オリンピックを通じて日本の芸術・文化を世界へ発信 ~アーツカウンシル東京が取り組む文化プログラムとは~ - BLOGOS編集部PR企画
※この記事は2017年06月23日にBLOGOSで公開されたものです
最近の五輪報道で目立つのは、会場、予算、エンブレム等ネガティブな話題が多い。しかし、視点を変えると、2020年に行われる東京オリンピック・パラリンピックは、スポーツだけでなく、都市としての東京の魅力や日本の文化、芸術を世界に発信し、アピールする絶好の機会といえる。
2012年に行われたロンドンオリンピック・パラリンピックでは、期間中に204の国と地域から、4万人を超えるアーティストが参加。2008年からオリンピックイヤーの2012年までの4年間に17万件を超えるアートイベントが行われ、約4340万人が文化プログラムに参加したといわれており、文化面で大きな成功を収めたという。イギリスと同じ先進国としてオリンピック・パラリンピックのホストを務める日本は、どのような文化・芸術プログラムが企画されているのか。そして、都や自治体といった行政は、そうした取り組みをどのようにサポートしているのだろうか。
6月23日はオリンピックデー。この機会に日本のオリンピック・パラリンピックに向けた芸術・文化関連の取り組みを知るべく、アーツカウンシル東京のオリンピック・パラリンピック文化戦略担当課長・石綿祐子氏に話を聞いた。
芸術文化創造を支援し、東京の魅力を高めるために活動する
アーツカウンシル東京
―そもそも「アーツカウンシル東京」とは、どのような団体なのでしょうか?
石綿:イギリスに、アーツカウンシルイングランドというアーティストの支援を行う独立組織があるのですが、以前より、日本でもそういった組織が必要なのではないかという議論がされていました。
東京都では、2007年に設置された知事の附属機関である芸術文化評議会での議論を経て、2012年にアーツカウンシル東京が設立されました。
この後に、2020年のオリンピック・パラリンピックの招致が決定したのですが、実は2008年から、「東京文化発信プロジェクト室」という部門が、公益財団法人東京都歴史文化財団の中に立ち上がっていました。
これは、「東京からの文化の創造発信を強化していく」という組織で、芸術祭やNPOの活動を支援するといった事業を幅広く行ってきました。そして、2015年に、この「東京文化発信プロジェクト室」と組織を統合、事業再編し、東京都の様々な文化事業を担っているのが現在のアーツカウンシル東京です。
もちろん、オリンピックに向けた活動だけではなく、新たな芸術文化創造の基盤整備をはじめ、東京の独自性・多様性を追求したプログラムの展開、多様な芸術文化活動を支える人材の育成や国際的な芸術文化交流の推進等に取り組んでいます。
オリンピック・パラリンピックは、日本の芸術文化の魅力を世界に発信するチャンス
―オリンピック・パラリンピックといえば、「スポーツのイベント」という認識の方も多いと思います。なぜ芸術・文化をサポートする団体であるアーツカウンシル東京が、オリンピック・パラリンピックに向けて様々な事業を行っているのでしょうか。
石綿:オリンピック憲章の中に、「オリンピズムはスポーツを文化・教育と融合させ、生き方の創造を探求するものである」という一文があります。つまり、オリンピック・パラリンピックというのは、スポーツを文化・教育と融合させることが前提になっているのです。
実際に、2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックでは、今までにない規模で文化プログラムが実施され、その成功は大きなインパクトを残しました。
例えば、障がいのあるアーティストを支援する「アンリミテッド」というプログラムは、ダイバーシティーの重要性を、文化を通じてアピールすることができたとして、その後もレガシーとして継続しています。こうした可能性を引き継ぐ形で、東京オリンピック・パラリンピックでもダイバーシティーは1つの重要なテーマになってきています。
2020年以降も続く「レガシー」を生み出す
―2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、具体的には、どのような企画があるのでしょうか。
石綿:オリンピックの文化プログラムに関しては、当然、組織委員会や国も注力していますが、アーツカウンシル東京は、東京都と共に文化プログラムを進めている状況です。
現在、具体的に動いている企画の一つに、劇作家・演出家・役者の野田秀樹さん監修の「東京キャラバン」があります。このプログラムでは「人と人が交わるところに『文化』が生まれる」というコンセプトに基づいて、東京と各地域の多種多様なジャンルのアートをミックスするようなワークショップとパフォーマンスを行っています。
「東京キャラバン」は、一昨年に東京の駒沢公園で、昨年はブラジルのリオデジャネイロを皮切りに東北、六本木で開催しています。今年度からは、日本各地での展開を考えています。様々な自治体と連携しながら実施していき、2020年には、さらに充実した形になると思います。
また、アーティストの日比野克彦さん監修による「TURN」というアートプロジェクトもあります。「TURN」は、新しいダイバーシティーの在り方を提案していくプログラムとなっています。
この他にも、民間事業者への資金面での協力や、アマチュアの方々の活動を支援する助成事業といったものを新たに立ち上げています。その他にも、様々な企画を進めています。
――こうした一連の企画は、2020年のオリンピック・パラリンピック以降も見据えたものになっているのでしょうか。
石綿:当然、オリンピック・パラリンピックをイベントとして盛り上げていこうという意識はあるのですが、2020年以降に何を社会的価値いわゆる「レガシー」として残せるかという視点も重要になってきます。
これまで問題とされてきたことの一つとして挙げられるのは、アーティストを目指している若い人達がなかなか食べていけない状況になっていることです。2020年に向けた様々な文化プログラムを通じて、例えば新しい職能や社会の中での役割を提案することが出来れば、それが「レガシー」になると思います。
またこの機会に、屋外などで様々なイベントを実施し前例を作ることで規制を緩和していくことも「レガシー」になり得ると思います。オリンピック・パラリンピックの文化プログラムの実施は、これまでにない様々なチャレンジをする大義名分になると思うので、事例を作ることで、新しいイベントや市民参加の在り方を提示していきたい。それによって、オリンピック・パラリンピック以降も様々な取り組みが継続できるような豊かな創造環境になると思います。
若いアーティストがステップアップする大きなチャンス
――世界に向けて日本のアートをPRする絶好の機会ともいえますね。
石綿:そうですね。よく「国際都市東京を目指す」と言われますが、海外に行った際に感じるのは、私たちが思っているほど、日本の情報は行き届いてないということです。日本という国や東京という都市に興味のある人は多いのですが、詳細な情報がほとんどないというような状況がある。そういう意味では、やはり発信の仕方にも工夫が必要なんだと思います。
一方、舞踏のように「Butoh」として、国際的に評価を受けているものもあります。なので、オリンピック・パラリンピックを、日本の若いアーティストの人たちが国際的な活動や評価に触れる機会にして欲しいと思っています。来る2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、日本が誇る芸術文化の魅力と価値を世界に発信するまたとないチャンスなのです。だからこそ、「東京文化プログラム助成」という助成事業、「東京文化プログラム公募事業」という委託事業を積極的に展開し、多くのアーティストや市民が参加できる仕組みを推進していきたいですね。
――若いアーティストや芸術に関心のある方々にとっては、よい機会になりそうですね。
石綿:まだまだ「自分たちはオリンピックに関係ないよね」と思っているアーティストの方々も多いと思います。我々としては、この機会を生かして、多くのアーティストにステップアップして欲しいので、実際に参加できるようなスキームを作っていくことが課題だと思います。
また、オリンピック・パラリンピックを通じて、これまであまりアートに関心のなかった人たちにも文化プログラムを通じてアートに接してもらうことが出来るでしょう。少しでも多くの人に「こんなに面白いことをやっているんだ」と感じてもらうためにも、文化プログラムのすそ野を広げることを目指して活動を続けていきたいと思います。