2022年CM好感度ランキングは「コロナ禍の反動」を反映。新CM女王・芦田愛菜は「全年齢層から支持」、木村拓哉は「今も計り知れない訴求力」
2022年度のCM好感度トップ10が発表され、コロナ禍3年目の世相を反映したCMがずらりと並んだ。30年以上にわたり好感度調査を行っているCM総合研究所代表の関根心太郎氏に、今年のCMを総括してもらった。
1989年(平成元年)から消費者3000人への月例CM好感度調査を行ってきたCM総合研究所。年末には「BRAND OF THE YEAR」と題した発表会を開き、その年の銘柄別(ブランド別)CM好感度トップ10を表彰している。
No.1は多様性の時代を反映したau
2022年度(2021年11月度~2022年10月度)は、東京キー5局で2645社、6833商品のCMが放送された。
その中で最も高い好感度を獲得したのは、KDDI「au」だった。auの首位はこれで8年連続となる。
「三太郎」「意識高すぎ!高杉くん」に加え、広瀬アリスと鈴鹿央士を起用した「povo姉」のシリーズが好感度を押し上げた。
CM総研代表の関根心太郎氏は、1位に輝いた理由をこう分析する。
au「三太郎シリーズ/進め!そっちだ!」篇より
「auは、毎年元日に長尺CMをオンエアして、その年の指針となるキャッチコピーを発信しています。2022年は『進め!そっちだ!』でした。『こっちだ!』とベクトルを示すのではなく、『そっちだ!』と言ったところに、auらしい素晴らしさを感じました。
2022年、社会に最も大きな変化を与えたのは、行動制限の解除ではないかと思うんです。でも今は多様性の時代で、全員が全員、一気に外へ踏み出すわけではない。いまやワクチンを打つ・打たない、マスクを外す・外さないといった決断も一人ひとりにゆだねられています。
その決断に対して、『間違ってないよ』と背中を押すようなコピーが、『進め!そっちだ!』だったのではないかと思います。このように毎年、生活者に寄り添うCM展開を行ってきたからこそ、8連覇の金字塔を打ち立てられたのではないでしょうか」(関根氏、以下同)
au「三太郎シリーズ/進め!そっちだ!」篇
「キャスティングの妙」でタウンワークが2位
第2位は、リクルート「タウンワーク」。木村拓哉と芦田愛菜が撮影現場でコミカルな掛け合いを見せるシリーズだ。
タウンワーク「吊り橋」篇より
「木村さんも芦田さんもそれぞれ訴求力が高く、そのふたりを組み合わせたキャスティングの妙が、一番の勝因でしょう。しかもふたりの素の表情を垣間見ることができるようなつくりで、ちょっと得した気分にもなりますよね(笑)。
実は、2022年はアルバイトや転職といった求人情報サービスのCMが積極的にオンエアされました。そんななか、速いカット割りや魚眼レンズなどを活用した印象的なカメラワークで他のCMと違う見え方にしたり、『木村、混乱してます!』といった予想外のセリフ回しをしたりして、視聴者を引きつける工夫が光っていました」
タウンワーク「吊り橋」篇
クルマ、ケータイ…に続く“CM花形産業”が上位入り
3位は2021年から綾瀬はるかを起用したシリーズを展開している「UNIQLO」。2022年は、楽曲提供を行ってきた桑田佳祐や原由子、また、松下洸平らが登場して綾瀬と共演。初の年間トップ3入りを果たした。
UNIQLO「ワイドパンツはみんなのものへ。」篇より
「当社の調査開始から33年間で、CM好感度を獲得する“花形産業”は大きく変化しました。1980~1990年代は自動車産業が花形でしたが、近年のトップ10入りは2020年の日産自動車が最後(木村拓哉の『やっちゃえNISSAN』)。2022年は、ロシアのウクライナ侵攻や半導体不足などの影響が大きく、厳しい状況が続きました。
2000年代に入って花形になった産業は、携帯キャリアです。2006年にNTT DOCOMO、2007~2014年までソフトバンクが8連覇し、続く8年はau。この17年間は携帯キャリアの時代だったと言えます。
そして近年上位に上がりつつあるのが、衣食住に密着した、数百円から数千円程度のリーズナブルな商材のCMです。UNIQLOは、まさにその代表例。特に2021年、『LifeとWear』をキーワードに、人に焦点を当ててからは、成人層を中心に得票数が増加。『音楽・サウンドにひかれた』『商品にひかれた』などのCM好感要因でも総合1位となっています」
UNIQLO「LifeとWear/ちょっと遠くへ」篇
4位は、まさに「数百円」で生活に潤いを与えてくれるビールのCM。新垣結衣の「おつかれ生です。」と、竹内まりやの『元気を出して』がコロナ禍の人々を癒した「アサヒ生ビール」だ。アサヒビールは「スーパードライ」も10位にランクイン。イチロー、HIKAKINら、こちらも“人”に焦点を当てたCMで高い好感度を得た。
アサヒ生ビール「2022年もおつかれ生です」篇
5位には満島ひかりが“UQUEEN”にふんし、松田龍平が執事を演じて絶妙な掛け合いを見せるKDDIの「UQ」。
UQ「UQUEEN/カモの親子」篇
6位には「今夜、私が頂くのは…」でおなじみの「Uber Eats」が入った。さらに9位に「出前館」がランクイン。いまや生活に欠かせないフードデリバリーのCMが視聴者を引きつけた。
7位は、バカボンを芦田愛菜、バカボンのパパを出川哲朗が演じる「ワイモバイル」。特に8月、「バカボンのママ」として小池栄子が登場してから「好感度がグッと盛り上がった」という。
8位のサントリー「BOSS」は、7年ぶりのトップ10入りを果たした。今年は、人気の「宇宙人ジョーンズ」に、中島みゆきが“宇宙大統領”として登場。働くことが禁止された世界を描いて好評を得た。
また、役所広司、神木隆之介、杉咲花が“ニューニュー語”で会話をする「クラフトボス ミルキーエスプレッソ」や、岩井勇気と伊藤沙莉が“夫婦”を演じる「ボス カフェベース」なども好感度を引き上げた。
今、最も好感度の高いCMタレントとは?
そして、2022年、CMタレントとして最も高い好感度を獲得したのは誰か。
女性の1位は、「タウンワーク」「Uber Eats」「ワイモバイル」とトップ10の3ブランドに出演した芦田愛菜だった。芦田はさらに「ECC」「日立」「サントリー」など計18社のCMに出演しており、18歳にして堂々の「CM女王」だ。
男性の1位は、木村拓哉。「タウンワーク」「日産」「日本マクドナルド」などの計7社のCMに出演し、好感度では圧倒的強さを見せた。
「芦田さんは主婦層の好感度で全タレント中1位。同世代からも支持を集め、これほど全年齢層から支持を得ているタレントさんは珍しいです。
木村さんは、やはり国民的スター。多様化で大ヒットが生まれにくい中、国民的アイドルの代表格として名をはせたのがSMAPだと思うんです。
メンバーの訴求力には今も計り知れないものがあります。草磲剛さんと香取慎吾が共演した花王『ハミング消臭実感』のCMも銘柄別の13位に入っています」
2022年を代表するCMやタレントを見てきたが、ひとことで言えば、今年はどんな年だったのだろう。
「コロナ禍で内向きで過ごした2年間の反動や行動制限の緩和もあり、『一歩前に踏み出した年』だったのではないでしょうか。特に夏以降、旅行関連や外食産業のCMが存在感を増して、社会全体のムードを変えたところがあると思いますね」
そのムードは自動車CMにも及び、松たか子が出演した日産「サクラ」のCMが高い好感度を獲得した。
2023年は、どんなCMが「時代の鏡」となるのだろうか。
取材・文/泊 貴洋
写真提供/CM総合研究所、KDDI、リクルート、ユニクロ