オランダ戦に先発したキューバのジャリエル・ロドリゲス【写真:Getty Images】

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WBC世界の投手たちをピッチングストラテジスト・内田聖人氏が分析

 いよいよ開幕した野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。「THE ANSWER」では、多くのプロ野球選手を含め400人以上が参加するパフォーマンスアップオンラインサロン「NEOREBASE」を主宰し、最速155キロを投げる自身を実験台にしてピッチング理論やトレーニング理論を発信するピッチングストラテジスト・内田聖人氏が、独自の目線で世界の投手を分析する。今回は8日にプールAの開幕戦(台中)からキューバのジャリエル・ロドリゲス投手。日本の中日に在籍し、昨季は最優秀中継ぎ投手に輝いた右腕は、オランダ戦に先発としてマウンドに上がり、4回を3安打1失点6奪三振と好投した。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 ロドリゲス投手はさすがのピッチングでした。オランダ打線もやや全盛期を過ぎた感はありますが、メジャーリーガーもいて、ウラディミール・バレンティン選手(元ヤクルト、ソフトバンク)を含め、一線級で活躍してきた人がいる中で4回1失点の好投でした。

 球種はまず、真っすぐが速く、常時150キロ台中盤から後半くらい。そして、縦スライダーといわれる変化球です。もともと日本球界でも縦スライダーはどの打者もマークしているボール。この縦スライダーが、今回はカーブとスライダーの中間に近い印象でした。

 日本のシーズン中はもう少し大きいいわゆるスラーブのような変化のイメージでしたが、今回はボールの関係もあるのか、変化はもう少し小さく、真っすぐの軌道に入っているボールが多かったです。これはどちらが良い悪いということはありません。

 ロドリゲス投手が特徴的なのは、投げる腕のアングル(角度)を変えることです。

 球種によって上から投げたり横から投げたり。ボールの変化は投げ方なりに変わるので、スライダーを大きく縦に入れて空振りを取りたい時は横に滑らせる。縦と横の投げ分けがすごく上手い。例えば、去年の大谷翔平投手(エンゼルス)もそうでした。伊藤大海投手(日本ハム)も、ダルビッシュ有投手(パドレス)も観ている側には分からない程度かもしれないですが、変えている。これは今後の野球のトレンドなのかなと思っています。

 当然、打者も腕のアングルを変えたことは気づきます。それでも、球の変化量も変わります。右打者に横からスライダーを投げたら、自分の背中の方から入ってくるように見えたり、もしくは今まで外角のストライクゾーンに入る軌道だったものがボールになったり。いろんなバリエーションで投げている分、手が出てしまいます。

 投手は打者を見ながら、それを変えていく。この打者は「外のスライダーを追っかけるな、振りそうだな」と感じて、縦に落とすより横に逃がした方が空振りを取れると思って角度を変える。あと、スライダーは低めを空振りさせるイメージがありますが、球速が出る投手は高めで差し込んで外野フライもある。その時も縦に落とすより横に滑らせて外野フライを打たせる選択もできます。ロドリゲス投手も打者を見ながら投げているので、頭が良いのだと思います。

 これはアマチュア選手も一つ学べるところ。アマチュアでもレベルの高い選手なら打者を見ながら腕のアングルを変える戦略がだんだんと出てくると思うので、取り組んでみてもいいと思います。

注目が集まる縦スラより「真っすぐがより凄い」

 確かに、野球界ではよく言われる「真っすぐと変化球が同じ腕の振り」ということは大切な技術です。もちろん、真っすぐと同じように発射させて、打者に真っすぐと思わせたいボールは、真っすぐの時に近しい投げ方、リリースポイントの方がいい。

 でも、真っすぐに思わせなくてもいいボール、それ以上に変化を重視するボールは意図的に変えてもいい。打者を抑えるためにこういう変化をさせた方がいいから……と逆算して投げ方を変える選択は、今後もあると思います。

 昨年、それこそ大谷投手が分かりやすく体現していました。左打者の外からストライクゾーンに入れる時、右打者の外にボールを投げる時に明らかに横から投げていました。ただ、勘違いしてはいけないのは、これは球速ありき。球速がないとリスクがある技術ということです。

 ロドリゲス投手はどうしてもスライダーに注目が集まりますが、個人的には真っすぐがより凄いと感じています。

 球速が速く、しかもカット系の真っすぐ。例えば、右打者の外角の高めに行った時はカットしながら浮き上がるような軌道。昔のメジャーリーガーでいえば、マリアノ・リベラ投手(元ヤンキース)、最近ならケンリー・ジャンセン投手(レッドソックス)のようなクローザータイプの真っすぐです。

 逆に、これは意図的に投げているのかは分かりませんが、低めに行った時はそのままややスライドしながら、打者からすると落ちるくらいに感じる真っすぐ。それを150キロ台中盤から後半くらいの球速で投げているので、個人的には一番凄いボールと思っています。

 スライダーはもちろん一線級ですが、この真っすぐはなかなか投げる投手はいない……というか投げられない。球速が速い、これだけの“真っスラ”。しかも、今回も先発でも今回も常時150キロ台中盤が出ていて、さすが。また日本で先発投手として活躍する日が来るかもしれません。

■内田聖人 / Kiyohito Uchida

 1994年生まれ。早実高(東京)2年夏に甲子園出場。早大1年春に大学日本一を経験し、在学中は最速150キロを記録した。社会人野球のJX-ENOEOSは2年で勇退。1年間の社業を経て、翌2019年に米国でトライアウトを受験し、独立リーグのニュージャージー・ジャッカルズと契約。チーム事情もあり、1か月で退団となったが、渡米中はダルビッシュ有投手とも交流。同年限りでピッチングストラテジストに転身。2020年に立ち上げたパフォーマンスアップオンラインサロン「NEOREBASE」は総勢400人超が加入、千賀滉大投手らプロ野球選手も多い。個別指導のほか、高校・大学と複数契約。今も最速155キロを投げる。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)