JALが導入した新鋭旅客機「エアバスA350」は、ボーイング機などを中心に構成してきたJALのパイロットにとっては多くの違いがあり、またいくつもの先端技術をもちます。ただ同型機のパイロットいわく「飛び抜けて先鋭的では」ないそうです。

多数備える「A350の先端設備」

 JAL(日本航空)が2019年から導入を始めた新鋭旅客機「エアバスA350」。同社としては初の新造導入エアバス機であることから、これまでボーイング機などを中心に構成してきたJALのパイロットにとっては、多くの違いをもつ旅客機といえます。


JALのエアバスA350-900(乗りものニュース編集部撮影)。

 いわゆるエアバス機は、ボーイング機とくらべて、コンピューター制御の力が強い「ハイテク機」と評されます。

 JALがA350導入時から機長を務め、フランスから日本へのA350初号機のデリバリーフライト(納入のための回送便)を担当した仲本大介機長によると、エアバスA350は、従来担当していたボーイング機「737」とくらべ、「737は操縦桿の感覚が直に伝わる飛行機だったのに対し、A350は旅客機自身が挙動をコントロールしてくれる」機体といいます。

 新鋭機らしく、先進的な機能も多数備えます。たとえば、充実した機能をもつ気象レーダーの採用や、離脱する誘導路を指定するとそのポイントで一定の速度になるように減速する先進的な自動ブレーキ機能「BTV」などが代表的です。

 また、機体の不調の際に改善用件などを表示する「ティスパッチメッセージ」機能も充実しており、仲本機長は「『いまのフライトでは全く支障はないのだけど、次の出発までに直したほうがいいよ』といったアドバイスをしてくれるんです。以前は紙のマニュアルをもとに自分で今のフライトに影響があるのかを含めた情報を探していたのが、A350は飛行機が教えてくれるようになりました」とその先進性を話します。

 ただ一方で同氏は「その一方でA350は、たとえば自動車でいうところの『テスラ』のような、飛び抜けて先鋭的なシステムを使った飛行機――とも言い切れない要素も持ち合わせているのです」とも話します。

「どこもかしこも最新鋭」ではない理由

 仲本機長は「A350に乗ることに慣れてしまったからかもしれませんが……」と前置きのうえ、「最初は私もA350は『どこもかしこも最新鋭』だと思ってはいたのですが、本当に基本的な飛行機のコンセプトも残っていたりもしますし、結構ボーイング機と変わらないな……と感じるところが多いのです」と話します。

 仲本機長はその一例に「アンチアイス(防氷システム)」をあげています。この「アンチアイス」、ボーイングの777や787ではオート起動になっているのに対し、エアバスA350は新鋭機ではあるものの、まだ手動でオン・オフの操作をするのだそうです。


エアバスA320neo。A320は1988年にデビュー。マイナーチェンジをしながらいまだにエアバス社の中心的存在だ(画像:エアバス)。

 仲本機長は新鋭機であるA350が「どこもかしこも最新鋭」ではない理由について、「操縦システム自体はA320がベースになっているからだと思います」と話します。

 エアバス社は、当時としては極めて先鋭的な、デジタル式フライ・バイ・ワイヤ操縦システム(操舵を電気制御で実施するシステム)やサイドスティック操縦桿を採用した旅客機「A320」を1988年にデビューさせて以来、多数の新モデル旅客機を開発してきましたが、コクピット設計はいずれもA320と共通性を持たせてきました。このことで、A320とほかのエアバス機との移行期間を短くすることができ、航空会社にとってはパイロットの人員配置を合理的に進めることができます。

 エアバスA350もこの法則にのっとり、サイドスティック操縦桿をはじめ、1980年代デビューのA320と共通性をもった操縦システムを採用しています。仲本機長が「飛び抜けて先鋭的なシステムを使った飛行機ではない」と話す裏側には、30年以上前から航空会社のニーズに答えようとするエアバス社の”戦略”がありました。