※この記事は2019年12月29日にBLOGOSで公開されたものです

年の瀬になって現職国会議員による汚職事件が日本中を駆け巡った。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)への日本参入を目指していた中国企業「500ドットコム」を巡って、外為法違反事件で東京地検特捜部は自民党二階派の秋元司衆院議員(48)=東京15区=を逮捕した。「500」に便宜を図る見返りに現金300万円を受け取った収賄容疑だが、政界では「秋元逮捕は単なる入口に過ぎない」なんて声も出ている。

秋元司議員に反省の色なし

秋元容疑者はIR担当の副大臣だった2017年9月下旬、元政策秘書らを通じ、「500」から現金を受け取ったという。金額はたかだか300万円。衆院選を前に「陣中見舞い」でもらった程度だと考えていたのだろう。秋元容疑者は「中国企業側から金銭はもらっていない。便宜を図った記憶もない」と、いまだに〝反省〟もすることもなくうそぶき続けているようだが、所属派閥の二階派にとっては大打撃だ。

ちなみに、現職の国会議員が逮捕されたのは政治資金規正法違反で有罪判決を受けた石川知裕・元衆院議員(46)以来10年ぶりのこと。

問題の「500」は、中国・広東省深圳市に本社を置き、オンラインカジノなどの事業を手掛けている。日本法人の支社は17年7月に都内に設立されていた。

今回の事件は、秋元容疑者と共に逮捕された「500」の日本法人支社の顧問と名乗る紺野昌彦(48)、仲里勝憲(47)の両容疑者らが、無届けで現金数百万円を国内に持ち込んだ「外為法違反疑惑」が発覚、特捜部は12月19日に関係先として、衆院議員会館内の秋元容疑者の事務所などを家宅捜索していた。

事件の舞台となったのは、IR事業の参入に名乗りを上げていた北海道留寿都村(るすつ村)。今回の特捜部の捜査もあって、北海道と留寿都村はIR事業から撤退したが、IRについては他に大阪や横浜、さらには和歌山、東京、長崎、名古屋などが検討、立候補している。

「秋元容疑者は留寿都村での事業展開を計画していた札幌市の観光会社に対し、出資の意向を示していた『500』の便宜を図ったとされています。彼は、二階派でIR事業の推進派としても知られ、17年8月には、安倍政権の成長戦略の一環として沖縄県那覇市で開いたシンポジウムにも出席。IR進出について講演会まで行っていました。このため特捜部では元政策秘書や秋元容疑者から任意で事情聴取し、持ち込まれた現金への関与を調べていたのです」。

紺野昌彦容疑者には銃刀法違反で実刑判決の過去

その秋元容疑者と「500」を結びつけたのが紺野容疑者だったわけだが、秋元容疑者は「500」の本社や留寿都村を訪れ、村長や幹部と会っていたことも分かっている。秋元容疑者は現金300万円の他、18年2月中旬に妻子と共に北海道旅行の招待を受け、航空券や宿泊代など約70万円の利益供与を受けていたことも問題視されている。

「事件のキーマンとなっている紺野容疑者は、カンボジアやタイ、マレーシアなど東南アジアで投資詐欺を繰り返してきた要注意人物でした。ビットコインなどの仮想通貨にも明るかった。一方で、銃器マニアとしても知られ、何年か前になりますが、銃刀法違反で2年8カ月の実刑判決も受けたこともありました。そんな人間を信用し、ある意味で金をタカってきた秋元さんは国会議員としての資格なんてありませんよ」(紺野容疑者を知る人物)。

紺野容疑者はここ数年、沖縄を活動の拠点にしていたという。当初は沖縄でのIR事業を考えていたようだが、17年9月の沖縄県知事選で誘致反対派の玉城デニー氏が当選したことから情勢が一変した。そこで「沖縄でのIR誘致は難しいと判断し、新たに目をつけたのが留寿都村だったんです。結局、秋元容疑者は紺野容疑者らのオイシイ話にまんまとハマってしまった」。

さらに「紺野容疑者が留寿都村に目をつけたのは、ニセコに対抗したいという思いがあったからのようです。ニセコはパウダースノーで世界的に有名なリゾート地として知られていますが、オーストラリア人やフランス人を中心に、同地を訪れる外国人客が増え、北海道でも有数の観光地になっています。そこでニセコに次ぐ北海道の観光地を中国企業の出資を得て開発しようと考えたようです。北海道は中国人から人気もありますからね」。

しかし、今回の逮捕劇で二階派を率いる自民党の二階俊博幹事長も落ち着いてはいられない。世間的にも政治資金疑惑ばかりか不倫疑惑、女性スキャンダル、失言…。何か起こるごとに「また二階派…」なんていわれる始末。しかも、IR事業に関しては、二階幹事長も和歌山への誘致を推し進めていただけに今後、候補地として風当たりが強まることは明らか。とにかくタイミングが悪い。

それにしても、秋元容疑者は衆議院議員としては小物だが永田町では目立つことが大好きだった。麻雀が大好きで「麻雀議連」を立ち上げたり、ピエール瀧が出演していて公開が危ぶまれた「麻雀放浪記2020」の国会議員試写会を衆議院第1議員会館で開催するなどして話題となった。「その関係で、主演だった斎藤工とは交流が深かったともいわれています」(芸能関係者)というから、かなりのミーハーである。

「国会議員でありながら芸能事務所を運営したり、芸能界に対しても積極的に関わろうとしていました。有名芸能人との交流を自身のツイッターでアップしたり、パーティーを開いては芸能人と派手にしていましたよ。例の〝桜を見る会〟では芸能人枠を仕切っていたなんて情報も出ています」(芸能記者)。

そんな体質だっただけに、芸能界にばら撒く〝資金〟が欲しかったのかもしれないが、今回の事件によって、安倍政権が「成長戦略」の一つに掲げてきた日本のIR事業は後退することになってしまったことだけは確かだろう。

司法取引で検察に情報提供?

ただ、金額の問題ではないが、たかだか300万円の収賄事件で終わるとは思えない。こんな小物の逮捕だけで東京地検特捜部が終わらせるわけもなく「秋元容疑者を入口に今後、大物政治家の逮捕もある」との声もある。

「年明けの1月20日からは通常国会が始まります。会期中は不逮捕特権があるので、簡単には手が出せなくなりますので、その前に何らかの動きはあるはず。しかも、ここにきて秋元容疑者と共に動いていたといわれる白須賀貴樹(しらすか・たかき)衆院議員の事務所にも家宅捜索に入るなど動きもあります。

また、パチンコ関連などにも捜査の範囲は広がりつつあります。しかし、今回、注目すべきは紺野容疑者です。逮捕後は特捜部の事情聴取には素直に応じているようですが、噂では司法取引をしたともいわれています。紺野容疑者は主犯の一人ですが、刑を軽くしてもらおうと思っていることは確かで、その供述が気になるところです」(前出の紺野容疑者の知人)。

いずれにしても、IR事業の利権を狙ってヤクザ顔負けの動きをしてきた国会議員が、ここにきて一気に炙り出されようとしている。特捜部が本気になっているとしたら、IR事業で中国企業に加担する議員排除に米国が動いたとも考えられなくもない。だとしたら、「桜を見る会」よりも政権を揺るがすことになりかねない。東京五輪を前にして安倍総理も頭が痛い。