表した「長期経営構想」で今後注力するとした渋谷~自由が丘~二子玉川の「プラチナトライアングル」の中心地でもあります。これからの駅が登場するのにふさわしい地点ということでしょう。

工事中の駒沢大学駅構内。駒沢大学駅のテーマカラーは公園をイメージさせるグリーンです(筆者撮影)

その駒沢大学駅では通路やトイレなどの駅構内と駅ビル等の地上での工事、地域との連携が同時に進行しています。

新しいトイレはSDGs を意識

脱炭素・循環型社会へ向けた取り組みとして、保管していた旧玉川線の敷石を洗面台に活用し、廃材処理時のCO₂削減を実現しているというトイレ。洗面鏡は電車のドア窓をイメージした形状になっています(出典:「Green UNDER GROUND」今までより広く、使いやすく、 田園都市線駒沢大学駅のトイレが新しくなりました!)

まず、駅構内で変化が分かりやすいのは改修が完了したトイレでしょう。リニューアル後の2022年7月から運用がスタートした新しいトイレは2022年度グッドトイレ選奨・社会的活動部門の奨励奨を受賞しており、機能の充実に加え、落ち着いた空間のデザインなどが評価されたのだとか。手洗い前の縁石に旧玉川線の敷石として保管されていた廃材を使うなど、SDGs に向けた取り組みも行われています。

地上で新しいビルも建設中

新しくなった東口ビルの外観。国道246号を挟んで現在建設中の2棟も同一のデザインになる予定です(提供:東急株式会社)

地上での工事のうちのひとつは、駅東口に直結する駒沢大学駅東口ビル(以下東口ビル)の耐震補強工事。ここにはドトールコーヒーショップ(以下ドトール)が入っており、工事に伴い2020年末に閉店しましたが、2022年8月に工事完了に伴って再出店しています。

工事が進む西口側。手前と奥に2棟が建設中です。手前右手の入り口部分は既存の階段があるところです(筆者撮影)

駒沢大学駅周辺ではこのビルに加え、西口に直結する予定する2棟のビル建設の予定がありますが、そのすべてが駒沢大学駅のリニューアルコンセプト「UNDER THE PARK」に合わせて木の葉をイメージした同一のデザインとなります。現在の東口ビルと同じデザインのビルが西口にも誕生するわけです。

地下駅は地上を歩いている人に分かりにくいという問題を抱えがちですが、こうしたデザインでその問題を解決しようという計画です。

ドトール1階店内。耐震補強の構造材を壁で隠さず、そのまま設置することで空間の広がりを感じられるようになっています。その奥には一人用のブース席が7席。人気の場所になりそうです(提供:東急株式会社)

また、新しいドトールのテラスに置かれたベンチには旧池上駅木造駅舎の古材、店舗内の床にはリサイクル材から製造された素材を使用。マイボトル持ち込みによる割引サービスを導入するなど、SDGsを意識した取り組みも。1階には地元で働く人にとってうれしいPC作業などもしやすい個別席も設けられています。

新設される西口ビルは2階建て、4階建ての2棟からなりますが、そのうち、4階建てビルは国土交通省の「令和4年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されており、耐火・構造技術を導入した日本初の木造駅ビルになります。

このビルには1階に駅と地上を繋ぐエレベーターが設置されると同時に、1階、2階には店舗も入る予定。詳細はまだこれからですが、これまで以上に便利な駅になるはずです。

地域と連携、愛される駅に

最後に、地域との連携では地元の駒澤大学の大学三大駅伝3冠への挑戦を応援するプロジェクトを行っており、2023年1月の箱根駅伝の前には駅構内通路に応援メッセージを書くコーナーが作られました。

駅員が総出で用意した応援メッセージコーナーには250人ほどがメッセージを寄せ、駅伝終了後には特製横断幕に貼られて陸上競技部の優勝祝賀会に花を添えたとか。駒澤大学の学生にとっては単に通学で通う駅ではなく、大学を応援してくれる駅と感じられたのではないかと思います。

時間をかけて少しずつ改良

かなり姿を見せてきた駒沢大学駅の改修工事ですが、竣工は2024年夏の予定。まだ、しばらく時間がかかります。その理由は、鉄道駅での工事は終電通過後から始発が来るまでの時間でしか作業ができないため。通常の工事の3倍はかかると山口さん。「鉄道事業は長期に取り組むものなのです」

今後の他駅での工事も開始までにはまだ、しばらく時間がかかりそうです。45年経った駅や設備をしっかりと点検し、丁寧に改修の計画を立てていく必要があるために、どうしても時間がかかってしまうのです。

今回のプロジェクトの対象となる駅は幹線道路などの下にあることから、その制約もあり、工事には時間がかかります(筆者撮影)

もうひとつ、今回工事を行う区間は国道246号や都道瀬田貫井線の地下を走っているため、道路法の制約を受けることにもなります。

「地上を走っていた玉電を地下に持って行く時にも紆余曲折があったと聞いていますが、今回も同じように時間をかけて丁寧にいろいろな方々と一緒に造っていくことになるのだろうと思います」と秋元さん。長い目で地域の変化を楽しみしたいところです。

5駅それぞれに異なる魅力

以下では、このプロジェクトで新しくなる5駅周辺の街を簡単に紹介していきましょう。

世田谷区、目黒区にまたがる池尻大橋駅

国道246号方向から目黒川下流を見たところ。目黒川は国道246号までは暗渠、それ以降は開渠として流れています。左手の丸い建物は首都高速の大橋ジャンクション(筆者撮影)

まずは池尻大橋駅。この駅は桜で有名な目黒川の近くにあります。駅自体は世田谷区内にありますが、ちょうど目黒区との境のあたりにあるため、駅から渋谷寄り、東側は目黒区。住所でいうと東山、大橋、青葉台などになります。

駅から北側、目黒区大橋、世田谷区池尻4丁目は高台で、急な坂を上った先には東京都立駒場高校、筑波大学付属駒場中学校・高等学校などがあり、ファミリーには人気が高いエリアです。

駅から南側、目黒区東山2丁目も同様に高台で、以前は公務員住宅だけが並ぶ大きな区画の土地でしたが、いまでは一部が分譲マンションなどになっています。

池尻大橋駅前商店街。新旧さまざまな店があり、買い物に、飲食に便利。国道246沿いを除いては小規模な店舗が多いのも特徴です(筆者撮影)

駅を降りてすぐ、国道246沿いにスーパー、ドラッグストアなどがあるほか、駅東側には池尻大橋駅前商店街があります。昔ながらの煎餅屋さんや金物屋さんが並ぶのどなか雰囲気の商店街ですが、一方で全国的にも知られたラーメン店やサウナ好きには有名な銭湯などもあり、歩くだけでも楽しめます。

筆者は10数年前に三宿に住んでいたことがあり、池尻大橋は日常的に利用していた駅。その当時からするとしゃれた飲食店が増え、歩く人も増えています(筆者撮影)

池尻大橋駅から三軒茶屋駅にかけての国道246号沿いや一本入った通りには小規模で個性的な飲食店も多くあり、グルメな人なら探索してみたくなるのではないでしょうか。

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商店街、飲食店街多数の三軒茶屋駅

中央に噴水、週末にはミニSLが走る世田谷公園。取材時には桜の下でお弁当を広げるファミリーの姿も多く、地元の人にとっては大切な憩いの場です(筆者撮影)

渋谷駅から2駅目が三軒茶屋駅です。池尻大橋駅と三軒茶屋駅とのちょうど真ん中くらいに三宿という交差点があるのですが、ここで国道246号と交差する三宿通りはアンティーク家具店や人気のカフェなどが並び、週末にはわざわざやってくる人でにぎわいます。通り沿いには世田谷公園があります。

奥に見えるのが三軒茶屋のランドマーク、キャロットタワー。世田谷通り沿いにあり、周辺には商店街、飲食店街が広がっています(筆者撮影)

三軒茶屋駅は国道246号と世田谷通り、茶沢通りが交わる地点で、昔から交通の要衝。三軒の茶屋があったことが地名の由来とされます。そのため、駅周辺にはいくつもの商店街があり、飲食店も多数。夜遅くまでやっている店も多いので、忙しい単身者、カップルには特に人気が高いと聞きます。

東急世田谷線の三軒茶屋駅。2両編成のコンパクトな電車で、都電荒川線と違い、車道を走ることはありませんが、のんびりした雰囲気は共通しています(筆者撮影)

三軒茶屋駅から軌道線(いわゆる路面電車。都内にはこの路線と東京さくらトラム〈都電荒川線〉だけしかありません)である東急世田谷線も利用できます。この路線は途中の山下駅で小田急線、終点の下高井戸駅で京王線と接続しており、のんびりした風情ながら意外に便利です。

乗り換えがあることから最近まであまり開発が進んでいませんでしたが、ここ10数年ほどで松陰神社前駅に個性的な店が集まっていることが話題になり、沿線全体の認知度がアップ。人気も上昇傾向にあります。

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公園の近くに住みたい人に人気、駒沢大学駅

駒澤大学はメインのキャンパス以外にも周辺に複数のキャンパスが点在しています。学生向けに安くて大盛の店もあります(筆者撮影)

3駅目が駒沢大学駅です。名称の通り、駒澤大学駒沢キャンパスがあり、学生の姿が多い街です。この周辺では学生以外にも子どもを連れたファミリー、犬を連れた人、ランナーなどが目につくのですが、それは都立駒沢オリンピック公園があるため。

日本で最初期にドッグランが作られた駒沢公園はペットと過ごすにはうれしい環境。大小さまざまな犬を連れた人たちを見かけます(筆者撮影)

1964(昭和39)年の東京オリンピックの第2会場として整備されたこの公園は、テニスコートや野球場、トレーニングルームなどのスポーツ施設、ジョギングやサイクリングのコース、ドッグランなどさまざまな施設があります。誰にとっても楽しい場所であり、この公園の近くに住みたいと考える人も多いそうです。

国道246号から自由が丘方向への自由通りを見たところ。ちょうど角では別の開発が行われており、駒沢大学駅周辺は変化が続きます(筆者撮影)

駅周辺から国道246号沿い、自由通り沿いには駒沢大学駅前商店会があります。スーパー、ドラッグストアに衣料品店その他も駅周辺にまとまっており、ペット可の飲食店が多いのもこの街らしいところです。

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サザエさんで有名、桜がきれいな桜新町駅

ここまでの3駅は国道246号沿い。頭上には首都高速3号線の高架がありましたが、次の桜新町駅はどちらからも離れた場所にあります。

駅を出たところからこうした風景が広がります。サザエさん美術館などへの道もあちこちに案内があります(筆者撮影)

「サザエさん」で知られる漫画家・長谷川町子さんが住んでいたこともあり、駅前にはサザエさん一家の像、少し離れたところには長谷川町子さんが集めた美術品を展示する長谷川町子美術館、同記念館もあります。それ以外にも桜新町商店街を中心に街のあちこちにサザエさんの登場人物が飾られているので、桜新町を訪れたら探してみてください。

桜新町駅前の通り。八重桜を中心にした並木があり、季節には濃いピンク色が美しい花を付けます(筆者撮影)

同商店街は駅を中心に周囲の桜新町駅前通り、サザエさん通りに広がっており、いつもにぎわっています。春にはさくらまつり、9月にはねぶたまつりなどイベントも複数開催されており、さくらまつりでは桜新町在住の歌手・水前寺清子さんが舞台に立つのが恒例だそうです。

国道246号を渡った深沢8丁目のあたりの桜並木。古木が多く、トンネルになります(筆者撮影)

桜新町という駅名、地名の通り、駅前の通り沿いには八重桜が植えられており、春には商店街を歩いているだけで花見ができます。駅からは少し離れますが、国道246号を渡った深沢8丁目や呑川緑道沿いなども桜の名所です。同様に駅の北西には、これまた桜で知られる馬事公苑(2023年11月までの予定で施設整備工事のため休苑中)もあります。

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オフィス、公園、美術館のある用賀駅

用賀駅への入口。これまでの4駅とは異なり、大きな開口があり、分かりやすい駅です(筆者撮影)

5駅目が用賀駅です。この駅も首都高速とは少し離れており、しかも、これまでの駅とはかなり雰囲気が異なります。

世田谷ビジネススクエアと駅は地下通路でつながっています。これまで紹介したほかの駅と違い、スーツ姿の人もちらほら(筆者撮影)

用賀駅の駅前には28階建の超高層ビルを軸とした商業・業務施設、世田谷ビジネススクエアがあり、駅とは地下通路で繋がっています。ここまでの4駅周辺は通り沿いを除けば住宅中心のエリアでしたが、用賀駅だけは駅前にオフィスゾーンがあるのです。

それは鉄道利用で渋谷や都心へのアクセスが良いことに加え、国道246号に加え、環状八号線、東名高速インターに近いという交通利便性から。環状八号線を経由すれば第三京浜のインターもすぐ近くです。

といってもタワー棟を除けば6階建てまでの低層、小規模オフィスが大半で、敷地内には緑や水などが配されており、公園のような雰囲気です。その一方で郵便局や金融機関、カフェなどが入っているので生活する人にも便利です。

用賀プロムナード。別名「いらか道」とも言われており、せせらぎ、ベンチが用意された道沿いには素敵なカフェも。歩いていくと自然に砧公園に導かれるようになっています(筆者撮影)

用賀駅からは世田谷美術館のある都立砧公園へ続く用賀プロムナードがあり、その周辺は住宅地としても人気です。用賀プロムナードは淡路瓦を敷き詰めた遊歩道で、せせらぎ、ベンチも用意されており、散歩が楽しい道です。

都立砧公園は設備充実の駒沢オリンピック公園とは趣が異なり、軟式野球場などはあるものの、どちらかといえば自然や空間をのんびり味わうための公園です。天気の良い日にはお弁当を広げる人たちの姿も多く、特に桜の季節にはにぎわいます。

園内にある世田谷美術館は収蔵品の展示のほか、独自の企画で絵本や写真、建築などとさまざまな分野にわたる企画展を行っています。館内にはフレンチレストランもあり、アートを日常にできる場所と言えるでしょう。

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以上、これから新しくなる東急田園都市線5駅の周辺を紹介しました。どの街もそれぞれに違う雰囲気があり、個性があります。どの街が好みか、公園なども含めてゆっくり歩いて味わってみてはいかがでしょう。

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