Paraviとの統合で国内ドラマを武器に加えたU-NEXT(筆者撮影)

2月17日に発表されたU-NEXTとParaviの統合は業界中を驚かした。

SVODつまりサブスクの映像配信サービスは2015年にNetflixが鳴り物入りで日本上陸すると、一気にレッドオーシャン化し活況を呈した。2017年には気の早いメディアがゲオチャンネルやUULAなどの撤退を見て「淘汰再編が始まった」と騒いだが、まだまだ成長を続けプレイヤーも増えた。コロナ禍が人々を巣ごもり生活に押し込めたことで、自宅で様々な映画やドラマが無尽蔵に視聴できる楽しさに人々が目覚め、一気に普及した。特殊な映画マニアのサービスから、普通の人が使う日常的なサービスに広がったのだ。Netflix独占配信ドラマの『愛の不時着』や『イカゲーム』の話題が、地上波テレビ局のドラマと同じように人々の間で飛び交った。

U-NEXTとParaviの統合

ただ、去年秋頃からコロナ禍の落ち着きと共に、SVOD業界全体の急成長の勢いが弱まった。そんな中のU-NEXTとParaviの統合は、状況の変化を如実に示した。淘汰再編の段階に、今こそ入ったのだ。今後は合従連衡、事業者の再編が進む匂いが業界に漂っている。

ではU-NEXTは勝ち組なのか。筆者はU-NEXTの社長・堤天心氏にインタビューを行った。

U-NEXTはUSEN-NEXT HOLDINGSの傘下で、グループのトップは宇野康秀氏。USENグループは2005年に映像配信サービスGyaOを立ち上げたが数年後に方向性を2つに分け、1つはYahoo!グループに移行しGYAO!となった。もう一つはGyaO NEXTの名でサービスを開始し、サブスクモデルで伸びてきた。それが今のU-NEXTだ。

GYAO!はこの3月でサービスを閉じる。同じサービスから生まれながら無料広告のGYAO!は事業を終了する一方で、U-NEXTは他のサービスと統合するまでに成長したのは対比すると面白い。

宇野氏はU-NEXTについて、会員数1000万を目指すと威勢よく宣言した(3月2日、日本経済新聞)。グループ全体を引っ張る立場として強気にアナウンスしたのだろう。

テレビ局が運営するSVODはTBS・テレビ東京のParavi以外にも日本テレビのHulu、フジテレビのFOD、テレビ朝日がKDDIと共同で運営するTELASAがある。宇野氏の宣言を聞くと、Paravi以外も統合していくのかと考えてしまう。だがU-NEXTを直接運営する立場の堤氏は、逆に謙虚な物言いだ。


U-NEXTの堤天心社長(筆者撮影)

「我々のほうから決められることではありません。ただ我々のスタンスとしては今回の統合のみならず、他の国内の事業者さんにもオープンなスタンスでおります。提携なのか、サービスの融合なのか、いろいろなレイヤーの話があるかと思います。そういったお話は、建設的にディスカッションさせていただきたいとは思ってます」

サブスクサービスの収益化は難しい

来る者は拒まない姿勢を、あくまで謙虚に、だがはっきり打ち出している。

各テレビ局の考え方次第で、様子を見るのだろう。ただサブスクサービスはかなりの規模にならないと収益化は難しいようだ。ここへ来て各局とも悩み始めているとの噂も聞く。

これから数年で合従連衡が進み、残りのテレビ局系サービスがまとまりU-NEXTと2強体制になるか、すべてがU-NEXTに統合されるかのどちらかに落ち着くと筆者は見る。そしてユーザーからすると、後者のほうが便利だ。今、テレビ番組はリアルタイムで見なくても1週間以内ならTVerで視聴できることがかなり認知されている。だがドラマの1話から見るには局ごとに違うサービスに加入する必要があり、かなりの金額になってしまう。テレビ局が自分のコンテンツを自由に見てもらうためにはサービスを一本化すべきなのだ。

U-NEXTは今回の統合で、国内ドラマを武器に加えた。元々は映画とアニメを売りに、レンタルビデオの代替サービスとして打ち出し伸びてきた。2021年にはワーナーとの提携でHBO、HBO Max作品の独占配信を始めた。HBOはドラマの最強ブランドの1つで、本国アメリカでは『ゲーム・オブ・スローンズ』がヒットするなど評価が高い。筆者も見応えあるドラマシリーズを2021年以降楽しむことができた。この独占配信でNetflixと張り合う素地が固められた。


HBO今年のヒット作『THE LAST OF US』 © 2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc. U-NEXTにて見放題独占配信中

そこにTBSとテレビ東京の国内ドラマが加われば強みが大きく増すだろう。そしてさらに全局の国内ドラマが加われば、日本市場に限ってはNetflixと互角以上に戦えるようになる。それは結局、テレビ局にとっても頼もしい存在になるはずで、国内エンタメ産業全体にとって良い流れになるのではないだろうか。

堤氏も「国内ドラマに関しては相対的に弱かったのを、今回の提携で日本のドラマにおいても質量共に戦っていける思いがあります。映画とアニメの優位性を維持しながらNetflixなど他のサービスが強みとしているドラマ領域でも勝負ができるのではと考えています」と述べている。

良質なオリジナル作品が求められる

海外勢に目を向けると、Netflixの成長に影が差し広告付きプランを慌てて開始して摩擦を起こしたり、Disney+は赤字でグループ全体の足を引っ張りディズニーCEOにボブ・アイガー氏が戻ったり、SVOD業界は揺れている。彼らは会員数を増やすことに躍起になるあまりに、コンテンツにどんどん投資し、マーケティング費用も莫大にかけてきた。その結果Disney+は1億6千万人、Netflixは2億3千万人の会員を獲得したが、先行投資型の経営が市場の急成長の鈍化で裏目に出ているのだろう。特にオリジナルコンテンツの製作に血道を上げてきた結果、どれがどんな作品か伝わらなくなっている。

Disney+には『スター・ウォーズ』や『アベンジャーズ』の世界観を広げるスピンオフ作品が山のようにあり、どれがどの延長にあり世界がどう繋がっているのか、把握するのも大変だ。

Netflixには次々に世界中のドラマシリーズが配信され、知らない俳優のよくわからない設定のサムネイルが画面に並び、選ぶきっかけがつかめない。しかも内容がエグいものや、重たいものが多く似通って見える。結果日本のドラマを選んだら、それは今放送中のもので、翌週からはNetflixではなく地上波放送で見ていたりする。

やたらとドラマを作ればいいわけでもないことが見えてきたが、SVODサービスにはオリジナル作品が求められるのも事実だ。堤社長はその辺り、堅実かつ意欲的な姿勢を見せる。

「我々は先行投資型というよりは、着実にサブスクを増やし、ユーザーの伸びに合わせてコンテンツ投資するやり方。よく言えば堅実に、悪く言えばあんまりレバレッジをかけずにやって来ました。ただ、次にNetflixなど海外勢と本気で対抗するには、もう1段プラットホームの規模を大きくし、会員数400万、500万の規模で売上1000億以上のスケールにならないと、彼らに対抗できない。今回の提携をきっかけに早期にそのフェーズまで行けるかどうかです」(堤社長)

Paraviとの統合で会員数は370万人以上になるので、400万はそう遠い話ではない。テレビ局との共同制作も想像でき、オリジナルコンテンツは近いうちに期待してよさそうだ。一歩一歩堅実に無理せず進んでいく姿勢で、ようやくオリジナルに取り組むステージが見えてきた様子だ。

オリジナル制作について堤氏が注目しているのが、「出版文化」だという。実はU-NEXTには電子書籍サービスもあり、雑誌やマンガ、小説などの書籍も扱っている。既存コンテンツを出版社から提供される中に、オリジナルの漫画や小説の提供も始めているのだ。


U-NEXTのオリジナルコミックレーベル「U-NEXT Comic」(編集部撮影)

「日本の出版文化はすごくユニークで、特異的に発達してる国。そこがIPを生む源泉になっています。足元で始めたU-NEXTオリジナルのコミックを中心に小説も含めた、出版に近いところでオリジナルのチャレンジをしてみるつもりです。デジタルの時代になって、出版と映像が有機的に繋がることでより加速すると思ってます」(堤社長)

海外戦略も視野に入れ、次のステージへ

ハリウッドにはNetflixを「IPを生み出していない」と揶揄する声もあるという。「作品をいっぱい作ってるけど5年、10年続くようなIPは今のところ生まれてないじゃないか」と言われているそうだ。短期的な視点で人が集まるコンテンツを製作し、IPを育てるよりその期間に会員数が伸びたかに軸を置く。

実は今、日本の出版社の一部には、自分たちが開発したIPを自分たちで映像化していく動きが出てきている。それは世界市場も視野に入れての考え方のようだ。

堤氏は海外戦略も持っているのだろうか。

「当然今年や来年の時間軸では、考えてません。でも国内で一定のシェアを取ってもう1段上にスケールさせる上では、アジアを中心とした海外市場をどう取り込むかを考えたい。自ずから必要になってくるとは想像しています」

具体案はないが、視野には入れているというところのようだ。

Paraviとの統合を機にU-NEXTは次のステージに進みそうだ。いよいよオリジナル製作に乗り出し、しかも自社IPの開発も考えている。一方既存サービスの業界再編、あるいは別のプレイヤーたちの動きも気になる。単純な会員数競争の段階は終わり、ビジネスモデルの再構築も含めた変化が起きそうだ。テレビで配信サービスを見るのが当たり前になり、市場規模も新たな成長に入るだろう。次に何が起こるか、期待したい。

(境 治 : メディアコンサルタント)