※この記事は2017年06月30日にBLOGOSで公開されたものです

「オリンピック期間中もビッグサイトを使わせろ!」

2020年の東京オリンピック・パラリンピックが開催に伴い、19年4月から20年11月までの20ヶ月間、東京ビッグサイト(江東区有明)がメディアセンターとして使用される。そのため、コミックマーケットなどのイベントや展示会の縮小や中止が見込まれている。

もっとも影響がある20年5月から9月までに125本の展示会が中止となり、最大で3万7000社が出展できなくなる。そのため、1兆円規模の売り上げを失うことが予想されている。「展示会産業で働く人々の生活と雇用を守る会」(下茂貴樹代表)は6月22日、東京都庁周辺をデモ行進した。主催者発表によると約400人が参加した。

同日13時に、新宿中央公園を出発し、1時間かけて、都庁を一周した。下茂代表はこう述べる。

「ビッグサイトをメディアセンターとして使われると、会場が狭くなります。実際に働く社員、職員、アルバイト、関連業者らが関係してきますが、各社とも売り上げが落ち込みます。都の方には署名は提出していますが、まったく動きが見られない。時間もない。そのため、このタイミングで現場の人で集まって、小池都知事に『なんとか通常通りに展示会を開催させていただきたい』と訴えたい」

デモに参加する人たちは比較的若い層が多かった。

「入社一年目です。最初はオリンピックで仕事が増えるのかと思っていた。オリンピックに合わせたイベントがいろいろできるのかと思っていたが、ビッグサイトが使えないとなると、逆に仕事が減る。会社も協力企業も打撃を受ける。給料、ボーナスが出ないとか、最悪、リストラもあり得ますから」(20代男性)

「毎朝の朝礼で会社でも話題になる。会場が使えないとなるとイベントもできない。会社の売り上げも、私たちの暮らしにも関係がある。いろんなイベントがビッグサイトで行われているので、会場を作る会社にも影響がある。協力会社さんにも伝えている」(20代女性)

「会場が使えないと、厳しくなる。ほんと小さいところでしか仕事がなくなってしまう。私も入社したばかり。展示会に参加する企業様の売り上げにも影響が出る。コミケや日本全体の経済に影響力もでる」(20代女性)

20年のオリンピック・パラリンピック開催によって、東京ビッグサイトはメディアセンターとして使用される。オリンピックの報道の拠点としてメディアセンターは、国際放送センター(IBC)とメインプレスセンター(MPC)がどうしても必要な施設だ。IBCは東展示棟の一階と二階を中心に整備される、MPCは西展示棟。南展示棟はセキュリティ上使用できなくなる。

損失は1兆円!?会場が5ヶ月間まったく使えない。

日本展示会協会によると、19年4月から東展示棟(67,380㎡)が閉鎖される。また、西展示棟(29,280㎡)と南展示棟(20,000㎡、建設中で19年7月から利用開始予定)は20年5月から閉鎖される。つまり、利用可能面積は19年4~6月は30%、7月~20年4月では50%、20年5月~9月までは0%、10月~11月は50%となる予定だ。

「展示会に関連する企業の多くは中小企業。見えているのは倒産やリストラ、収入減。まったく使えない5ヶ月間だけでも4万1000社のうち、3万7000社が出展できない。売り上げの損失は1兆円を超える。関連会社は悲鳴をあげている」(下茂代表)

都の対応策としては仮設展示場の建設を予定している。しかし、仮設展示場は23.2㎡しかなく、現在の稼働面積の半分(20ヶ月平均)でしかない。20年7~9月の3ヶ月間は、仮設を含めてゼロになる。

しかも仮設展示場は、東京ビッグサイトから1.5キロ離れている。徒歩で15~20分かかる。そのため、展示会の一体感が失われ、一堂に会する展示会最大のメリットを失うことになる。展示会に参加する出店社が激減したり、開催中止となったりするのではないか、とも言われている。

経済効果のある展示会。他の五輪では中止にならず

ビッグサイトでの展示会開催の経済波及効果は絶大だ。直接的な効果としては、展示会の主催者や出展者、見本市会場への来場者、会議利用、会議来場者による交通費、宿泊費、出展料、設営費などがある。また、間接効果として、鉄道会社、ホテル、イベント会社、装飾会社などの需要が高まる。さらには、雇用者が得られた収入によって、さらなる消費をしていく。

東京ビッグサイトの推計によると、展示会等による経済効果だけでも年間7500億円。それに伴い、約4万9000人、都内だけでも約2万7000人の雇用を誘発する。契約誘発効果では都内で1兆7000億円、全国では2兆7000億円。さらにそれに伴う経済波及効果は都内で2兆9000億円、全国でも5兆8000億円にものぼる。

これだけの経済効果が予想される展示会が縮小、あるいは中止となると、経済効果が失われ、展示会社が協力企業に発注する仕事が減り、会社として耐えられない場合はリストラや倒産につながる可能性がある。

12年のロンドン五輪でも展示会場が競技場として使用された。しかし、展示会は中止にならなかった。16年のリオでも展示会は開催されている。そのため、「展示会産業で働く人々の生活と雇用を守る会」は、ビッグサイトと同規模の仮設展示場を首都圏に建設するか、メディアセンターをビッグサイト以外に仮設で新設するかを提案している。

日本展示会協会では1月20日に、問題解決を求める請願署名(8万筆)を小池都知事あてに提出。直接は受け取ってもらえなかったっため、都産業労働局へ提出した。6月までに14万7990筆(19日17時現在)を超えている。

この問題解決を都議選で公約に掲げている会派は?

デモ主催団体「展示会産業で働く人々の生活と雇用を守る会」の訴えは、波及効果も大きいだけに、その場で働く人たちだけの問題ではない。都議選において、この問題を取り上げているのは、都民ファーストの会と民進党、東京維新の会の3会派だ。

都民ファーストの会は14の基本政策と321の政策(ウェブには掲載されていない)を発表しているが、236番目に「コミケ2020問題を解決」とだけ書かれている。

民進党は「東京政策2017」で「展示会・イベント会場不足問題を解決するために、IOCに対して東京ビッグサイトの使用期間の短縮を求めるとともに、会場使用者などへのヒアリングを踏まえ、開催対策の実施に取り組みます」としている。

東京維新の会は「基本政策集」の中で「五輪期間中のコミケ会場の問題も解決し、クールジャパンセンターも新設します」としている。

一方、都議会第一党の自民党は「TOKYO自民党政策提言集2017年版」では特筆していない。

都民ファーストの会と選挙協力をする公明党も「2017都議選に臨む重点政策」では触れていない。

また、日本共産党(「2017都議選の訴えと重点公約」)と生活者ネット(「2017東京政策」)では、この問題に対する記述は見られなかった。