「ビキニの女王」と呼ばれ、国内大会7連覇を達成している安井友梨さん【写真:松橋晶子】

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THE ANSWER的 国際女性ウィーク1日目「ボディメイク」安井友梨インタビュー後編

「THE ANSWER」は3月8日の国際女性デーに合わせ、さまざまな女性アスリートとスポーツの課題にスポットを当てた「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を今年も展開。「スポーツに生きる、わたしたちの今までとこれから」をテーマに1日から8日までアスリートがインタビューに登場し、これまで彼女たちが抱えていた悩みやぶつかった壁を明かし、私たちの社会の未来に向けたメッセージを届ける。1日目は近年注目される競技、ビキニフィットネスの女王・安井友梨が登場する。

 今回のテーマは「ボディメイク」。女性のボディビル競技の一つとして台頭してきたビキニフィットネス。健康的な美しさや筋肉とともに、ヘアメイクやコスチュームなど女性ならではのポイントも評価項目とされる。30歳で競技を始め、わずか10か月で日本一になった安井は以降、外資系金融のOLをしながら国内大会で7連覇、世界選手権で2度の準優勝に輝いた。競技の第一人者であり、昨年11月には「情熱大陸」にも出演するなど、女性が支持する女性として認知される。

 後編で明かしたのは日本一を達成し、競技の「顔」となって味わった苦悩。そして、安井が競技生活で実践している目標達成のセルフコントロール術、時代とともに変わる女性の「美しさ」の定義について考えを語り、来年40歳を迎える自身の未来についても想いを明かした。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 毎晩のように飲み会で酒を飲み、ラーメンで締める生活だった、自称「何の取柄もないぽっちゃりOL」が30歳でビキニフィットネスと出会い、わずか10か月で日本一に。しかし、その日を境に安井友梨は競技との向き合い方が変わった。

「30歳を過ぎてダイエット目的で競技を始め、急に『君がチャンピオンです』となっても、その人間性を全く備えていない。小さい頃からスポーツエリートで訓練されてきた方とは全く違う。チャンピオンとはどういうものか、どうすれば真のチャンピオンと認めていただけるのか、人間性を追い求める戦いが始まりました」

 元来、負けず嫌い。自分と24時間向き合い、徹底的に追い込み、ビキニフィットネスという競技を背負った。

 外資系金融でフルタイム勤務の営業職。午前5時に起床、6時にウォーキング。8時に出勤し、1日6食をこまめに取りながら、午後5時の退社以降はジムはもちろん、日によってウォーキング、ポージングといった競技に関するさまざまなレッスン、エステなどを分刻みでこなし、日付が変わる頃に帰宅する日々。

 体重が70キロにまで戻るオフシーズンからシーズン中は50キロまで20キロ減らし、ウエストも88センチから53センチまで35センチ絞り込む。

 血の滲む努力で7年連続日本一を達成したが、31歳で初出場した世界選手権は予選落ち。海外選手は骨格的に手足の長さも違い、当時は「(日本人は)DNAレベルで5000年かかっても無理」と言われた。しかし、武器のウエストを「世界一細い」と評されるまでに磨き、2021年から2年連続準優勝。世界を認めさせた。

 競技を始めて8年あまり。ここまで戦う原動力となったのは「ビキニフィットネスをスポーツとして認めてもらいたい」という情熱だ。

「いつか、この競技をスポーツと認めてもらう日が来ると信じて、笑い者になっても『それまでは絶対やめないぞ』と突っ走ってきました。大きかったのは昨年11月の『情熱大陸』出演。五輪競技やメジャー競技の皆さんと同じように取り上げていただき、認めていただける第一歩を踏み出せたのかなって」

 放送後の反響は大きく、特に同業者から「この競技をやっていることを誇りに思えた」「会社に認知されて有休が取りやすくなった」「競技を始めるのに反対していた親にOKをもらえました」などのメッセージが多く届いたという。

「でも、本当の戦いはここからです。こんな風に取材していただける日が来るなんて、8年前は思っていませんでした。ひとつひとつ、いろんな夢が叶っている瞬間でもあるので、これからも、いつか私の後に続く方々のためにもビキニチャンピオンの間にできることはなんでもやらせていただきたいです」

 立場は、人を変える。その言葉と覚悟は、まさにひとつの競技を背負うトップアスリートのそれである。

トレーニングは「ボディメイクではなく、ライフメイクができるもの」

 こんな風に日常を記すと、安井は完璧の人間のように映る。しかし、本人は自分の弱さを認めている。認めているから、弱い自分をどう扱うかも知っている。

 安井のセルフコントロール術は、現代社会の女性にとっても参考になるものだ。

「大人になると、誰からも褒められませんよね。だから、とにかく自分で自分を褒めてあげる。自分自身が私の一番の応援団です。本来は運動嫌いなので、いまだにジムに行く前は毎日嫌なんです。でも『ジムに行けば100点満点』『会員証をピッとやればOK』と決めてあげる。行ってしまえば、自然とやる気が出てくるので。

 女性特有の波もあるし、体調が良くない日はストレッチを30分するだけでいい。ゴールテープを小さくして、その小さいゴールテープを切り続けること。小さい成功体験を重ねること。やらないという選択肢を一度作ると、自分の中で習慣化されてしまうから。自分で自分の機嫌を取ってあげるとモチベーションも保てます」

 “やれば、変わる・伸びる”が実感できるボディメイクは、仕事への向き合い方も変えた。「トレーニングも最後の本当にきつい1回をやるかやらないかで、成長するかしないかもすごく変わるもの」。先延ばしにして諦めがちだった、対応が難しい顧客や案件に挑戦し、営業成績やスキルが上昇。仕事も充実感が増した。

 自分の限界を自分で壊し、自分の可能性を自分で信じる。それは、安井がトレーニングから得た最大の学びだ。

「今日よりも明日ダメに、今年より来年もっとダメになる。あれもできていたのに疲れやすくなる、そんなことばかり。30代になると会社での立ち位置が分かって『支店長は無理っぽいな』『年収はこれくらいだな』と人生が見えてきてしまいますよね。私もそう思って、限界を自分で決めてしまっていました。

 今は何歳になっても『明日が自分の中で一番良い日なんだ』と思える。それはビキニフィットネスと出会ってから。毎日1秒も無駄にしないで脇目も振らず、世界一に向けて頑張っていける。仕事と両立し続けたのもOLの星じゃないですが、あえて厳しい道を進んだ方が周りの方に希望になると思ってのことでした」

 その経験があるから、安井はトレーニングの価値を「ボディメイクではなく、ライフメイクができるもの」と表現する。

 そして、ビキニフィットネスを「一般の方にもぜひ始めていただきたい。女性の『美しくなりたい』を叶えてくれるスポーツですから」と勧める。

「頭のてっぺん足の先まですべてが競技の審査項目です。コスチュームを選ぶセンス、アクセサリー、ヘアメイク、髪の艶や筋肉はもちろん姿勢、ウォーキング、ステージング、ネイル……。努力すれば、大会のたびに自分史上最高の美に挑戦できる。女性らしい美を求められるがゆえに365日気をつける生活になります。ぜひ挑戦してみてほしいです」

 安井流の美しいカラダ作りは女性にとって気になるところ。こだわりのひとつは「とにかく栄養をたくさん摂ること」だ。

「私は競技を始めて1日6食の分食にしました。それまで1日1食の生活で、すごく太りやすくて。一度にたくさん食べて吸収できる量は限られているので、体脂肪になってしまう。ちょこちょこと3時間おきに栄養を吸収してあげると体にも優しいし、栄養吸収も効率的で、筋肉を育てることできて、太りにくくなると思います」

 カロリーや糖質の“数字”だけを見て、ダイエットに走ってしまいがち。安井は「糖質は絶対に摂った方がいいです」と言う。

「私が控えるのは脂分。揚げ物、オイルなどです。玄米や雑魚米、白米も食べるし、糖質はがんがん摂ります。逆に糖質を摂らないと、運動しても痩せにくい。食べて動いて、健康的にダイエットするためには、糖質も摂りながら運動するというサイクルに入るとアメ車みたいな体になれる。座っていても脂肪が燃え始めます」

 こうした実体験に基づいたアドバイスは好評で、安井が発信するボディメイクの著書やイベントは人気を博している。

安井が考える「美しさ」の定義は「“自分らしくあること”です」

 今回は国際女性デーに合わせたインタビュー。時代とともに、女性の在り方は変わる。美しさを競い合うビキニフィットネスで世界の頂にいる今、女性の「美しさ」をどう定義するのか。

「私が思うのは“自分らしくあること”です。他の誰かと比べるのではなく、無理することなく自分の歩幅で、自分が一番良いと思うものを追求していくのが一番、自分らしいと感じます」

 言うなれば「男性ウケ」でも「女性ウケ」でもなく「自分ウケ」。

「私も20代までは○○ちゃんと比べてどうとか、いつも思ってばかり。でも、今はとにかく去年の自分より、昨日の自分より良くなりたい。そんな自分らしさを前面に表現できれば、きっと一番美しい。誰に笑われてもいい。プライドは捨てて、私らしくいようと。私らしくいると決めた瞬間に美しさは始まると思っています」

 今年1月、大きな転機があった。14年間勤めてきた銀行を退職。日本事業の撤退と閉鎖という外資系特有の事情によるもの。しかし、本人は至って前向きだ。

「失わなければ、手にできないものがあると思うんです。最初に入った証券会社を辞めた途端、銀行員になったり。今度は銀行員を辞めたら、今は本当にたくさん声をかけていただけたり。だから、私は新たな可能性の扉を開けるのはいつもワクワクするんです。もし、まだ自分の可能性が見つからない人がいるなら、方法はただ一つ、次の扉を開けるだけ。1000回開けてダメなら1001回開けるぞって、私は思います。

 私も20代までは失敗しないことばかり考えていました。どうすれば失敗しないかというと、バッターボックスに立たないこと。でも30歳を過ぎてからは、とにかくバッターボックスに立って何回空振りできるかと思って生きてきました。成功する一番の近道は、まずやってみること。銀行員を辞めて今後がどう開けていくかわからないですが、これもきっと何かの縁。どんな人生が待っているか、本当に楽しみです」

 競技人生の集大成として世界一をかけ、挑んだ昨年10月の世界選手権は2年連続準優勝。もう一年、競技を続けることを決めた。今年1月で39歳になった。人生を変えた30代が終わり、不惑が近づく。しかし、安井は「『Age is just a number(年齢はただの数字)』と思っています」とほほ笑む。

「30歳で日本一になって、35歳でアジアチャンピオンになって、37歳で世界選手権で準優勝し、38歳でもう一度、準優勝。30歳の自分より39歳の自分ができることがどんどん増えて、自分と未来はもっと変えられると思っています。39歳から40歳になろうとする自分にも今は楽しみしかありません」

 彼女が大切にしている言葉がある。「人生最高の瞬間は、未来にしかない」。昨日よりも今日。今日よりも明日――。安井友梨は、いつも前だけを見ている。

【ビキニフィットネス・安井友梨から「今、『変わりたい』と考えている女性へのメッセージ」】

「『どうせ私なんか』と決めつけず、何度失敗しても今度こそはと挑戦を繰り返すこと。私は諦めの悪さが人間の可能性の扉を開いていくと思っています。バスケットボールのマイケル・ジョーダンが好きなんですが、彼は『私が成功した理由は試合でシュートを9000回ミスしたからだ』と言ったそう。私は9000回も何かミスしたことはない。ジョーダンが9000回も失敗しているなら、私も9000回失敗するまでやればいい。

 失敗という年輪を重ねた大木は決して折れることはない。転びながら前に進めばいい。失敗を恐れて一歩、前に出られないのがかつての私でした。転びながらでも、前転してでも、前に一歩でも出れば絶対に何か掴める。転んでそこで終わってしまえば、失敗になってしまう。私も世界選手権で(世界一挑戦に)7回失敗しても、8回挑戦したいと思っています。“できるか・できないか”ではなく、“やるか・やらないか”です」

 ※「THE ANSWER」では今回の企画に協力いただいた皆さんに「新しい一歩を踏み出す時に大切にしていること」「今、『変わりたい』と考えている女性へのメッセージ」を聞き、発信しています。

(THE ANSWER的 国際女性ウィーク2日目は「女性アスリートと出産・育児」、レスリング・金城梨紗子が登場)

■安井 友梨 / Yuri Yasui

 1984年1月13日生まれ。愛知・名古屋市出身。幼少期のスポーツ歴はソフトボールとバレーボール。大学時代は和菓子好きが高じて茶道部。30歳にビキニフィットネスと出会い、競技歴10か月で出場した2015年からJBBFオールジャパンフィットネスビキニ選手権7連覇中。外資系金融のOLをしながら、2019年アジアビキニフィットネス選手権優勝、2021年から世界フィットネス選手権2年連続準優勝。同年元日のTBS系「マツコの知らない世界」に年1200個食べる「おはぎ好き」として出演し、話題に。以降、数々のバラエティー番組やフィットネス番組に出演。2022年11月にはTBS系「情熱大陸」で特集された。今年1月に勤務していた外資系金融が日本事業撤退に伴い退職。新たなキャリアを模索している。

<3月5日「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」オンラインイベント開催>

 オンラインイベント「女性アスリートのカラダの学校」を3月5日に開催する。アスリートや専門家が女性アスリートのコンディショニングについて議論を交わしながら、参加者の質問にも答える。第1部は「月経とコンディショニング」をテーマにスポーツクライミング東京五輪銅メダリスト・野口啓代さんをゲストに迎え、月経周期を考慮したコンディショニングを研究する日体大・須永美歌子教授が講師を担当。第2部は「食事と体重管理」をテーマに体操でリオデジャネイロ、東京五輪2大会連続団体入賞の杉原愛子さんをゲストに迎え、公認スポーツ栄養士の橋本玲子氏が講師を担当。1、2部ともに月経など女性アスリートの課題を発信している元競泳日本代表・伊藤華英さんがMCを務める。参加無料。応募は「THE ANSWER」公式サイトから。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)