ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)は10月12日、新型ロケット「ヴァルカン(Vulcan)」の初打ち上げを2023年第1四半期に行う予定だと発表しました。同打ち上げには、アマゾンが計画する衛星コンステレーション「カイパー(Kuiper)」を構成する通信衛星のプロトタイプ(試験機)2機が搭載されることも明らかにされています。


【▲ ケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられるヴァルカンロケットの想像図(Credit: Amazon)】


ULAが開発するヴァルカンは、現在使用されている「アトラスV」ロケットの後継機として開発されています。ヴァルカンの第1段にはブルーオリジン社の「BE-4」エンジンが採用されていますが、開発と試験の遅れにより、ヴァルカンの初打ち上げは延期が重ねられてきました。


現在、ヴァルカンは米国・アラバマ州のディケーター(Decatur)にあるULAの工場で完成を間近に控えており、エンジンの取り付けを待っている状況です。ULAによると、機体は2022年11月頃、打ち上げが行われるフロリダ州のケープカナベラルに向けて輸送される見込みとなっています。


ヴァルカンの初打ち上げでは、カイパーの衛星の試験機「Kuipersat-1」と「Kuipersat-2」だけでなく、米国の民間企業アストロボティック(Astrobotic)の月着陸船「ペレグリン」も搭載されます。ペレグリンはアメリカ航空宇宙局(NASA)の商業月輸送ペイロードサービスミッション(CLIPS)のもとで打ち上げられ、月面に着陸する予定です。


アマゾンの「カイパー」コンステレーションは、合計3,236機の小型衛星で構成される衛星コンステレーション計画です。同社は衛星コンステレーションを構築するために必要な92回の打ち上げ機会を確保するために、ULA、アリアンスペース、ブルーオリジンとの間で契約を交わしています。ULAによる47回のカイパー打ち上げのうち、38回はヴァルカンによる打ち上げとして計画されています。このため、ヴァルカンの開発と運用開始は、アマゾンの衛星コンステレーション構築に影響を及ぼすと見られます。


【▲ プロジェクト・カイパーで打ち上げ機会が確保されたロケット。左から:ヴァルカン・セントール(ULA)、ニューグレン(ブルーオリジン)、アリアン6(アリアンスペース)(Credit: Amazon)】


また、アマゾンは民間宇宙企業ABL Space Systemsの新型ロケット「RS1」を使用した2機の試験機の打ち上げも契約していますが、この契約は保持すると述べています。現在、RS1ロケットは開発と初打ち上げに遅れが生じています。


なお、ヴァルカン初の打ち上げミッションは、安全保障に関連した衛星の打ち上げにも影響を及ぼします。米国では、軍や安全保障に関連する衛星の打ち上げは、国家安全保障打ち上げプログラム(National Security Space Launch program: NSSL)の枠組みで行われています。ヴァルカンをNSSLで使用するためには、2回の商業打ち上げに成功することが要件になっています。ULAはスケジュール通りに打ち上げが行われた場合、2023年第4四半期にはヴァルカン初のNSSLプログラムによる打ち上げが可能であることを示唆しています。


 


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文/出口隼詩