1914年に軽井沢で温泉旅館を開業し、2022年で108年の歴史を数える星野リゾート。「旅を楽しくする」をテーマに、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」のサブブランドを展開し、2022年4月以降は新たに6施設をオープン予定です。今回はそんな新しいワクワクを生み出し続ける星野リゾートに注目! 今こそチェックしたい話題の施設を深掘りしていきます。

「星のや軽井沢」

第1回目は、星野リゾート発祥の地として知られる「星のや軽井沢」の知られざる歴史や魅力をピックアップ。実は100年以上も前からサスティナブルだった? 敷地内に水力発電所が……!? などなど、ラグジュアリーなだけではない、憧れリゾートの真の姿に迫ります。

【その1】星野リゾートを語る上で外せない! 隠れ立役者の星野嘉助

軽井沢の自然に溶け込む「星のや軽井沢」

各施設が独創的なテーマで圧倒的非日常を提供するブランド「星のや」。現在は国内で6施設、海外で2施設を展開。その中で最も古く、星野リゾートの始まり地として知られるのが「星のや軽井沢」です。

一歩足を踏み入れれば、自然が広がり、五感すべてが満たされる最高のロケーション。好きな場所に座って、川のせせらぎを聞き、緑に癒やされる……。何もしない贅沢を惜しみなく堪能できます。

大きな窓から棚田状の風景を楽しめる「日本料理 嘉助」

滞在中、一度は味わいたいのが館内にあるメインダイニング「日本料理 嘉助(かすけ)」。実はこのダイニングの名前、星野リゾートを語る上では外せないワードなんです。

「嘉助」とは、星野家の初代・星野嘉助さんの名前。嘉助さんは、もともと鮮魚や雑貨を扱う「星野商店」を営んできましたが、中でも生糸業が大繁盛。その資本を元手に息子となる星野国次(くにじ)さんが、1914年、軽井沢のこの地に「星野温泉旅館」を開業させたのが、星野リゾートの始まりです。

ちなみに、国次(くにじ)・嘉政(よしまさ)・晃良(あきら)・現在の代表・佳路(よしはる)と星野家は続きますが、晃良さんまでは初代・嘉助さんの名前を歌舞伎役者のように襲名してきました。しかし、今の代表・佳路さんは襲名を行わない方針に。そこで「おなじみだった名前は残していきたい!」という思いを込めて、ダイニングに嘉助さんの名前が付けられました。

もしダイニングに来ることがあれば、ここが嘉助さんの名を冠したお店だということを思い出してみて。星野リゾート好きなら、星野家の長い歴史に触れられたようで、ちょっぴり嬉しくなるはず!

温泉狂い!とまで言われた、星野国次(くにじ)さん

そしてこの方が、嘉助さんの名前を受け継ぎ、「星のや軽井沢」の前進となる「星野温泉旅館」を1914年にスタートさせた国次(くにじ)さん。

今でこそ軽井沢は名湯を誇る温泉地として知られていますが、昔は冷たい温泉しか沸かない冷鉱泉の地でした。夏はそれでも良いかもしれませんが、軽井沢の冬は極寒。それでは冷たすぎる……ということで、高い湯温で質の高い温泉を求めた星野国次さんが温泉の掘削を始めました。

その後失敗は続いたものの、何度も諦めずにトライ。「必ずもっと良い温泉が出るはず……!」と十数年にわたって負けじと温泉を掘り続け、湯量豊富な熱い温泉を掘り当てたのです。

しかし当時、星野温泉旅館の周りには電気が通っていませんでした。電気を引くには莫大な資金が必要だったため、国次さんは木製の水車を回して、自力で自家発電も作り上げたのです。

日本最初の本格的自家用小水力発電を作った、星野嘉政(よしまさ)さん

電気は通りましたが、木製の水車では、そこまでたくさんの電気を得ることはできません。そこで日本の電機メーカーと協力して本格的な水力発電所を誕生させたのが、次に嘉助さんを襲名した星野嘉政(よしまさ)さん。この水力発電は、今の「星のや軽井沢」の大切な電力につながっています。

次に嘉助さんの名前を襲名した星野晃良(あきら)さんは、「軽井沢高原教会」での結婚式を始めとするブライダル事業を開始。同時期にエコツーリズムの礎を築いたのも、晃良さんです。

現在の代表・星野佳路さんは、私たちがよく知る星野リゾートの経営をスタート。リゾート運営の達人として、続々と個性あふれる施設を展開し、一大グループとして発展をとげています。

こうして初代から星野家の歴史をさかのぼると、その先見性は本当に目を見張るものがありますね。それぞれ方向性は違うものの、各分野で先駆者となり、最後まで成しとげる力はすごい! 令和のビジネスパーソンにも参考になる点が多いのではないでしょうか。

さて「星のや軽井沢」には、そんな星野リゾートの歴史を垣間見られるスポットがあるので、そちらもご紹介しましょう。

ソファに座ってゆったりくつろげるライブラリーラウンジ

それが、「日本料理 嘉助」のすぐ上にあるライブラリーラウンジです。お気に入りのソファに座ってコーヒーを片手に緑豊かな景色を望みながら、本を読みふける……というのが、よくある過ごし方。しかし、ここに来たら壁に並んだ白黒写真にも注目してみてください。

「星野温泉旅館」時代の写真

右手に飾られた白黒写真は、「星のや軽井沢」の前身となる「星野温泉旅館」時代のもの。じっくり眺めてみると、そこに立ち並ぶ建物や人の姿はかなり古く、歴史を感じられます。

一度立ち止まって写真を目にとめてみると、今と昔の星のやを見比べることができますよ。

【その2】100年以上前からエネルギーを敷地内で生産!?

緑に囲まれた場所に建つ「第一発電所」

高級リゾートのイメージが強い「星のや軽井沢」。よほどの通でない限り、ここに水力発電所があること知っている人は、まずいないのではないでしょうか? 水力発電所があるのは、軽井沢星野エリアにある日帰り温泉「星野温泉 トンボの湯」のすぐ裏手。現在、水力発電所は2カ所稼働していて、そのうちのひとつがここ「第一発電所」です。

「星のや軽井沢」と水力利用の歴史はとても古く、小さな発電機を作った"水力発電の始まり"が大正6年。その後、本格的な設備を入れて発電を始めたのは、昭和4年頃と言われています。ピンとこないかもしれませんが、大正6年と言うと星野温泉旅館が開業した年。つまり100年以上も前から、自然と共存して、持続可能なエネルギーを生み出していたことになるのです……!

水力発電で使用する水は、すぐ隣を流れる湯川から引き込み「星のや軽井沢」の池を経由して、発電所へ送りこまれています。

現在は3代目の発電機が稼働中

こちらが開業当初から数えて3代目の発電機。聞けば、一般家庭25軒分相当の再生可能エネルギーを生み出しているのだとか! かなりの電力量が作られていることになりますよね。

センターに写っているのは、当時24歳で本格的な水力発電所を作った、星野嘉政(よしまさ)さん

発電所内には、初代の発電機と一緒に嘉政さんが写った写真が飾られています。約100年後の種を巻いてくれた、嘉政さんの清々しい笑顔が印象的。

24時間365日、静かに働きつづける「地中熱」

さらに、水力発電のほかに活火山「浅間山」の恩恵を受けた地中の熱を取り出すシステム開発にも成功しています。こうした自然エネルギーでまかなわれる量は、どのくらいだと思いますか?

なんと「星のや軽井沢」で使用する量の約7割と言うから驚きです!

湯川から引き込んだ水は、リゾートの景観に欠かせないもの

実際に水力発電所を見学すると、どこにいても聞こえてくる川のせせらぎ。これが、水力発電システムに欠かせないものだということが実感できます。



【その3】趣の違う2種類の温泉は"源泉かけ流し"!

軽井沢を代表する人気の日帰り温泉「星野温泉 トンボの湯」

大正時代に、現在の代表・星野佳路さんの曽祖父にあたる国次さんが掘り当てた星野温泉。今では観光客に限らず、地元の人や別荘族に愛されていますが、もともとは草津温泉帰りの人が立ち寄る"仕上げの湯"として重宝されてきました。

草津温泉は日本有数の強酸性の湯。例えば、草津の中心部にある湯畑源泉は、pH2.1でほぼレモンと同じ酸性値です。以前、草津の人に教えてもらったのですが「1円玉を温泉に入れておくと、1週間で溶けてなくなるんだよ!」という逸話があるほど。

そんなハードな温泉に浸かった後は、肌に優しい仕上げの湯に入るのが格別。「星野温泉」の泉質は、三大美人泉質のひとつ「炭酸水素塩泉」を含んだ、ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉(低張性中性温泉)。

泉質名には出てきませんが、肌触りをまろやかにして、保湿をサポートしてくれる「メタけい酸」の含有量も100mg以上とたっぷり。温泉分析書をチェックすると、強力な美肌の湯だということがわかります。

室内から緑を眺めて癒される「星野温泉 トンボの湯」の内風呂

「星野温泉 トンボの湯」には、大きな内風呂と岩風呂が2つありますが、どちらも源泉かけ流し。温度の違う源泉をブレンドしながら、最適な温度になるよう調整しています。

温泉好きなら、「えっ、このサイズのお風呂が源泉かけ流しなの!?」と驚くはず。というのも、これだけ広いお風呂だと、一般的には温泉を循環ろ過して使い回す施設が少なくないのです。しかし、ここは湯量が豊富。敷地内から毎分400リットルもの温泉が湧き出すため、温泉を再利用することなく、かけ流しで楽しめるのです。

ヒノキと十和田石で作られた深い湯船の内湯は、窓が大きく、天井が高い! 室内にいながら森の緑を感じられて、開放的な気分を味わえます。

森林浴をしながら開放的な眺めが楽しめる「岩風呂」

花崗岩で作られた野趣あふれる露天風呂は、森の澄んだ空気に癒やされる最高のロケーション。お湯に浸かりながら、新緑、紅葉、雪見と軽井沢の季節のうつろいを感じられます。緑に覆われた山々と鳥たちのさえずりに耳を傾ければ、日頃の疲れもスカッと吹き飛びますよ。

しかも「星のや軽井沢」のゲストは、10時オープンより1時間早い時間に入場可能。一番風呂を楽しめるなんて、これは行くしかないでしょう!

「星のや軽井沢」宿泊者専用の「メディテイションバス」

そして、もうひとつ。「星のや軽井沢」には、ほかでは決して味わえない“リラックスを追求した"温泉があります。それが、こちらの宿泊者限定「メディテイションバス」。浴槽内は、リラックスできる温度(約39〜40度とぬるめ)になっていて、じっくり湯に浸かりながら、自分自身と対峙できます。

最初に現れるのは、打たせ湯が並ぶエリア。柔らかな光がもれてくる方へ歩いていくと、心が落ち着く「光の部屋」にたどりつきます。さらに奥へ進むと、光の世界から一変、非日常的な暗闇に包まれる「闇の部屋」へやってきます。

真っ暗な中、湯に浸かっていると、雫の音だけが静かに響き、五感が研ぎ澄まされるよう! 重厚な雰囲気がまた心を落ち着かせてくれます。

腹式呼吸を行いながら、「光の部屋」と「闇の部屋」を行き来することで、いつしか無心となる瞑想の感覚に。ここでしか体験できないディープなリラクゼーションタイムは、旅の満足度、充実度をグンとあげてくれますよ。

嬉しいことに、「メディテイションバス」も源泉かけ流し。外に出歩かず、おこもりしたい人にはうってつけの名湯です。

「星のや軽井沢」総支配人、赤羽 亮祐さん

最後にアフターコロナを見据えた今後の展望について、総支配人の赤羽さんに話を伺ってきました。赤羽さんは長野県伊那市出身。星野リゾートへ入社後、「星のや軽井沢」の総支配人に抜擢され、現在に至るまで第一線で活躍を続けています。

「コロナ禍で苦戦した時期もありましたが、軽井沢は滞在のフィールドが屋外であることや、マイクロツーリズムの機運が高まり、都心近くの方がいらっしゃったこともあり、"星のや"の中でも早い段階で限りなく通常運営に近い状態へ戻ることができました」と、教えてくれた赤羽さん。

「これからは、コロナ禍でセーブしていた"未来を見据えた活動"を行っていきたいと思っています。例えば、今まで脈々と受け継がれてきた環境経営や星野リゾートの歴史は、私たちが最も大切にしてきたこと。今後はお客さまが滞在する中で、そういった点にも触れて楽しんでいただけるような仕組みを考えたいと思っています」。

具体的に、どういったサービスをお考えなのか尋ねてみると……

「星野エリアを散策する中で、ひとつのコンテンツとして、水力発電所を見てもらえるように整備したいと思っています。できれば、2022年中には何かしら形にしたいですね」。

先人から受け継いださまざまな思いがぎゅっと詰まった、グループのフラッグシップ的な存在ならではの取り組みですね。今後が楽しみです!

○地の利を生かしたエネルギーを大切に受け継ぐリゾート!

日本のホテルブランドの中でも、絶大な知名度とブランド力を誇る「星のや軽井沢」。しかし創業当初から、サスティナブルな取り組みが行われてきたことを知らない人が多いのも事実です。

脱炭素やSDGsが声高に叫ばれる今だからこそ、楽しい! キラキラ! なだけではない、真の理念に触れる旅をしてみるのもいいかもしれません。

■Information

星のや軽井沢

【場所】長野県軽井沢町星野

安藤美紀 あんどうみき 猫好きのフリーライター。2012年より独立し、全国津々浦々、旅をしながら見過ごすのはもったいない+αのワクワクするような旅情報を発信してます。これまで書いた記事の数は、700本以上。温泉ソムリエマスター、健康入浴指導士でもあります。温泉、ドライブ旅、グルメ、ディズニー系が得意。 この著者の記事一覧はこちら