豪州戦に登板した大勢【写真:Getty Images】

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WBC世界の投手たちをピッチングストラテジスト・内田聖人氏が分析

 連日熱戦が繰り広げられる野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。「THE ANSWER」では、多くのプロ野球選手を含め400人以上が参加するパフォーマンスアップオンラインサロン「NEOREBASE」を主宰し、最速155キロを投げる自身を実験台にしてピッチング理論やトレーニング理論を発信するピッチングストラテジスト・内田聖人氏が、独自の目線で世界の投手を分析する。今回は日本代表・大勢投手(巨人)と高橋奎二投手(ヤクルト)。12日の豪州戦で登板し、大勢は1回無失点、高橋は2回0失点と好投。ともに150キロを超える直球には他の投手たちとは異なる特徴があるという。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 大勢投手と高橋奎二投手は2人とも真っすぐが物凄く強く、個人的にとても好きな投手です。

 特に、大勢投手は2月に侍ジャパンの宮崎合宿を観に行った時に初めて見て、今までに見たことがないレベルの球の強さに驚きました。巨人の投手に聞いたら「今までキャッチボールした中で断トツで球が強い」と。そう言われるのも納得です。

「真っすぐの強さ」を作り出すものは、完全には科学的に証明されていない部分だと思っています。いろんな要素があり、一つはボールに自分の重さ×速さをぶつける能力が2人とも凄く高いこと。もう一つは面白い共通点ですが、2人ともリリースポイントがあまり高くないこと。大勢投手はサイド気味で、上から投げる高橋投手も(ホーム側に)しっかりと距離を出して、上から叩くというより、若干重心が下がる様な形。打者は手元でボールが浮かび上がってくる様な印象だと思います。

 実は、ベース板にボールが入る角度(入射角)がメジャーリーグでは「アプローチアングル」と言われ、スコア化されていると聞きます。2人はおそらくベース板の入射角が限りなく水平に近い。日本ではまだその様な指標を見ることができませんが、良い指標だと思いますし、これが他の投手と最も違う点ではないでしょうか。

 ともに150キロを超えますが、球速だけじゃない強さがある。結局は打者が強く感じるかどうか。この入射角の考え方は今後の投手のトレンドの一つになっていくと個人的には思います。球が速い投手の特徴は背が大きいことも一つですが、背があまり高くない投手でも高めの真っすぐを使って抑える術のヒントになる気がします。

 アマチュアも同じですが、打者の打ち方に合わせて、投手が打ちづらいボールを投げる、イタチごっこのような形が野球の基本。高めの真っすぐを下からふかせるように投げる感度をいち早く持った投手が活躍しやすい状況なのかもしれません。

大切なことは変化量などの数値より「打者の感じ方」

 大勢投手は真っすぐがシュート回転することが特徴的で、気になる人もいるかもしれません。

 現在はどうしても回転と変化量、回転軸などのデータに惑わされやすい状況です。確かに3、4年前はその情報すらなかったので決して悪いことではないですが、おそらくメジャーリーグはその次元を超えている段階。球の変化量などよりも大切なものがあると感じています。

 腕の振りなりに球はシュートするもの。ホップ成分という球の変化量で言えば大勢投手もそこまでではないかもしれません。でも、なぜ抑えられるかというと、データ上のホップ成分と打者が感じるホップ成分が違うから。大事なのは「打者の感じ方」ではないでしょうか。

 数字はあくまで自分の状態を測ったり、自分のピッチングの中で作り上げていく中で使えばいい。

 数字で人と比べてどうかは当然大切ですし、最初は分からないから真っすぐや変化球を「○○投手の回転数に近い、変化量に近い」と真似ていくのもいい。でも、あくまで自分の中で打者を抑える良い球の指標を養えたら、本当の意味でラプソードやトラックマンのデータを使えてくる。

 データの活用という点で、例えば、ダルビッシュ有投手はその深い部分まで入り込んでいると思います。日本代表の選手たちがいろいろ話を聞けていると思うので、それをまたチームに持ち帰って、きっとここから先、良い循環が生まれる。プロ野球がやり始めたらアマチュアも真似し出します。

 これからは球がただ速いとか回転数や変化量がただ多いというだけではなくて、頭が良くて感度が高い選手がより活躍しやすくなるのではないでしょうか。

■内田聖人 / Kiyohito Uchida

 1994年生まれ。早実高(東京)2年夏に甲子園出場。早大1年春に大学日本一を経験し、在学中は最速150キロを記録した。社会人野球のJX-ENOEOSは2年で勇退。1年間の社業を経て、翌2019年に米国でトライアウトを受験し、独立リーグのニュージャージー・ジャッカルズと契約。チーム事情もあり、1か月で退団となったが、渡米中はダルビッシュ有投手とも交流。同年限りでピッチングストラテジストに転身。2020年に立ち上げたパフォーマンスアップオンラインサロン「NEOREBASE」は総勢400人超が加入、千賀滉大投手らプロ野球選手も多い。個別指導のほか、高校・大学と複数契約。今も最速155キロを投げる。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)