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「運動」の驚くべき”癒し効果”にスポットを当てた研究が、今、世界的に注目を集めている。運動すると……「ストレスから守られる」「抗うつ薬に匹敵する”うつ改善効果”が得られる」「レジリエンス因子が増え、不安に強くなる」「遺伝と同レベルの認知症リスクを解消できる」「子どもの勉強への集中力が高まる、成績が上がる」など、その驚きの研究結果をまとめたのが”運動×神経科学”の第一人者であるジェニファー・ハイズ博士だ。彼女の研究は、ニューヨーク・タイムズ、BBC、CNN、ハフポストなど、多数の国際的メディアに取り上げられて話題を呼んでいる。その内容を一般向けにわかりやすくまとめた初の著書の邦訳版『うつは運動で消える 神経科学が解き明かした「心の不調」のリセット法』が9月7日に発売となった。今回は、本書の第7章「運動が仕事と子どもの学力にもたらす驚くべき効果」の内容の一部を特別に公開する。

運動している学生ほど、授業に集中できる

 私の研究室で行った最近の研究から、運動が学業成績を向上させる理由についても発見しました。体をよく動かしている生徒ほど成績がよいのは、授業中の不注意や多動が少なかったからです。特に注意欠陥多動性障害(ADHD)に悩む子どもたちにとって、運動は認知・行動・身体的症状を緩和するのに役立ちます。

 アビーの息子エイデンはADHDで、毎日の運動が欠かせません。小学校でエイデンは毎日体育の授業を受けていましたが、アビーはその効果にすぐに気づきました。

「集中力が劇的に向上しました。脳が格段に冴えています。まるで、運動が息子の落ち着きのなさを取り除いてくれたみたいでした」

 しかし、エイデンが高校に進学すると、毎日の運動習慣がなくなってしまい、落ち着きのなさが戻ってきました。アビーはエイデンの教師から、乱暴な行動について注意を受けるようにもなりました。

 そのとき、再び気づいたのです。息子の脳は、考えるために運動を必要としていたのだと。アビーはエイデンに、毎朝学校へ行く前に一緒に運動することをすすめました。そして2人で運動を始めたとたんに、注意を受けることがなくなったのです。

運動は、最高の「薬」

 ADHDの子どもや大人が集中するのが苦手なのは、前頭前野に必要な栄養が不足しているからです。血流とドーパミンが不足しているのです。

 運動には、リタリンやアデロールといった治療薬が働きかけるのと同じ神経系を変化させ、この不足を修正する力があります。しかも望まない副作用はありません。

(本原稿は、ジェニファー・ハイズ著、鹿田昌美訳『うつは運動で消える 〜神経科学が解き明かした「心の不調」のリセット法』の内容を抜粋・編集したものです)

ジェニファー・ハイズ

世界トップのキネシオロジー(運動科学)学科を擁するカナダ・マクマスター大学のニューロフィットラボのディレクターであり、運動と神経科学研究の第一人者。主に、身体運動がメンタルヘルスや認知能力にもたらす影響について研究し、受賞多数。その研究は、ニューヨーク・タイムズでの特集をはじめ、CNN、NBC、BBC、ハフポスト、CBSなど、国際的メディアの注目を集めている。初の著書の邦訳版『うつは運動で消える』が2022年9月7日に発売。