Twitterへの広告出稿を控える動きは、「長い別れ」に転じる気配が色濃くなってきた。

世界最大のメディアバイイングエージェンシーとして知られるグループエム(GroupM)が、Twitter広告はいまや「ハイリスク」な選択だとクライアントに告げている。イーロン・マスク氏がTwitterの所有者に収まって2週目を迎えるが、この間、論争と180度の方針転換を繰り返し、混乱を重ねたあげくに受けた警告だ。

Twitterのすべてのリスク評価が「ハイリスク」



この予測不能で不安定なソーシャルネットワークに広告を出すことのリスクを、グループエムは文書にまとめて共有した。米DIGIDAYもこの警告文を入手しており、そこにはこう書いてある。

「主要幹部の相次ぐ辞任、ブルーの認証バッジの悪用による企業アカウントのなりすまし、FTC(連邦取引委員会)との合意事項を順守できない可能性などを伝えた昨日(編注:11月10日)の報道に基づいて、グループエムはTwitterのリスク評価をすべての戦術に関して『ハイリスク』に引き上げた」。

この見解を改めるには、Twitterは以下の問題を解決しなければならないとこの文書は述べている。

NSFW(職場での閲覧は要注意)の判断基準を元に戻す。
ITセキュリティ、プライバシー、信用と安全の担当責任者を再配置する。
社内にチェックアンドバランスを確立する。
コミュニティガイドラインやコンテンツモデレーションを含め、ユーザーのセキュリティやブランドセーフティに影響する各種の方針について、今後の計画の透明性を確保する。
効果的なコンテンツ監視を実施する。アカウントのなりすまし、違反コンテンツの削除タイミング、ヘイトスピーチやデマに対する不寛容などについて、従来のTwitterルールを徹底する。

まさに、Twitterと広告主の力関係を改めて思い知らされる状況である。Twitter広告は「あれば良し、だがなくても困らない」程度の存在だ。マスク氏の買収によって変わらなかった現実のひとつかもしれない。

広告主たちがTwitterの行く末にまったくの無関心というわけではない。あれこれいったところで、Twitterはグローバルなニュースサイクルのなかで主要な歯車として機能している。当然、懸念はしているが、さりとて動揺はしていない。Twitterの上層部が崩壊しても、である。

混乱は深まる一方



先週(11月10日)、マスク氏がTwitter上で1時間のリモート会議を開催した後、経営陣の綻びはさらに加速した。Twitterの将来は安泰だと、広告主を安心させるための会議だった。ところが、突然の辞任と直後の撤回が相次ぎ、安泰どころではないことが露呈した。ロビン・ウィーラー氏を筆頭に、市場に向かってマスク氏を信じよと訴えていた面々もこの混乱に無縁ではなかった。同氏はTwitter広告の事実上の販売責任者を務める人物だ。「Twitterスペース」に関するマスク氏の計画を盛んに宣伝した翌日に辞表を提出し、その後残留に転じたとブルームバーグ(Bloomberg)は伝えている。

その意味するところは、マーケターたちにも伝わった。

米DIGIDAYの取材に匿名で応じたあるシニアマーケターは「ガバナンスが安定しない」と指摘した。「こちらには再編の行方を様子見する余裕がある。FacebookやYouTubeと違って、メディアプランの中核をなすプラットフォームではない。それどころか、弊社では現在、Twitterに使われるはずだった予算の取り込みを試みている。マスク様様だ」。

事態は悪化する一方だ。前述のリモート会議にマスク、ウィーラー両氏と参加していたTwitterの信用と安全を担当するヨエル・ロス氏も辞職した。そしてウィーラー氏と異なり、辞職の撤回はなさそうだ。情報セキュリティとプライバシーの最高責任者も辞表を提出しており、このふたりも辞職の意思は固いようだ。さらに、これらすべてが、連邦取引委員会(FTC)が「深い懸念」をもって見守るなかで起きていることも忘れてはならない。

つまり、Twitterは広告主をブランドセーフティのリスクばかりか、サイバーセキュリティのリスクにまでさらしているということだ。

現在の市場環境では、どちらのリスクもプラットフォーマーの広告事業に大打撃を与えかねない。ほとんどのマーケターがあまり気にかけないプラットフォームであればなおさらだ

「確かに、Twitterは文化的瞬間の一部だが、優良なダイレクトレスポンス製品を持たないため、Twitterでの広告支出は不明瞭か、もしくは単に好ましくない」。そう話すのは、Twitterへの広告出稿を停止した企業のひとつでメディア責任者を務める人物だ。「私が統括するメディア戦略やメディアプランで、Twitterが絶対不可欠なプラットフォームであったことは一度もない」。

憂慮すべき同氏の発言



壇上であれ、リモート会議であれ、あるいはツイート内であれ、マスク氏が広告主たちに何を告げようが、こうした粛然たる事実は変わらない。それどころか、この何かとお騒がせな億万長者がTwitterとTwitter広告について語れば語るほど、広告主たちの混乱は深まるように思われる。

マスク氏の見立てでは、Twitterは街の広場のようなものだが、その広場に「表現の自由はあっても、リーチの自由はない」という。人々はいろいろなことを話す。なかには不穏当な発言もあるが、それをすべて大衆に向けて増幅する必要はないということだ。

問題は、何を増幅すべきかを誰が決めるのかということだ。その答えが何であれ、それは悪しき相対主義と表裏一体である可能性が高い。マスク氏が「真実とは曖昧な概念だ」という考え方を表明したいま、こうした可能性を否定するのは難しい。論争はこのような考え方に限りなく近い。そしてそれはマーケターたちがいま一番近寄りたくないものでもある。

「イーロン氏がさきのセッションの冒頭で『真実は曖昧な概念だ』と述べたことは、非常に憂慮すべきことだ」。メディアマネジメント会社のエビクイティ(Ebiquity)で、グループ全体の最高プロダクト責任者を務めるルーベン・シュラーズ氏はそう語る。「これでは、(トランプ前大統領の顧問だった)ケリーアン・コンウェイ氏が『オルタナファクト(もうひとつの事実)』を主張したのと同じではないか。真実は真実。分かりきったことだ。そこに曖昧なことなど何もない」。

企業幹部たちの苛立ち



米DIGIDAYはマスク氏がTwitterを買収して以降、広告を担当する15人の企業幹部から話を聞いたが、彼らの発言にはシュラーズ氏と同じ苛立ちが現れていた。広告主への売り文句が原理原則を欠き、常に流動的で、密室ではおとなしいのに、光の当たるところでは闘争的ということに、彼らは不満を感じている。要するに、マスク氏がTwitterスペースで、あるいはカンファレンスで、あるいは密室で何をいおうがマーケターたちはそれほど気にしない。彼らが気にするのは、マスク氏が「何をやるのか」だけである。

マーケティングエージェンシーのニューエンゲン(New Engen)でメディアサービス担当のバイスプレジデントを務めるアダム・テリアン氏はこう述べている。「我々のクライアントについていえば、そしてそれはほかの広告主にも当てはまることかもしれないが、Twitterは彼らの広告ミックスにとって、それほどの注意と時間を向けるほど必要不可欠な存在ではない」。

いうまでもなく、Twitterから離れた広告費が2023年までに戻る見込みはない。しかし実のところ、広告費がTwitterから離れたことなどなかったともいえる。なにしろ広告主たちは今年のTwitter広告費をすでに切り詰めていたのだから。マスク氏のこれまでの行動のなかに、広告主の翻意を促すものは何もない。

たとえば、マスク氏の新たな検証スキームはどうか? それを決められないからこそ、偽アカウントやパロディアカウントが横行する。マスク氏が描く今後の事業計画は? 動画に再挑戦するとか、決済会社になるとか、アドテクのバックエンドを再構築してターゲティングを改良するとか。従業員が大量に流出する渦中にあって、どれもこれも言うは易く行うは難しだ。マスク氏の脅しの数々となんら変わらない。出稿停止を決めた広告主の社名を「核融合レベルでさらす」と誓ったあの恫喝を、よもや忘れてはいないだろう。そんなことはいまも起きていない。

Twitter社倒産の可能性



カラーマーケターも困惑気味だ。

「基本的に、Twitterの存在理由はいま現在ひどく不明瞭だ。それは『我々はあらゆるものになる』というマスク氏のコメントからも明らかだ。おかげでTwitterは広告費を使うにはひどく怪しげなプラットフォームになってしまった」。広告エージェンシーのフィッツコ(Fitzco)でプレジデントを務めるエヴァン・レヴィ氏はそう話す。「TikTokの存在理由は分かる。NFLの存在理由も分かる。メディア予算を投じる先のプラットフォームやウェブサイト、あるいはアプリなどについて理解することは、ごく当たり前のことだ。ではTwitterはどうか。まったくの未定。Twitterへの広告投資もまた然りだ」。

広告費で成り立つ企業は不安定な立場にある。ましてや、それがマスク氏と密接不可分な企業であればなおさらだ。当人には知る由もないが、同氏のばかげた行動はいろいろな面で事業に直接的な影響をおよぼしている。むしろマスク氏は、広告主たちとの会合で繰り返し述べているように、彼の行動と彼のビジネスは切り離して論じるべきだと考えている。自分の行動の直接的な結果として、広告費がTwitterから流出しつづけているにもかかわらずだ。

資産の目減りにどう対処するにしても、残された時間は多くない。この稀代の起業家はすでに、買収以降に失った広告収入を別の収入で補うことができなければ、Twitterはこの不況を乗り切ることはできないと警告している。それどころか、倒産の可能性にさえ言及している。広告主にはさまざまな側面があるが、そこに慈善事業は含まれない。

[原文:The world’s biggest media buyer GroupM is telling advertisers that Twitter is a ‘high risk’ media buy]

Seb Joseph and Krystal Scanlon(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)