ハラスメントの原因は部下に? 毎日新聞が誤解招く表現でセミナー紹介を修正 - 岸慶太
※この記事は2021年10月12日にBLOGOSで公開されたものです
全国の企業などが利用する人事情報のポータルサイト上で、全国紙の毎日新聞社がハラスメント対策に関するオンラインセミナーの開催を告知し、そのタイトルやセミナーの内容紹介の文言に対して疑問の声が上がっている。
タイトルに「権利ばかりを主張する困った社員はいませんか?」と盛り込んでいたほか、「ハラスメント対策は部下の常識力を高めることで未然に防ぐことができる」などと説明し、ハラスメントは部下に原因があるとも受け止められる内容だった。「職場内の優位性を背景」などとした厚生労働省のパワハラの定義に該当する可能性もある。
毎日新聞社は取材に対して「ハラスメントはあってはならない。真意が伝わらない部分があった」と回答し、12日午後1時までに告知の文言を一部修正した。
「『ものさし』を適正化」 ハラスメントの要因は部下に?
今回のセミナーは、ウェブ上で行うセミナー「ウェビナー」として15日午後2時から予定されている。社会部で20年以上の経験があるという男性記者が講師を務め、若手社員など部下とのコミュニケーションの取り方について、実際のハラスメントの事例を紹介しながらその対策を伝える内容という。定員は100人で、参加は無料。
問題となったのは、タイトルとセミナーを紹介する文言だ。当初、タイトルは「権利ばかりを主張する困った社員はいませんか? 記者が見聞きしたハラスメントの話 部下の持つ『ものさし』を適正化するための『常識力』の高め方」とされていた。
セミナー紹介は、「ハラスメント対策は、上司・部下両輪で対策を行うことが重要」としつつも、「部下の常識力を高めることで未然に防ぐことができます」と部下にハラスメントの原因があるとも取れる趣旨を記していた。
「優位的な関係を背景に」 パワハラとは?
Twitterでは11日夜に疑問を呈するツイートがあり、同社は、12日午後1時までにタイトルを「若手社員とのコミュニケーションギャップにお困りの企業向け 若手社員に備えさせたい『常識力』の高め方とは。」に修正。部下の“常識力”を高める必要性に言及した文言は削除したものの、修正後も「中には業務の適正な範囲内と評価されるものも全くないわけではありません」「近年はハラスメントシフトがとられており、若者に注意する際も神経を遣います」などと記している。
職場でのパワーハラスメントを巡っては、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が昨年6月に施行された。その中で、パワハラについて①優越的な関係を背景にした言動②業務上必要な範囲を超えたもの③労働者の就業環境が害されることーーと定義。パワハラは「行ってはならない」と明記されている。
厚生労働省はパワハラについて、同僚の前で叱責するなど「精神的な攻撃」、丸めたポスターで頭を叩くといった「身体的な攻撃」、新人に仕事を押し付けるなど「過大な要求」、仕事を理由なく制限する「過小な要求」、性的指向・性自認などを理由に職場で無視するといった「人間関係からの切り離し」、妻への悪口を言うなど「個の侵害」の6つに分類している。
「良い人ぞろいの会社なのに」 社員も動揺
今回のセミナーについては、毎日新聞社の社員の間でも動揺が広がっている。
西日本の支局で働く20代の女性記者は「支局は少人数なため、運が悪ければ人間関係で悩みやすい」と話し、「会社が仮にパワハラが部下に原因があるという認識であるとすれば、もしもパワハラに遭った場合、どこに相談すればいいのか」と打ち明ける。
東京本社で働く30代の男性記者は「文章のプロが集まる会社であるはずなのに、パワハラに対して毎日新聞社という会社はこんな認識なのかと思わせてしまった時点でNG」と切り捨てる。「他の会社と比べても個々の社員は“良い人”ぞろいなのが自慢だったのに、会社が評判を下げている」と嘆く。
毎日新聞社は今年6月9日の社説で、トヨタ自動車の若手社員が自殺したことにふれて「トヨタのパワハラ自殺 企業の意識改革で根絶を」との社説を掲載。「ハラスメント行為の根絶には、企業の意識改革が不可欠だ」と主張するなど、紙面ではハラスメント対策の必要性を繰り返し訴えてきた。
取材に対し、同社社長室広報担当は「ハラスメントはあってはならないことです。今回のセミナーはハラスメントをなくすことを目的にした内容です。紹介文で、こちらの真意が伝わらない部分があったため修正しました」と回答した。
セミナー紹介が掲載された人事情報ポータルサイト「日本の人事部」を運営するHRビジョン(東京都港区)は取材に応じなかった。
来年で創刊150周年 新聞協会賞も最多受賞
毎日新聞は、東京で最初の日刊紙とされる「東京日日新聞」(1872年創刊)をルーツとして、日本で最も歴史ある新聞。来年2月に創刊150年を迎える。
厳しい財政状況が指摘されるものの、 “毎日ジャーナリズム”とも呼ばれる独特の報道姿勢で知られる。2021年度も東京本社新型コロナ写真企画取材班の「『ぬくもりは届く』~新型コロナ 防護服越しの再会~」が日本新聞協会賞を受賞し、同社の受賞は6年連続33回目で、最多記録を更新した。