【漫画付き】心拍数と寿命は関係ある? 「人間の寿命は心拍20億回」説について医師が解説

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人間は、心拍数が20億回に達すると寿命が尽きる」という説がありますが、もしそれが本当なら、スポーツをして心拍数が増えると、その分命が縮まって早死にするのでは? と心配になります。果たしてその真偽のほどはいかに・・・・・・。河西内科循環器科クリニックの河西先生にお話をうかがいました。

監修医師:
河西 研一(河西内科循環器科クリニック 院長)

金沢医科大学医学部卒業、医学博士。いくつかの病院での研鑽を経て、横浜市磯子区の林内科医院に勤務。2002年からは副院長に就任。2005年、熱海市に河西内科循環器科クリニックを開業、現在に至る。1989年に慶應義塾大学理工学部機械工学科を卒業後、バブル期に会社員を経て金沢医科大学医学部に編入学という異色の経歴を持つ。2018年11月に、専門性の高いクリニックが複数入るクリニックビルの事実上のオーナーとなり、日本初の多施設共通受付・自動会計システムを導入するなど、医療を通じて様々なことにチャレンジしている。

生物学的には、同じ哺乳類のゾウもネズミも心拍数は20億回で寿命に!?

編集部

まず、「人間の一生は心拍数20億回」というのは本当なのでしょうか?

河西先生

それが本当だとすると、人間の一生は50歳いかないぐらいの計算になってしまいますが、人間の平均寿命は日本人の女性で約87.26歳、男性で81.09 歳(平成29年簡易生命表より)ですから、はるかに超えています。つまり、人間を含む霊長類は、「心拍数20億回が一生」の例外といえます。

編集部

とすると、20億回は何を根拠に出てきた数値なのでしょうか?

河西先生

1992年に発売されてベストセラーとなった『ゾウの時間ネズミの時間』(中公文庫)という書籍がもとになっていると思われます。

編集部

どのような内容なのでしょう?

河西先生

生物学者の本川達雄先生が書かれたもので、“いろんな種類の哺乳類を調査したところ、命が尽きるまでの心拍の数は身体の大きなゾウも、小さなネズミもほぼ一定で20億回だった”という内容が書かれています。そのため、同じ哺乳類の「人間も心拍数20億回」説が広まったと考えられます。

編集部

なるほど、では、スポーツをしていると心拍数が多くなり早死にするという心配はないのでしょうか?

河西先生

はい。スポーツをしていると心拍数が増えて早死にする、ということはありません。運動時にはたしかに平常時よりも心拍数が増えますが、マラソンや水泳などハードな運動を長期にわたってしている方は、運動時の心拍数に心臓が耐えられるよう鍛えられ、一度に多くの血液を送り出すことができるようになります。これを「スポーツ心臓」といい、平常時は一般の人よりも心拍数が少なくて済みます。

編集部

アスリートではないけど、よくスポーツをする一般の方ではどうでしょうか?

河西先生

スポーツを頻繁にしている方でも、1日24時間の中では安静時の時間のほうが長いため、トータルの心拍数が多くなるとは限りません。また、スポーツによる心拍数の増加で早死にする、という研究データもありませんので心配しなくても大丈夫です。

編集部

ただ、心拍数が早くなると身体に悪いのは本当でしょうか?

河西先生

それは間違いないですね。日常生活の中で心拍数が早くなる主な原因は、強いストレスですが、ストレスにより交感神経が優位になると、血圧も高くなり、心不全の可能性も高くなります。簡単にいえば、心拍数が早いと心臓の負担が大きくなり、心臓が早くバテてしまうということです。実際に心拍数が早い人と遅い人を比べると、心臓疾患の罹患率や致死率が高くなるという多くの研究結果が出ています。

健康によい普段の心拍数は、1秒間に1回くらい

編集部

心拍数は、普段どれくらいが健康によいのでしょうか。

河西先生

年齢や体重などによって違いますので一概に言えませんが、1秒に1回が基本と考えていただければよいでしょう。心拍数の正常値は、成人で1分間に50~100回とされています。ただし、同じ正常値内でも、60回の人が運動して1.5倍になると90回ですが、普段80回の人が1.5倍になると120回になり、100回を超えてしまいますから注意は必要です。

編集部

逆に、50回以下の場合ははどうでしょう?

河西先生

普段の心拍数が50回以下と低い場合も心臓病が多いことがわかっています。普段から、自分の心拍数がどれくらいか、1分間の脈拍数をはかって目安を知って、時々確認するようにしましょう。

編集部

心拍数を少なくする方法はありますか?

河西先生

患者さんの中には、日ごろ何でもないときにも心臓がドキドキして心拍数が上がる方がいらっしゃって、そういう方にお話している方法です。まずは、片目をつぶり、その上から手のひらでギューっと押さえます。ちょっと強めで2分間が目安です。2分たったら手を離して30秒ほど休んで、また同じ側の眼球を手の平で約2分間押さえます。深呼吸しながらこれを何度か繰り返しおこなうと、心拍を落ち着かせることができます。

編集部

それは簡単にできそうな方法ですね! どんな理屈なんでしょうか?

河西先生

神経を圧迫することで、交感神経を落ち着かせて、副交感神経を優位にすることができるんです。そうすれば、薬を使わずに心拍数を抑えることができ、リラックス効果も期待できます。ストレスや緊張などで心拍数が上がったときに、ぜひ試してみてください。

適度な運動で心拍数が増えると、体によい物質が出て健康に!

編集部

「適度な運動は身体によい」というのは本当でしょうか?

河西先生

過度なストレスにより交感神経が刺激されて心拍数が高まると、体に悪影響を及ぼすホルモンが分泌されますが、運動により適度に心拍数を上げると、体によいホルモンなどさまざまな物質が分泌されます。その中には、動脈硬化を予防する成分も含まれているため、適度な運動で心拍数を上げることは、血管を健康に保ち、心臓病などを予防する健康効果が期待できます。

編集部

体によい適度な運動の目安はありますか?

河西先生

心拍数からみた適度な運動の目安は、以下の計算式で算出できます。あくまでもこの数値は目標値ではなく、「この心拍数を超えないようにする目安」ですから、この心拍数を超える運動を避けるための目安としてご利用ください。計算式は、もともとはアスリート向けに考えられたものなので、高齢者や病気になった人には、0.4をかけて運動強度を低くして使ってもらえればと思っています。それぞれの方の体の状態に合った運動強度を守れば、心臓に負担をかけないため、健康維持にいいといわれています。この計算式で導き出した心拍数の目安程度の運動を、できれば1日30分以上(10分を3回以上でもOK)を週5日以上実施するのが理想的です。

【運動時の心拍数の目安】(HRR)
( [最大心拍数] - [安静時心拍数] )✖ [運動強度] + [安静時心拍数]

計算式に出てくる「最大心拍数」は、以下で算出できます。

【最大心拍数の計算方法】
[最大心拍数] = 207 - [年齢] ✖ 0.7

「安静時心拍数」は、安静にしているときの1分間の脈拍数です。 [運動強度]は、アスリートの方や筋トレなどの無酸素運動を行う場合は 1.0(無酸素運動)として、有酸素運動(軽いジョギングやヨガなど)の場合は0.7、高齢者は0.4をかけます。患者さんには、状態によって 0.4~0.6で計算するようお話ししています。

編集部まとめ

「人間の寿命は心拍数20億回」の説の出所は、ベストセラーの『ゾウの時間ネズミの時間』(中公文庫)で、ゾウもネズミも寿命までの心拍数が20億回だったという調査結果に基づくものでした。ただし、循環器内科の専門家からすると、霊長類である人類には当てはまらないという見解で、ましてやスポーツをして心拍数が増えたことで、早死にすることはないとのこと。スポーツをすると、たしかに一時的に心拍数は増えるものの、ハードな運動を長期間にわたり続けると、心臓が鍛えられてむしろ安静時の心拍数は少なくなり、トータルの心拍数が多くなるとは限らないそうです。
ただ、過度のストレスによる心拍数の増加は、血管や心臓にとっては良くないため、平常時に心拍数が上がるときは、「片目を手のひらで強めに2分押さえて30秒休む」を繰り返す方法で、交感神経を落ち着かせて心拍数を整えることができます。
一方、適度な運動により心拍数を上げることは、健康に良いことが明らかで、その目安となる心拍数の算出方法を紹介しています。この計算式で算出した目安の心拍数を超えない程度の運動を、1日30分以上(10分を3回以上でもOK)、週5日以上の頻度で行うことが、健康にとっては効果的といえそうです。