【試乗】マツダの新たな挑戦は成功の匂いしかしない! CX-60プロトの直6ディーゼルとPHEVに乗った
まずは6気筒のディーゼル+マイルドハイブリッドを試す
世界的なメガヒットとなっているCX-5や、国内で大人気のCX-8などがマツダの屋台骨となって「100年に一度」と言われる変革期に備えようとしている。
MX-30のBEVにロータリーエンジンを発電機として搭載しレンジエクステンダーとしてのラインアップを目指すなど、電動化への取り組みにも積極姿勢を見せている。
そんななか、2022年秋に登場すると発表されたのが「ラージ商品群」と呼ばれる新車種系列である。その最大の特徴はエンジンを縦置き搭載することに現れている。CX-5やCX-8など、従来の横置きエンジン搭載モデルは「スモール商品群」と位置づけ、ラージ商品群はそのアッパークラスとして大型化された車体にグレードアップしたパワートレインを搭載する。
今回、そのラージ商品群の第一弾となるCX-60のプロトタイプ仕様に試乗する機会が得られたのでリポートしよう。
すでに外観写真なども公表され、デザインは周知されつつあるが、試乗当日のプロトタイプ仕様はラッピングでカモフラージュされていて。細部のディテールはわからない。ただ車体全体のシルエットはCX-5に似通っており、現行CX-5を最近購入した身としては複雑な気持ちだ。
用意されたのはディーゼル・ターボエンジン+MHEV(マイルドハイブリッド)搭載モデルとPHEV(プラグインハイブリッド)搭載の2モデルだが、カモフラージュされた外観から2台を判別することはできない。
まずディーゼル+MHEVに試乗するように案内される。クルマに近づくと、クルマがCX-5よりひとまわり大きいことがわかる。車体のディメンションは全長4740mm、全幅1890mm、全高1685mmだという。またホイールベースは2870mmもある。現行CX-5は全長4575mm、全幅1840mm、全高1690mmでホイールベースは2700mmだ。明らかに大きく、少し低いルーフとなっていることがわかるだろう。
パワートレインは新開発の3.3リッター直列6気筒ディーゼルエンジン+ターボで、これに48VのMHEVシステムを組み合わせている。いつのまにこれほどのパワートレインを開発していたのかと思わせる高度な内容だ。しかもトランスミッションは、これも新開発の8速ATで、トルクコンバーターを持たないトルコンレス仕様としている。従来トルコンが備わる位置にMHEVの駆動モーターが配置され、その前後に摩擦クラッチを設けて走行状況に応じディーゼルエンジンとモーターの駆動力を断続制御する。モータートルクでクリープを演出するのでトルコンは必要ないというわけだ。
ディーゼルエンジンを始動すると、社外ではやや大きめのディーゼルエンジン特有のガラガラ音が聞こえる。運転席に付くと、それはかなり小さくなるが、まだ遮音は完全とはいえない。だがエンジンの振動はほとんど感じず、6気筒の美点が発揮されているようだ。
世のなかがダウンサイジングで小排気量かつ気筒数減少に向かうなかで、マツダはなぜ排気量アップとマルチシリンダーを選択したのか。それは実用燃費の追求から得られた結果だという。世界中に展開されるCX-5が搭載するSKYACTIV-D2.2リッター直4ターボエンジンから得られたさまざまなデータを解析し、気筒容積の理想的な大きさを特定。2段エッグ形式という特異な形状の燃焼室と高精度の燃料噴射を組み合わせることで理想的な低速トルク特性を引き出すことに成功した。それにMHEVを組み合わせることで実用領域においてCX-5を上まわる燃費特性が獲得できているというのだ。
大きな車体に馬力スペックでも大きく上まわっているのに実用燃費が優れるというのは信じ難いほど。テストコースで走らせると、動力性能の向上は圧倒的で、欧州のスーパーSUVを彷彿とさせる強力な加速力を引き出せる。まだクラッチ制御や変速タイミングなど開発途上にあると感じさせる面もあるが、完成したら世界が驚く走りを披露させることになりそうだ。
サスペンションにも大きなこだわりが感じられる。フロントはダブルウイッシュボーン、リヤにはフルマルチリンク式を採用。エンジンを縦置きとしたことで左右の重量バランスが最適化されるだけでなく、サスペンション回りのスペース効率も高まり、理想的なジオメトリーの設計が可能となった。
コーナーでの動きはライントレース性が高く安定している。ただ車体ロールがとくにリヤで大きく、アンチロールバーのロール剛性などは見直しが必要な印象だった。
フロントサスペンショのスプリングダンパーユニット車体側取り付け部位(砲塔)はアルミのダイキャストが採用され、高額な欧州ブランド車並みのメカニズムを採用しているといえる。
時速100kmまでEV走行が可能なPHEV
このシャシー。サスペンションはPHEV仕様にもそのまま採用されている。PHEV車は2.5リッター直4ガソリンエンジンに高出力電動モーターを直列配置。同じく8速のトルコンレスATと組み合わせている。
リチウムイオンバッテリーを床下にレイアウトしWLTCのEVコンバインモードで66km/Lの燃費性能を示しているという。
実際、走り始めから時速100kmまでEVのままエンジンを始動させずに走行可能。通常の市街地走行なら、ほぼEVとして使用できる。
アクセルを踏み込むと、エンジンが始動し全開時には全出力がデプロイ(放出)される。その加速力はディーゼルターボより力強く、俊足だ。電動モーターのトルクピックアップに優れるので市街地ではキビキビと走れる。バッテリー搭載位置で重心が低く、エンジン全長も短いのでノーズの回頭性もいい。最高速が求められる欧州ではディーゼルターボ、市街地メインならPHEVという選択だろうが、国内ならどちらを選んでもメリットを大きく感じられるだろう。
マツダはこのCX-60を広島の従来の製造ラインで混合生産するという。果たして発売価格がどれほどの値段になるのか注目されるが、内容からCX-5のような競合に対して割安さを感じられるような値段構成とは成り得ないだろう。