レブロン・ジェームズNBA史上最高のスコアラーに――。歴史的瞬間は現地時間2月7日、ロサンゼルスのクリプトドットコム・アリーナで訪れた。

 カリーム・アブドゥル=ジャバーが持っていた、通算3万8387点というNBAの歴代最多得点記録まであと36得点に迫っていたレブロン。世界的に注目を集めたロサンゼルス・レイカーズvsオクラホマシティ・サンダー戦で、レイカーズの大黒柱は序盤から着々と得点を重ねていった。

 迎えた第3クォーター残り10秒、ゴール正面からのステップバック・ジャンパーを綺麗に沈め、通算3万8388点に到達。NBA20年目のシーズンで38年ぶりにジャバーの記録を更新し、歴代最多得点記録保持者となった。38歳と2カ月にして、"キング・ジェームズ"は世界最高のバスケットボールリーグの得点王になったのだ。


NBAの歴代最多得点記録を更新したレブロン(左)。ジョーダン(右)と比較されることは多くなるだろう

「まずレイカーズの支持者たちに感謝したい。あなたたちは唯一無二の存在だ。偉大なレジェンドであるカリームの目の前で達成できて非常に嬉しいよ。"キャプテン(ジャバーのこと)"にスタンディングオベーションを捧げてほしい。そして美しい妻、娘、2人の息子、友人たち、仲間たち、家族、母。20年もの間、私に関わってくれたすべての人たちに感謝を伝えたい。あなたたちの助け、情熱、犠牲がなければ今の私は存在しなかった」

 ゲームを中断して行なわれたセレモニーで、ジャバーとも抱擁を交わしたレブロンは興奮した表情でそう語った。言葉はシンプルだったが、それゆえに"選ばれし男(The Chosen One)"と呼ばれたスーパースターのリアルな喜びと感激が伝わってきた。

 2003年にドラフト1巡目全体1位でクリーブランド・キャバリアーズに入団したレブロンは、その後、マイアミ・ヒート、再びキャバリアーズ、そしてレイカーズへと移籍し、20シーズン目で金字塔を打ち立てた。

【通算アシスト数でも歴代4位】

 歴代最多得点記録のトップ10を見ると、錚々たるスコアラーが名を連ねている。

【歴代最多得点記録ランキング トップ10(2023年2月7日時点)】

1.レブロン・ジェームズ      3万8390得点

2.カリーム・アブドゥル=ジャバー 3万8387得点

3.カール・マローン        3万6928得点        

4.コービー・ブライアント     3万3643得点

5.マイケル・ジョーダン      3万2292得点

6.ダーク・ノビツキー       3万1560得点

7.ウィルト・チェンバレン     3万1419得点

8.シャキール・オニール      2万8596得点

9.カーメロ・アンソニー      2万8289得点

10.モーゼス・マローン       2万7409得点

 特筆すべきは、もともとレブロンはスコアリングに特化した選手ではなく、このリストにいるスーパースターたちとは一線を画していることだ。

 今回の得点記録更新に先駆けて、1月31日のニューヨーク・ニックス戦ではマーク・ジャクソン、スティーブ・ナッシュといった名ポイントガードを抜き去り、通算アシスト数でも歴代4位に浮上。さらに上位には、ジョン・ストックトン、ジェイソン・キッド、クリス・ポールという歴史的なパサーがいるため、この記録はそこまで話題にはならなかった。それでも試合後、レイカーズのダービン・ハムHCが残した言葉は胸に響くものだった。

「過去20年にわたり、ラストショットを打たないことがあることや、『パスをしすぎだ』と批判されることはあっても、レブロンは常に"正しいプレー"を続けてきた。だからこそ、彼は歴史的な選手なんだ」

 レブロンは安定した形で高得点を稼いできたが、NBAのキャリア初期には周囲の選手たちを"巻き込む"ことのほうに大きな喜びを見出している印象が強かった。ハムHCの言葉通り、ゲーム終盤でも自らのシュートで勝負を決めにいくより、ノーマークの選手を見つけることを好む選手と見られるようになった。そういった意味で、レブロンはジョーダンやコービーといった生粋のスコアラーたちとはタイプが違うスーパースターだった。

 キャリア後期もパサーとしての技量は変わらず、2019−20シーズンには平均10.2アシストでアシスト王に輝いた。それほど優れたプレーメイカーであると同時に、年月を重ねるうちにスコアラーとしてもよりハイレベルで安定していった。

 決して得意とは言えなかったジャンプシュートも、キャリア中盤以降に向上。7年目以降の13シーズン中、11シーズンでFG成功率が50%以上(最初の6シーズンはすべて50%以下)だったことがそれを象徴している。

【ジョーダンと同じ土俵に】

 通算アシスト数で歴代トップ10に入っている選手の中で、得点ランキングの10位以内にも入っている選手はレブロン以外に存在しない。そこに、おそらく"NBA史上最高のオールラウンダー"であろうレブロンの特異性と偉大さが見えてくる。ゲームメイカーとして超一流の選手が、スコアラーとしても数字上でナンバーワンになったからこそ、今回の記録達成には特別な価値が生まれるのだ。

 新たな勲章を手にしたレブロンの歴史的な評価は、あらためて取り沙汰されることになるだろう。これまでは、6度の優勝、10度の得点王といったとてつもない実績を残したジョーダンが"史上最高のNBAプレーヤー"と目されてきた。しかし、これほど長く"NBAの王様"として君臨し、NBA史上で唯一、3つのチームを優勝に導いたレブロンも、すでに同じ土俵に上がっていることはオールドファンも否定できないだろう。

 新陳代謝が激しい現代の米スポーツ界において、8年連続を含む通算10度のファイナル進出というレブロンの実績は驚異だ。オールNBAチーム選出、オールスター出場回数、プレーオフの通算得点記録などではジョーダンを上回っているため、レギュラーシーズンの通算得点でも歴代トップに立ったことの意味は大きい。

 プレースタイルが違う両雄を真っ向から比較するのは難しいが、この2人がNBA史上で最高級の選手であることは間違いなく、今回の記録達成をきっかけに優劣を分析する議論は増えるはずだ。

 いまだに、最高の舞台であるファイナルで6シリーズ全勝という勝負強さを見せたジョーダンを上位とする意見は多い。ただ、38歳のレブロンが今後もさまざまな個人記録を塗り替え、さらに優勝回数を増やすようなことがあれば、意見を変える人も増えてくるかもしれない。

NBA歴代最多得点記録保持者になり、スポーツの世界で最も神聖な記録のひとつを更新したレブロンを祝福します。これまで残してきた実績は、20年にわたって優秀な選手であり続けたことを指し示している。驚異的なのは、レブロンがまだエリートレベルでプレーしていて、彼の歴史がまだ書き換えられていることです」

 今回の記録達成後、NBAのコミッショナーであるアダム・シルバー氏が発信したそんな声明は、現在のレブロンの立ち位置を物語っている。

 ひとつの節目を迎えても、NBA の歴史との戦いは終わらない。かつてレブロン自身が「ゴースト」と呼んだ生きる伝説、ジョーダンとの戦いも続いていく。そのバトルの優劣を判断することは難しいが、レブロンと同世代に生きる私たちが、伝説的なキャリアを目撃していることだけは間違いない。