「正直、受かると思っていなかった」お嬢様芸人たかまつなな NHK内定と文春砲の真実 - 土屋礼央のじっくり聞くと - 土屋礼央

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※この記事は2018年01月12日にBLOGOSで公開されたものです

土屋礼央の「じっくり聞くと」。今回は、お嬢様芸人のたかまつななさんにインタビュー。

フェリス女学院からフリップを引っ提げて芸能界に降臨した「お嬢様芸人」というだけでもキャラが濃いというのに、現役の慶大大学院生・東大大学院生でかつ、株式会社笑下村塾の社長を務め、政治の授業をするために全国を飛び回る日々。

さらにこの春からNHK入局が内定しているとの文春砲まで飛び出して、さぁ、大変。お嬢様の明日はどっちだ!?

そんなたかまつななさんに、土屋礼央が今回も「じっくり」聞いています。

NHKに受かるとは思っていなかった

土屋: いきなりだけどNHK内定ってどういうこと!?「週刊文春」にすっぱ抜かれたでしょ。あれで、ななちゃんに箔が付いたよね。このひとは何を考えているんだろうってみんなが興味を持った結果のこの対談だし。なんでNHKに入ろうと思ったの?

たかまつ:正直、NHKに受かるとは思わなかったんです。

土屋: 記念受験?

たかまつ:ではないと言ったらウソになります。日頃の活動で社会問題を扱ったり、若者の声を拾い上げたりしているのに、就活とは何かを知らないのはマズいと思って。マスコミの中でまだNHKなら間に合うというのを耳にしてエントリーシートを出しました。

土屋: ほかの会社も受けたの?

たかまつ:実はあと1社受けましたけど、まさかNHKに受かるとは思っていませんでした。面接では出張授業で伝えている内容を子供たちにもっと伝えていかなきゃいけないと思っていること、テレビ番組で社会問題や政治を身近にする番組を作っていきたいと思っている話をしたんです。

土屋:政治を若者に伝えたいという志は一緒だもんね。

たかまつ:もし入局が決まっても会社は続けますって伝えたんですけど、合格してアレ?本当にいいの?って思いました。

土屋: NHKって意外と懐が深い…。

たかまつ:内定が出てからは、私の会社「笑下村塾」をどうやって続けていくかということをNHKの人事の方に相談していたんです。そうしたら発表よりも先に週刊文春の記事が出てしまって…。

土屋:NHKに行くことに批判はあるの?

たかまつ:私の取引先や銀行はめっちゃ怒っています。女性や若者に対して安い金利でお金を借してくれる制度があって、将来困った時のために銀行から融資を受けていたんです。

手元にお金がないと補助金や助成金が受けられない場合もありますから、ある程度資金をプールしておこうと考えました。このお金があるのでNHKに入ってしばらくは会社の売り上げがたたなくても1年くらいはなんとか回していけるだろうと算段していたら、あの文春砲です。

「夢は“ポスト池上彰”」フェリス卒“お嬢様芸人”がNHK内定 -「週刊文春」編集部

「NHKに内定って本当ですか!」って銀行の方が一番怒っていました。「たかまつななじゃなくって、会社にお金を貸しているんですよね?」と言ってみたものの、そこは私の信用でお金を貸してくれていたわけで。

土屋: これから会社とNHKを両立していくわけだけど、希望する部署はあるの?

たかまつ:まず報道のことを勉強したいと思っています。採用は記者ではなくディレクター職ですが、自分が政治について語る時に、記者との人脈があるのが一番大事だと思っていますので、色々な方と関わりを持ちたい。

土屋: もし職場が合わなかったらやめればいいと思うんだけど、そこはどう? NHKをななちゃんがどう調理するんだろうかって興味があるから、ある程度は粘って欲しいけど。

たかまつ:働き方改革が取りざたされている今だから、NHKも副業OKになった方がいい、その突破口になって欲しいと言って下さる方も局内にいらして、その反応はすごく嬉しかったです。

土屋: こっちで勝手に想像していたよりも楽しそうね。ななちゃんの文春砲を受けての釈明ブログを読むと、深刻に考えているなと思って心配していたの。

【文春砲について】お詫びとご報告 - たかまつななオフィシャルブログ

たかまつ:そりゃ大変でした。あの文章を取引先、先輩の芸人さんも、NHKの人事も役員も見るかもしれないじゃないですか。だから一度別の人に添削してもらったんです。

私が最初書いたものについては「文春砲じゃなくて、たかまつ砲になっている、これじゃもっと荒れるよ!」と修正されたんですけど、直されすぎて私が言いたいことではなくなってしまって再修正、といったやり取りを続けてあの形になりました。

土屋: 結果あれで収まって、逆に応援しようというひともいたんじゃない?

たかまつ:おおむね、そういう感じになりました。ブログにはNHKに行きたい気持ちが7対3ですって書いたんですけど、内定をもらっている以上、気持ちは10対0じゃないといけない。でも現時点では、芸人で学生で会社も経営している。まだ整理できていない時点では7対3と書かざるを得なかったんです。

それを見たNHKの方の中には「来ない可能性も3あるの?」という声もあったそうですが、全部を言えない私の立場をフォローしてくださる方がNHK内部に沢山いたとあとで聞かされて、改めていい会社だなと思いました。

若者はどうしたら政治に興味を持てるのか

土屋:そもそも、どうして政治を若い人に伝えようと思ったの?

たかまつ:18歳選挙権が始まったことがきっかけでした。政治の主役が若者になると楽しみにしていたのですが、ふたを開けてみるとそんな風にはならなかった。

今回の18歳選挙権導入は70年ぶりの制度改正だったので、このペースだと次の改正は70年後。その時私は90歳を超えています。まだ23歳だからって若いことにあぐらをかいていられないと痛感しました。

それで急いで『会社を1週間で設立する本』を買ってきて、会社設立して、若い人に政治に関心をもってもらうための出張授業に行こうと考えました。

土屋: 若者が主軸となるような政治、選挙になっていけばいい?

たかまつ:政治家って実際に会うと、日々の業務に追われて自分の支援者の意見を聞くだけでも結構大変。若い世代に関心があっても、どうしたら若い子の意見を拾えるのかわからないという政治家もすごく多いんです。

若い世代の思いが伝わらない今のままだと私たちの世代はどんどん損していく。なのにそれを変える手立てがない。こんな状態では未来に希望が持てないじゃんと思いました。

土屋: 先送り、先送り。あとは若いもんに任せてだもんね。

たかまつ:選挙に行かない若い世代と大人たちとの意識の溝が埋まらない。これを埋める作業が必要だなと思って出張授業『笑える!使える!政治教育ショー』を開催しています。

土屋:実際にどういう授業をやってるの?

たかまつ:全国の学校に行って、選挙に行かないと将来どう損をするのかということを生徒さんに考えてもらっています。例えば『逆転投票シュミレーションゲーム』というロールプレイングゲームでは、いろんな世代の役になってチーム分けするんです。女子高生役、おばあちゃん役、主婦役と割り振って、ひとり100ポイントずつ持っているんですけど、人口比率によってポイントを変えて、それに投票率を掛け合わせて影響力のポイントをみていきます。

するとチームによっては人数が多いからといって影響力が大きいとは限らない、逆転現象が起きることもあるんです。これが今、世間で起きていることなんだよって体感できるようになっています。

土屋:教育現場に入って感じる問題点は?

たかまつ:「政治を勉強するには何を見ればいいか」と質問されるんです。でも今は勧められるものがありません。新聞やテレビを見る時に疑ってみましょうとか、賛成や反対、両方の立場を見るようにしましょうとか、その程度のことしか言えないのが現状です。

「何々を見ましょう」と言いたいのにメディアではそれを扱っていない。将来はうちの会社で、高校生記者100人規模で社会問題や政治を取り扱うメディアを作っていきたいなと思っています。→高校生記者の応募はこちらから

たかまつなながいなくても授業ができる仕組みが大切

土屋: ななちゃんは爆笑問題・太田さんの政治の説明が面白くて、政治とお笑いとを融合させようと思ったとインタビューに答えていたけど、芸人になってみて、どう?

たかまつ:今の私には「芸人起業家」や「政治タレント」という色付けも必要なことですけど、それよりも政治を若い人に伝えたいんです。より多く伝えるためには、『たかまつななにしかできないコンテンツ』ではいけないんです。誰でも使えるプラットフォームを作ることが大事だと思っています。

土屋: 伝えるメソッドをテンプレート化するということ?

たかまつ:そうです。ほかの芸人さんや学校の先生にも使うことができる教材を作りました。将来的には芸人100人出張授業という形にしたいと思っています。この教材を持って芸人さんたちが全国に散って、今日もどこかで政治教育ショーが行われている。そういう世界観を目指したので、たかまつななの個人事務所ではなく『笑下村塾』という会社を設立しました。

土屋:会社を運営していく上で、芸人をやっていて良かったと思うことは?

たかまつ:笑下村塾に声を掛けてくださった理由を伺うと「たかまつさんのところなら何とかしてくれると思った」と言われました。私がお笑い芸人だからそう思ったそうです。授業をすると、先生から「うちの生徒が前を向いて話を聞いているのは奇跡です」って言われたりすることもあります。

ですから、テレビの力はすごいんだなと思います。『Qさま!』や『さんま御殿』でお嬢様エピソードを話しているだけで、私が政治について中立かどうか証明もされていないのに。芸人であることに今の活動はすごく助けられていると感じています。

土屋: 僕はななちゃんが作った会社のビジネスモデルの仕組みに感動したの。大手事務所にいると自分のしたいことを全部通すのはなかなか難しいんだけど、ななちゃんの会社の仕組みはYouTuberの広告収入の部分も全部自分でやる、究極のYouTuber感覚なのね。

たかまつ:教育ってお金を取りにくい分野ですから、正直に言って儲かるビジネスモデルではないんです。それでも自分でやりたいことなので、NPOではなく株式会社にしました。お金が入って来る形にしておかないと事業が継続しないと思ったからです。政治の授業をやっているところではおそらく唯一の株式会社です。

それから運営にはオンラインサロン(WEB上の会員制サロン)も取り入れました。そのオンラインサロンの中にクラウド営業部を作ったんです。今、私のマネージャー、つまり会員が全国に50人いて、月に5000円の登録料を払っていただいているんですが、仕事を取ってきてくださったら売り上げの2割をお支払いする約束をしています。→マネージャー募集します! たかまつななのクラウド営業部

この間、大阪で行われたビジネスコンテストに参加して、決勝まで残っていたんですけど、別の仕事とスケジュールが重なってしまったんです。コンテストに出られないと思っていたら、そういえば大阪にクラウド営業部の人がいたなと思い出して、その人が私の代わりに出て下さることになって優勝できたんです。嬉しかったぁ~。

土屋: この会社の仕組みはずっと温めていたの?

たかまつ:芸人としての自分はめちゃくちゃ面白いわけでもない。ひな壇で40代の芸人さんが第一線で活躍している中、24歳の自分が入り込むのは難しい。

でも一方でお笑いには可能性があって、それをテレビとライブハウスだけで消費しているのはすごくもったいない。お笑いと違う分野を掛け合わせること、そのひとつは教育だというのが私のミッションだと思ったんです。

そういうお笑いと何かの融合を、今、30代の芸人さんがやり始めているんです。例えばピース又吉さんの本や、キングコング西野さんの絵本。私はさらに一回り下なんです。だから私たちの世代はもっと違うことをやらなければいけない。芸人としての焦りみたいなものはずっと持っています。

土屋: 世代的に新しいことをやっていかないと勝てない?

たかまつ:私だとネームバリューが何段階も落ちるので、企画や教材で頑張らないといけないと思いました。

前所属事務所「サンミュージック」を辞めたワケ

土屋:今、事務所に所属していないよね。前の事務所・サンミュージックはどうして辞めたの?

たかまつ:サンミュージックには2年半いました。マネージャーさんは私を売る長期の計画を考えてくださったんです。その方針が、失敗しそうな番組には出ない、政治のことも最初のうちは断るというものだったので、私はすごく焦りを感じました。

もともと「お笑い界の池上彰になりたいです」と言ったらイイね!って言ってくださったのでサンミュージックに入ることにしたんです。でも事務所にいたら政治の話ができなくなる。

そして19歳、20歳の私がひな壇に座ってどのくらい結果出せたのかと反省することも多かったんです。このままだとお笑いの世界に残れないと感じました。売れたら好きなことができるよと先輩方は仰るんですけど、お嬢様芸人で一旦売れたら、お嬢様以外の話を求められることもなくなり、私自身殻を破ることが出来ませんでした。

それに加えて東大にも通い始めたタイミングでもありました。もっと勉強して、自分を磨く。自分に投資する時間を持ちたいなと思ったことも大きな要因でした。

土屋: よく円満に辞められたね。

たかまつ:最終的に社長が文化人の枠に移るかという話もしてくださったんですけど、そこだとお笑いをやりたくてこの事務所に入ったのにとジレンマを感じました。最終的に社長は「いつでも戻ってきなさい」と言って下さいました。その上、私がやめた後、芸能界から干されないようにいろいろと社長が考えて下さって。

土屋: すごい!そんないい社長が芸能界にいるの!?そんな社長も、まさか自分で事務所を作るとは思わなかっただろうね。

たかまつ:私も自分で会社を作るとは思っていませんでした。

土屋:事務所のような仕組みを持ちながら自分のペースで仕事が出来るって最高じゃない。 その形は、これからの若者のスタンダードになると思うよ。

たかまつ:実際のやりくりは難しいです。でも事務所に所属していると、政治的な話をするたびに事務所にクレームがいくことを思うと、自分を縛り付けてしまって、自由に発言できなくなってしまいます。そういうことも全部ひっくるめて全部を自分で責任を持とうと思って事務所を離れたんです。

土屋: その年齢で独立ってすごいね。僕はいいビジネスモデルって、人間関係が少しくらい希薄な方がうまくいくなと感じているの。マネージャーと二人三脚だと、そのひとの人生まで背負わなきゃいけないけど、少し距離を置くことで、お互い気遣いながら、仕事のスピードもアップする。

一度、ななちゃんのモデルに自分を当てはめてみたんだけど、音楽には経費というリスクがある。例えば新潟でライブをやりますよって時に『礼央さんなら2000人、入りますよ』って言われて、調子に乗って出かけてみたらガラガラだった時の責任はどこが持つのか。

でも、営業でお金もらって仕事する仕組みなら、ななちゃんのビジネスモデルを取り入れやすいよね。これからは、このパターンだよ。この仕組みは天下がとれる。

たかまつ:ありがとうございます!

土屋:ななちゃんにはNHKでも成功してもらいたいし、会社でお金も稼いでほしい。そういうモデルになってほしい。そこにやっかみは生まれないと思うのよね。儲けることにプラスして志が加わっている形がすごくいい。

今でも忙しいんでしょ、来年はもっとすごいよ。テレビだけじゃないよね、売れるって。 …恋愛してる暇あるの?

たかまつ:彼氏紹介してください!NHKでお相手を見つけようと思ってるんです。

土屋:ななちゃんって意外とそういうところは安定志向なのね。いつくらいに?

たかまつ:明日にでも!すぐ結婚したい!5人くらい子供を産みたいです。少子化対策に貢献したいなと思っています。相手は年上がいいですね、30代後半でも!バツイチでも!

土屋: NHK局員で社長でお母さん。全部実現させそうね。NHKに入っちゃうと、テレビ出演はダメなんだっけ?

たかまつ:講演会で喋るのと、同局とニコ生まではOKです!

土屋:うちの学校に来て欲しい!という場合はどうすればいい?

たかまつ:笑下村塾のホームページまで!100人の芸人さんを集めてますから。

土屋:事務所に入っている僕も登録OK?

たかまつ:土屋さんって芸人さんでしたっけ?(笑)でも来ていただけるなら喜んで。事務所にオファーを出します。でもナベプロさんは厳しいんじゃないですか?

土屋: たかまつななは、今一番乗っかるべきひとですよ。マネージャーに相談してみます、登録していいかって。

たかまつ:ぜひお願いします!

プロフィール

たかまつなな
1993年生まれ、神奈川県横浜市出身。フェリス女学院出身のお嬢様芸人として、テレビ・舞台で活動する傍ら、 お笑いジャーナリストとして、お笑いを通して社会問題を発信している。18才選挙権を機に、若者と政治の距離を縮めるために、株式会社笑下村塾を設立。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科と東京大学大学院情報学環教育部で学業に勤しみながら、講演会・シンポジウム・ワークショップ・イベントなどを手がける。夢は、お笑い界の池上彰になることである。
・たかまつななオフィシャルブログ
・株式会社笑下村塾
・Twitter - たかまつなな @nanatakamatsu

土屋礼央
1976年生まれ、東京都国分寺市出身。RAG FAIR として2001年にメジャーデビュー。 2011年よりソロプロジェクト「TTRE」をスタート。ニッポン放送「土屋礼央 レオなるど」、FM NACK5「カメレオンパーティ」などに出演中。
・ TTREアルバム「ブラーリ」
・土屋礼央 オフィシャルブログ
・Twitter - 土屋礼央 @reo_tsuchiya