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「今から21年前の11月20日のこと。その日は朝から体調が優れなかったけど、なんとか担当の女優さんにメークをして、スタジオに送り出したんです。

その後、ますます気持ちが悪くなって……。これはおかしい、と思ってタクシーを飛ばして病院に到着したときには脈拍も血圧も跳ね上がり、血圧は230に。息苦しさと気持ち悪さで立つこともできない状態でした」

初めてパニック障害を発症したときのことをこう語るのは美容家でタレントのIKKOさん(60)。実は、パニック障害に悩む人は、年々増加傾向にある。厚生労働省の統計によると、この20年で患者数は約27倍にも増えているのだ。

パニック障害の鍼灸治療に定評のある、「鎌倉ひまわり鍼灸院」院長の影森佳代子先生が解説する。

「症状としては、突然襲ってくる激しい動悸や心拍数の増加、発汗、震え、息切れや息苦しさ、のどのつかえやめまい、ほてりや悪寒、死への恐怖感などさまざま。立っていられなくなり、救急車で運ばれる方も少なくありません」

このような発作が繰り返し起こったり、1回発作が起きた後、1カ月以上にわたって「また発作が起こるのではないか」という“予期不安”を感じて外出できない、電車に乗れないなど、生活に支障が生じた場合に、パニック障害と診断されるという。

発作は、特に電車や渋滞中の車の中、エレベーター、スーパーのレジに並んでいるときなど「逃げ場がない」と感じる場所で起こりやすい。影森先生自身も、30代のときにパニック障害を発症した。

「山手線に乗っていたら高田馬場の手前で急に息苦しくなり、死んでしまうのではないかという恐怖に襲われたんです。当時はカウンセラーとして働きながら、月曜から土曜まで夜にはりの専門学校に通っていて、心身ともにストレスと疲労でいっぱいでした。でも、気づかないふりをしていたんです」

IKKOさんの場合も、疲労とストレスが重なっての発症だった。30歳で「アトリエIKKO」を設立。みずからの仕事と弟子を育てる重圧を一身に背負い、体は悲鳴を上げていたのだ。軽い吐き気や動悸、めまいなどの“前兆”はあったが、多忙な日々にそれらをやり過ごしていたという。

冒頭の出来事によって1週間入院したものの、退院して仕事に戻ると再び重荷にさらされた。

「電話のコールが鳴ると体の震えが起こるようになってしまったんです。夜も、彼がいるときは大丈夫なんですが、一人だと不安になってめまいや息苦しさが押し寄せ、救急病院に駆け込むと治る。それを繰り返すような日々でした」

■40〜50代の更年期世代は特に注意が必要

統計的には20〜30代の発症率がもっとも高いパニック障害だが、影森先生の元には、40〜50代の患者も多く駆け込む。

「この世代の女性は女性ホルモンの減少により自律神経のバランスが崩れやすくなるうえ、さまざまなストレスにさらされやすいんです。仕事では責任が重くなり、私生活でも親の介護や子どもの巣立ちなどの変化が訪れます」

さらに、コロナ禍も追い打ちをかけているという。

「最近相談を受けた50代の女性の場合、1年ほど前から更年期症状があるなかで、お子さんが中学受験を控え、コロナの感染対策に気を使う日々でした。受験が終わった後、それまでのストレスからパニック障害を発症してしまったんです」

真面目で完璧主義な人や責任感が強いがんばり屋さんがなりやすいというパニック障害。発症しないためには、“前兆”に気づくことも大切だと影森先生。

「ふだんから漠然とした不安があり心身ともにスッキリしない、緊張すると下痢をする、人混みに出るのがおっくうになった、などいつもと違う状態がひとつでもある方は“パニック障害予備群”の可能性があります。早めに休息をとったり、睡眠を十分にとって食生活を見直す、気分転換をする、などを心がけましょう」

■信頼できる医師を見つけることが大切

発症してしまった場合、まずは精神科や心療内科を受診し、自分に合った治療法を見つけることが肝心だ。

IKKOさんの場合は、自分と相性のよい医師がいる心療内科に通うほか、自律神経を整えるはり治療に3年間毎日通ったという。自分に合う医師を見つけることが特に大切だとIKKOさん。

「私が話す前にいろいろ言ってくる先生よりも、まずじっくり話を聞いてくれる先生のほうがよかったですね。

仕事のやり方も変えました。弟子に任せられるものは任せて、1日働いたら1日か2日休んで頭を無にするようにしたんです。焦って中途半端に治療しても時は流れていくから。焦っちゃダメ、と何度も自分に言い聞かせてね」

みずからこんな工夫もした。

「発作が起きそうになると、韓流ドラマを見たり、音楽を聴いたり、“大好きなこと”に集中すると症状が少し和らぐんです」

“笑門来福”などの文字を書いて家中に貼ることで、自己暗示をかける方法も効果的だったという。

「食事と一緒に福を取り込めるように、キッチンには“福”の文字を。災いはすべて水に流してたくさん笑えるように、トイレには“笑門”。穏やかに、焦らずいられるように“川の流れのように”の書を階段に。信頼する主治医にも“大丈夫”と書いてもらって、その紙を持ち歩いていました」

手の震えなど、発作が出そうになったら、そのメモを見て心を落ち着かせていたという。

このように“パニック障害が起きても大丈夫”と安心できる、“お守り”があることは不安を解消するのに効果的だ。

影森先生も、発症はしていないが不安で仕方ないというときや、パニック障害の発作が起きそうだという場合には、上の図のような“お守りツボ”や“おもち呼吸法”などのセルフケアを行うことを推奨している。

最後にIKKOさんが、パニック障害に悩む読者にこうアドバイスしてくれた。

「無理していると感じたら、頭を空っぽにして休むことが大切。体を温めて、深呼吸をして、好きなものに囲まれてリラックスしてください。

少しよくなったらウオーキングなどの運動をするのもいいですよ。これまでがんばってきたんだから、いまは休憩のとき。大丈夫、大丈夫。必ず、また歩み出せますから!」

【図解】パニック障害を防ぐお守りツボ押し