鉄道の「輸送障害」30年で約2.5倍 30分以上の遅延・運休増 事業者の“悩み”浮き彫りに
鉄道で30分以上の遅延や運休をともなう「輸送障害」が長期的に見て増加傾向です。人身事故は減少傾向にあり、ホームからの転落事故なども減っているのに、なぜ遅延や運休が増えているのでしょうか。
運転事故の件数は減少 でも遅延は増加
国土交通省は2022年8月26日(金)、「鉄軌道輸送の安全に関わる情報」2021年度版を公表しました。全国の鉄道における運転中の事故、輸送障害などをまとめた統計です。
輸送障害にともなう遅延や運休は増加傾向にある。写真はイメージ(画像:photolibrary)。
新型コロナの影響で公共交通の利用が大幅に減少した2020年度と比べると、2021年度は運転中の事故が60件増、死傷者数が50人増となったものの、乗客の死亡事故はゼロ。事故件数ベースでは、ここ30年で年間1154件から543件へと半減しています。
一方、列車の運休や30分以上の遅延などをともなう「輸送障害」自体は、長期的に増加傾向にあります。
2021年度は6409件で、前年度から187件増加しました。30年間で見ると、年により増減はあるものの、件数は約2.5倍に増えています。
統計ではこれらの要因を次の3つに大別しています。
・部内原因:鉄道係員、車両または鉄道施設などに起因。
・部外原因:線路内立ち入り、自殺、沿線火災、踏切内のトラブルなど。
・災害原因:風水害、雪害、地震など。
このうち、部内原因は30年間で増減はあるものの、おおむね横ばいといえます。一方で、災害原因は30年前に601件だったものが、2021年度には1930件と、約3.2倍にまで増加(※)。災害の多発化、激甚化の傾向を反映しているようかのようです。
(※災害原因による輸送障害は、1事業者の1つの事象における運休や遅延を1件とカウント。たとえば豪雨により複数の路線で多数の運休が数日間発生した場合も1件で計上)
そして最も増えているのが、部外原因です。30年前の636件が、2021年度は3116件で、約4.9倍に増えています。
右肩上がりで増えている遅延の要因とは?
部外原因の内訳をみてみると、長年にわたり最も多かったのは「自殺」でした。しかし件数としては30年で横ばい。それ代わって今、部外原因の内訳で最大を占めているのが「動物」です。
動物に起因する輸送障害は、2003(平成15)年の時点では81件でしたが、年々、右肩上がりに増え、2016(平成28)年には617件で「自殺」を上回りました。特にここ5年では大幅に増加しており、2021年度には1109件となっています。
動物との衝突事故の増加は、路線によってはかなり深刻な状況です。たとえば岩手県の山間部を走るJR山田線では、2021年度に394件、同県内の釜石線では282件起こっています。山田線では毎日1件以上、起こっている計算です。
統計をとっている国土交通省鉄道局 安全管理官室も、「災害」と「動物」が輸送障害の件数を押し上げていると話します。
JR山田線の列車(乗りものニュース編集部撮影)。
そこで、対策としてJR東日本盛岡支社では、ライオンのフンから抽出した成分を含む忌避剤の散布、侵入防止ネット、さらには動物へレーザー光を照射するレーザーの設置など、あの手この手と知恵を絞ってきました。今後は、列車に取り付けたスピーカーから、動物の警戒声などの忌避音などを流す装置の運用を拡大するとしています。