「新卒社員の3年後定着率」が高い300社ランキング
「新卒社員が辞めない会社」をランキング(写真:ヤシの木/ PIXTA)
2023年3月期から有価証券報告書に人的資本の記載が義務付けられる。これまで、こうした情報はサステナビリティ報告書やアンケート等で公表されてきた。開示情報になることで、質量ともに向上していくことが期待されている。
さて、今回はこの人的資本に関連するデータの1つと考えられる「新卒社員の3年後定着率」をご紹介する。定着率は『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』2023年版掲載データを基に作成し、高い順に300社をランキングした。
対象は、2019年4月の入社人数(3人以上)と3年後の2022年4月1日時点の在籍者数を開示している1246社だ。301位以下の800位までの詳細ランキングなどは、今年4月に発売予定の『CSR企業白書』2023年版に掲載するので、そちらも参考にしてほしい。
1位の定着率100%は92社
ランキング1位の定着率100%には92社が並んだ。そのうち、2019年4月入社の人数が最も多かったのは四国電力で92人。同社は、若手社員に「新規事業提案機会」を提供するなどビジネスの多角化を見据えた人材育成に積極的。スキルアップとしての「国内留学・海外留学」の支援もしている。
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働きやすさに関しても、フレックスタイム制度や時間単位休暇などの制度だけでなく、サテライトオフィスでの勤務が可能になる仕事場所を限定しない制度を導入している。このように人材育成への手厚い支援とワーク・ライフ・バランスの充実が新卒社員の定着につながっている。
続いて多かったのはISID(電通国際情報サービス)で39人。同社は、職階に応じた教育体系を構築し、求められるスキルに応じた研修で、社員一人ひとりの能力開発を進めている。
さらに、三菱グループの総合不動産である三菱地所が37人で続いた。若手社員のスキルアップとして「新規事業提案機会」、「子会社社長」、「ベンチャー企業出向」などの成長機会を多く提供。また、業務時間の10%を業務外チャレンジへ時間投資するルールを設けるなど、自律的な人材育成にも力を入れている。
以下、森永製菓(入社人数33人)、高砂香料工業(同33人)、アドバンテスト(同30人)、アズワン(同28人)、りらいあコミュニケーションズ(同26人)と続く。
惜しくも定着率100%に届かなかったのは、93位日立システムズ(定着率99.0%)、94位味の素(同98.9%)、95位任天堂(同98.8%)などだった。
日立システムズは、若手社員に対する「新規事業提案機会」の提供や「社内公募制度」を導入し、社員の意欲的な活動を後押しする。
味の素は、世代と成長段階に合わせた育成プログラムを実施。27〜30歳の社員を対象とした「若手キャリア研修」では、同世代とともに今後のキャリア開発を考える。
任天堂は、同性パートナーがいる社員について、社内規定で婚姻と同等に扱う「パートナーシップ制度」を導入するなど、ダイバーシティー関連の取り組みを推進する。
以下、96位に定着率98.6%で、中外製薬(入社人数73人)、大日精化工業(同71人)が続いた。
女性の3年後定着率ランキング
さらに、女性の働き方やキャリアの多様化にも着目して、本ランキング掲載企業を対象にした女性の3年後定着率ランキングを見ていきたい(『CSR企業白書』2023年版にはこのランキング表も掲載予定)。
ランキング1位の定着率100%には209社が並んだ。このうち2019年4月入社人数が最も多かったのは、日立システムズの73人。これに島津製作所(52人)、サントリーホールディングス(46人)が続く。
いずれも出産・育児などで退職した女性の再雇用制度やフレックスタイム制度、テレワークなどの場所を問わない働き方など、長期的に働くことができる環境を整えている。
また、女性管理職比率の向上にも積極的に取り組む。とくにサントリーは女性管理職比率が13.8%と比率でも高い水準にある。「私生活とキャリアの両立」は、女性に限った話ではないが、働き方が多様になるなか、以前よりも重視されてきそうだ。こうした上位企業の取り組みは他社も参考にすべきだろう。
新卒3年後という時期は、仕事にも慣れ、徐々に自身のキャリアを振り返り始めるタイミングとなる。先輩社員を見ながら今後のキャリアプランに悩み始める人も増えてくる。将来のキャリア像をどのように従業員に見せていくかは企業にとって大きな課題となりそうだ。
新卒3年後定着率が高い業界・低い業界
さて、全社データを基に作成した新卒3年後定着率は平均80.2%(2022年4月時点)。10社以上の業種では、精密機器(91.4%)、電気・ガス業(90.8%)、医薬品(90.5%)などが高い一方で、小売業(68.6%)、サービス業(67.2%)、証券・商品先物(65.4%)など低い業種もある。
平均比率の動きも見ていこう。5年前の2018年版は83.7%(2017年4月時点)。以後、2019年版82.3%(2018年4月時点)、2020年版81.1%(2019年4月時点)、2021年版80.6%(2020年4月時点)、2022年版81.3%(2021年4月時点)とここ数年は低下傾向にある。
この変化がコロナ禍と関係あるかははっきりしない。ただ、ここ数年の新入社員は、テレワークやオンライン会議が普及したなかで社会人生活を送っている。働き方やキャリアプランについて従来の世代とは異なる考え方を持っている可能性もありそうだ。急激な社会変化は、新卒社員の定着率にも影響を与えているかもしれない。
一般的に定着率が高い企業は、若手の育成にしっかりと取り組み、待遇面も良好なことが多い。就職活動中の学生がよい職場選びをする際にも、まずその志望企業の「新卒3年後定着率」を確認することをお勧めしたい。
(伊東 優 : 東洋経済『CSR企業総覧』編集部)