「冷めた食べ物」はまったく売れないのだが…それでも台湾で「崎陽軒のシウマイ弁当」が大ヒットしたワケ
※本稿は、御堂裕実子『成長戦略は台湾に学べ』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■日本の価格よりずっと高いのでは売れない
台湾の企業を相手にビジネスをする日本企業が犯しがちな間違いは、日本の売り方を台湾の企業相手にも適用しようとすることです。しかし、これをすると商談はなかなか成立しません。
例えば日本だと、商品の卸値は定価の6掛けや7掛けをしたものが一般的な相場です。そこで日本の企業の多くは、この計算をそのまま用いて6掛けの値段で台湾の輸入業者に商品を卸そうとします。ところが、台湾側では輸送コストや関税諸税、販売先への手数料などが上乗せされるので、日本の卸値を適用すると価格がかなり跳ね上がってしまいます。価格が高くなれば消費者にとって求めにくいものになり、これでは思ったような売り上げも望めません。
台湾の業者も消費者もクレバーなので、日本のモノを購入する際には、日本のECサイトで小売価格を調べ、価格の妥当性をしっかりと検討します。調べた結果、日本での小売価格とあまりにかけ離れているようなら、購入を控える場合もあるのです。
■日本の食べ物は大好きだけど、「佃煮」は不人気なワケ
台湾の消費者は値段にとても敏感であり、売り手は常に割引やセールを求められます。これをするには、卸値をどうしても下げなくてはなりません。6掛けでは話にならず、5掛け、もしくはさらに値段を下げなければ買い手がつかないのです。それができずに苦労している日本の業者を私は何度も目撃してきました。
台湾のマーケットをしっかりと理解していない日本の企業もちらほら見かけます。
「台湾は親日だから、日本のものなら何でも売れるだろう」
勝手にそう思い込み、日本の工芸品を売ろうとする企業がたまに出てくるのです。しかし日本の工芸品は台湾ではあまり売れません。台湾でビジネスをしようと思ったら、「台湾人は日本の何が好きなのか」をしっかりと把握する必要があります。
台湾の人たちは日本の食べ物が大好きなことは間違いありません。それは事実なのですが、佃煮のような食品を売るのはとても苦労します。その理由は、台湾では白米に対する考え方が日本とは少し異なるからです。
■「熱々ご飯のお供に」というフレーズは響かない
日本の場合、主食はあくまでもお米であり、おかずは副食という考え方を持っている人が多いのではないでしょうか。一方、台湾では、美味しいおかずが主食であり、白米はあくまでも副食と考える人が多いのです。したがって、副食の“添えもの”である佃煮にはどうしても食指が動きません。
日本ほど白米の品質が良くないことが影響しているのか、白いご飯よりもおかずを重要視する傾向が強いのです。そうした背景があるため、日本のような“熱々ご飯のお供に”というフレーズは台湾ではあまり響きません。
佃煮の販売促進を依頼されたときは、佃煮だけを売るのではなく、小ぶりのおにぎりの試食を提供しながら、瑞々しい日本米とのセット販売をするという方法を採用しました。
日本と台湾の間には似ている部分はたくさんありますし、日本の商品が受け入れられる土台はあります。しかし、ビジネスをする際には異なる習慣にも目を向けないと死角を突かれてつまずいてしまうことも考えられます。この点には十分留意をしておいたほうがいいでしょう。
■日本のリンゴは人気だが、スイカは不人気
日本人が陥りやすい勘違いは、ほかにもあります。
台湾では日本の果物はとても人気です。それをどこかで聞きつけたのか、事前に厳選するというプロセスを踏まずに、とにかく日本から果物を持ってこようとする業者がいます。しかし、日本の果物が人気の台湾といえども、何でも売れるというわけではありません。
例えば、日本のリンゴは人気ですが、それは「赤」が縁起の良さを象徴するものであり、リンゴ(中国語で「蘋果(ピングオ」)の蘋の発音が「平安(ピンアン)」の「平」の発音に似ているから好かれているのです。「1日1個リンゴを食べていれば風邪をひかない」と昔から家庭で言われ、健康食品と見なされていることも人気に関係しています。台湾で栽培されているものよりも品質が良い点も人気の理由の1つです。
しかし、スイカとなると話は変わります。台湾のスイカはとても甘みがあって美味しく、サイズが大きいのにもかかわらず安価です。そうした事実を知ってなのか、もしくは知らないでなのか、日本のスイカを台湾で売り込もうとする日本の自治体があったりします。当然ですが、前もってしっかりと台湾の実情を調べておかないと、失敗する確率は高くなるばかりです。
■台湾の崎陽軒では、熱々のシウマイ弁当を提供している
果物に限らず、食についての勘違いは本当によく起こります。
台湾では中食(なかしょく)文化が発達しており、テイクアウトを利用する人がたくさんいます。
台湾の中食が日本のものと明らかに異なるのは、どの店も熱々の食べ物を提供している点です。その違いは、台湾の鉄道駅で売られている駅弁を見るとよくわかります。
冷めた食べ物はおいしくないと考える人が多いため、台湾の駅弁は熱々のヒーターの上で温められたものが販売されているのです。駅弁を買い求めた人の中には、食べ物が冷めてしまうのを嫌い、買ってすぐに待合室で食べ始めてしまう人もいます。
駅弁についてさらに言うと、2020年にシウマイで有名な崎陽軒が台湾のセントラルステーションである台北駅に海外1号店を出店したことが話題になりました。
崎陽軒にとって新たな試みとなったのは、セイロに入った熱々のシウマイをその場でお弁当に詰めて提供することでした。事前の調査により、崎陽軒は「日本のように冷たいままのシウマイ弁当では台湾では絶対に売れない」とわかっていたのです。
「作り置いたものや冷めたものは貧しい人の食べ物……」
台湾人が心のどこかに抱く感覚に気配りができた崎陽軒は、シウマイ弁当の好調な売れ行きを見事、実現することができました。
■セブンイレブンでは、「韓国風カニミソ味」のおにぎりが人気
一方、セブン‐イレブンが台湾に進出したときは、苦戦を強いられました。セブン‐イレブンの売れ筋である「おにぎり」がまったく売れなかったのです。作り置きの冷めたおにぎりはなかなか受け入れられず、浸透するまでにかなり時間がかかりました。
結果としては、以前から日本のドラマやアニメに頻繁に登場するおにぎりに興味を持つ人が買い求めたことで、徐々に受け入れられていきます。
その後、コンビニ総菜も台湾の人たちの生活のなかにすっかりと溶け込み、現地の味覚や習慣に合わせたオリジナルのおにぎりやおでん(関東煮)、ちまきなどが次々と開発されるようになりました。最近では、韓国風カニミソ味のおにぎりが人気のようです。
屋台やデパートの催事場で食べ物を販売する際にも、台湾独特の売り方があります。これらの場所で食品販売をするなら、試食サービスがつきものなのです。試食ができない食品には、誰も興味を持ってくれません。
■同じ商品でも、どこで売るかによって販売方法は大きく変わる
私自身が実際に台湾で日本の抹茶をプロモーション販売したときも、現地の人たちにできるだけアピールできるように工夫を凝らしました。
台湾では日本の茶道に興味や憧れを持つ人が多いという状況を活かし、単に抹茶を試飲してもらうのではなく、茶室を模した仮設スペースでまずは甘いらくがんを味わってもらい、そのあとに本格的な茶器で立てた抹茶を試飲してもらいました。
また、ギフト包装をした「茶道セット」を用意したところ、1日に100セット以上が売れる盛況になったのです。
同じ商品を売るにしても、どこで売るかによって販売方法は大きく変わります。話題が台湾から逸れますが、アメリカで抹茶のプロモーション販売をしたときは、アメリカ人が抱く「抹茶=健康ドリンク」というイメージを活かし、豆乳と抹茶をシェイクしたものを試飲してもらうことで抹茶の魅力をPRしました。
このように、台湾を含め海外でビジネスをしようと思ったら、現地の状況に合わせて販売手法を柔軟に変えていくことが重要なのです。
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御堂 裕実子(みどう・ゆみこ)
日台ビジネスコンサルタント
1979年東京生まれ。明治学院大学卒業後、日本での広告代理店勤務を経て、台湾国立政治大学へ留学。帰国後2008年に日本企業の台湾進出サポート事務所、合同会社ファブリッジを立ち上げる。2017年には台湾Fabridgeを設立。日本の地方自治体のアウトバウンド支援や、食品会社、不動産企業、教育事業など様々な業界の台湾進出を手がけ、支援企業は200社を超える。
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(日台ビジネスコンサルタント 御堂 裕実子)