「日本一営業期間が短い駅」ことJR津島ノ宮駅に列車が停車するのは、津嶋神社でお祭りが開催される2日間のみ。コロナ禍による中止を挟んだ約1000日ぶりの駅の営業と、この祭りの期間中しか渡れない「離島の本殿へ渡る橋」の様子を追います。

「日本一営業日が短い駅」年間たった2日間のみ!

 香川県三豊市にある「日本一営業日が短い駅」ことJR予讃線 津島ノ宮駅が2022年8月4日と5日、約1000日ぶりに営業されました。
 
 予讃線の海岸寺〜詫間間にあるこの駅は、基本的に毎年、目の前にある「津嶋神社」で行われる夏季大祭(例大祭)の期間中2日間のみ開かれます。今回は8月4日が午前8時過ぎから21時ごろまで、5日が早朝から15時ごろまで、上下合わせ60本以上の列車が停車しました。


津島ノ宮駅の営業初日、第1便の停車前。特急が軋みをあげて通過していく(宮武和多哉撮影)。

 祭りが行われる津嶋神社は「遥拝殿」こそ駅に隣接していますが、本殿は瀬戸内海を挟んだ200mほど先の離島「津島」にあります。約5万人が訪れるという夏季大祭の期間中だけ、通常は渡ることができない橋を渡り、本殿への参拝が可能になるのです。

 この夏季大祭は2020年、2021年とも新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止。2022年の祭りの開催に合わせた駅営業は、2019年8月5日以来、約1000日ぶりとなりました。年間2日間しか乗降できない駅と、祭りの期間中しか渡れない海上にかかる橋、そしてお祭りの様子を見てみましょう。

JR四国OBも集結 停車前からお祭りの様相に

 津島ノ宮駅は年間たった2日間しか営業しないにもかかわらず、多い年で利用者は約8000人ほど。とはいえ2022年はコロナ禍で参拝客数も減少し、利用客は5000人程度と見込まれていたとか。それでも多くの人々が利用することに変わりなく、営業前日からJR関係者が設備の確認を行い、OBの方々も地域と協力し、周辺の草刈りなどに汗を流していたそうです。

 そして当日は列車の停車が始まる1時間前から、数える限りで20〜30人ほどの社員が集結。ふだんは厳重に閉鎖されている津島ノ宮駅の駅舎横の小窓が開き、臨時のきっぷ売り場や総合案内所、駅スタンプが次々と設置されていきました。

 また広いホームの隅では、JR四国OBが屋台を出し、冷たい飲み物のほか同社キャラクター「れっちゃくん」グッズ、鉄道用品、玩具などを販売。この駅は参拝客のみならず鉄道ファンの利用も多く、屋台横に設置された休憩所のテント下で涼み、こまめにクールダウンしつつ撮影を行う人々も多く見られました。

一斉に配置される駅員さんは「ホームの段差・隙間対策」

 そして朝8時台、列車の到着開始とともに、ホームのドア1か所ごと係員1名が配置されます。実はこの駅のホームは列車のドアより低く、降りる際には30cmほどの段差が生じます。この祭りは「子供の神様」の祭りとあって、子供の乗降を介助するための係員が必要となってくるのです。

 またホームはカーブ上にあり、特急「いしづち」「しおかぜ」(岡山方面・高松方面が併結)通過の際には多くの係員が注意喚起を行い安全確保に努めます。駅横の踏切にも係員が立つなど、多くの人員が必要になるため、駅としての営業の条件はかなり厳しいものがあります。年間2日間のみの駅の営業は、JR四国や関係者総出のマンパワーに支えられていると言って良いでしょう。さらに今回は、係員各自が列車の到着前に消毒などの入念な感染対策をとっていたのが印象的でした。

 ちなみに、過去には夏季大祭の2日間以外にも駅が営業されたことがあります。2013(平成25)年の予讃線開業100周年、2015(平成27)年の津島ノ宮駅開業100周年では、それぞれイベントに合わせて12月にも営業。駅前で音楽デュオ「スギテツ」のコンサートなども行われるなど、冬に賑わいを見せたそうです。

夏祭りの時だけ渡れる海上の橋、約200mの往復に30分以上?


津嶋神社本殿。海上の橋を200m少々歩いた先にある(宮武和多哉撮影)。

 このお祭りでは、期間中のみ渡ることができる「津島橋」も見ものです。橋はコンクリート製ですが、通常は床版(床板部分)が外されており、入り口も厳重に封鎖されています。祭りに合わせて木の板が渡され、料金300円を払って渡ることができるのです。

 橋からは、東側10kmほど離れた多度津造船の工場まで見渡すことができ、橋の下に広がる海の透明度も抜群。途中で立ち止まって写真撮影を行う人々も見られます。ただ、もっとも混み合う時間には200mを往復するのに30分以上かかることも。海上にかかる橋の上で天気が急変した時のために、最低限の雨具は持っておいた方が良いかもしれません。

 離島にある本殿では、子供の安全と健やかな成長を願う祈祷が行われるほか、授与所では津嶋神社名物の「ランドセル守」をはじめ、お守り・おみくじがずらりと揃っています。

津嶋神社、「仮面ライダーG3」もお参りに来たことがあるかも?

 陸側の駅や遥拝殿の周辺には、香川県西部の名物「たこ判」やイカ焼き、チョコバナナや射的・ヨーヨー釣りなど、子供が目を輝かせること必至の屋台がずらりと並びます。ただこの神社は背後に山が迫っていることから境内が狭く、祭りの間は鳥居の横ギリギリまで屋台が立ち、狛犬に至っては「水笛」(水を入れると鳴る笛)などの玩具屋台のテントに取り込まれるほど。境内をフル活用しての屋台の出店も、ある意味、見ものです。

 今回の夏季大祭が開催された時期は、新型コロナウイルスの感染拡大状況もあって、三豊市内でも中止を余儀なくされたイベントも。しかし津嶋神社の大祭は開催の要望がかなり多く、祈祷や花火大会の規模を縮小した上で開催されました。

 もちろん津嶋神社はクルマを駐車場に停めて参拝することも可能です。しかし通常時に使われる駐車場は30台ほど。祭りの期間中のみ別途設置される臨時駐車場は、最大で2kmも離れた山の中腹にあり、行きはよいものの帰りは大汗をかいて坂を登ることになります。祭りの開催を告げるポスターでも、神社・三豊市・警察の連名で「津島ノ宮駅が設置されます。ぜひ列車をご利用下さい」と呼び掛けられていました。

 そういった事情もあって津島ノ宮駅は毎年多くの人々に利用され、駅舎キャラクター「つしまのみやえきちゃん」が描かれ「日本一営業日が短い駅」と書かれた駅名標も、2015年の開業100周年イベントに合わせて整備されるなど、単なる臨時駅の域を超え、JR四国も盛り上げに一役買っています。


当日の屋台はアイスクリーム、たこ焼き、冷やしキュウリ、りんご飴・射的など幅広い(宮武和多哉撮影)。

 なお津嶋神社がある三豊市三野町(2006年までは三豊郡三野町)といえば、かつて『仮面ライダーアギト』で“決して逃げない男“氷川誠(仮面ライダーG3の装着員)を演じ、当時の子供たちに強烈な印象を残した俳優・要潤さんの出身地でもあります。いまや「うどん県副知事」「三豊ふるさと大使」としても活動する地元の大スター要さんも、子供の頃に津島ノ宮駅で降りて、この橋を渡ってお参りに来たことがあるのかもしれません。