ネットと共に生きるラジオ - 西原健太郎
※この記事は2017年05月28日にBLOGOSで公開されたものです
そろそろ衣替えという季節になった今日この頃。みなさんいかがお過ごしでしょうか?私はというと、前回のコラムで書いたジム通いを続けております。40からの体力づくりと思い始めたのですが、ここまで筋トレにハマるとは正直予想していませんでした。世の中には、予想だにしないことがまだまだあるんだなぁと感じております。
◇15年で大きく変わったラジオを取り巻く環境
ところで、予想だにしないことといえば、ラジオ業界的には15年前には考えもつかなかった、『AMラジオのFM放送化』。そして、radikoの開始が挙げられます。特に、radikoの【タイムフリー機能】は、ラジオの聴取スタイルを変え、「ラジオは同じ時間を共有するもの」という固定観念を打ち破りました。番組をアーカイブ化して後で聞くというスタイルは、ニコニコ動画などが先駆者ですが、それを利権渦巻く地上波のラジオで実現したというのは、業界的には象徴的な出来事でした。
地上波のラジオがいつでもどこでも聴ける。それは、15年くらい前には予想だにしなかった事でした。15年くらい前、2000年代初頭。ラジオは『特別なもの』でした。特別な場所で収録し、特別なスキルを持った人間が制作した番組。そして番組を作るラジオマンは、憧れの職業の一つでもありました。
でも2017年現在、ラジオは特別なものではありません。今はインターネットラジオの普及で、少しの知識があれば、誰でもラジオを作ることが出来ます。
誰でもラジオが作れる時代。素晴らしい時代になったと私は思います。
でも、これは広告的に考えるとラジオ業界にとっては大打撃です。事実、ラジオの広告費の減少は顕著で、2000年に比べると半分にまで減ってしまいました。もちろん、インターネットの普及で、ネット媒体への広告費が増えたのも理由だと思いますが、私はラジオの広告費の減少は、ラジオ局側の油断もあったと考えています。
みなさん、【聴取率】という言葉、ご存知ですか?テレビに視聴率があるように、ラジオには聴取率があります。毎日視聴率を計測しているテレビと違い、ラジオの聴取率は2ヶ月に1度、「スペシャルウィーク」という形で実施されます。各局、様々な特別企画(豪華ゲスト・豪華商品プレゼントなど)を実施し、聴取率を上げようと必死に頑張ります。でも、その結果はじき出される聴取率は、聴取率が一番良いと言われている赤坂某局であっても1%程度…。しかもこの数字は年々どんどん減っています。
聴取率が減ってまず困るのは、ラジオ局の営業です。営業はこの数字を使って、各企業に「うちで広告出しませんか?」とお願いするのですが、企業側もその数字にどれくらいの意味があるかを知っています。微々たる聴取率では、『広告を出しても効果がない』と判断されても仕方がありません。
でも、ラジオの聴取率が減り始めた時代、2000年代初頭、ラジオ業界人は楽観的でした。「聴取率は減ってきているけど、ラジオ番組はうちらしか作れないし」とタカをくくっていたのです。そこに黒船・インターネットラジオが現れます。
◇インターネットラジオをナメていた地上波スタッフ
インターネットラジオは、日本よりも海外で先に火がつき、日本に本格的にやってきたのは2000年代初頭でした。ネット環境があれば、いつでもどこでも聴けるという利点をもつインターネットラジオでしたが、当時ラジオ局の人間の何人が、その利点に気づいていたでしょうか?その時代、私はすでにラジオ制作をしていましたが、聞こえてくる言葉といえば「素人が作ってるんでしょ?」「誰が聞いてるの?」という、批判的な言葉ばかりでした。
ラジオ局の人間だけではありません。ラジオ制作の現場でも、「地上波をやっていないディレクター・作家は一人前ではない」なんて言葉が平気で使われていました。
そして、インターネット広告費がラジオ広告費を大幅に上回った現在…。動画投稿サイトで作品を配信し、子供の「なりたい職業」の上位にユーチューバーが挙がる時代。「ラジオはもはやマスメディアではない」という言葉も聞かれるようになりました。そんな中、起死回生を狙うラジオ業界が打ち出したのが、地上波ラジオを『ネットがあればどこでも聴ける』、『放送後いつでも聴ける』radiko…、完全に立場は逆転してしまいました。
今、ラジオがマスメディアとして生き残るには、インターネットという存在が必要不可欠だと思います。でも、ラジオ業界に必要なのは『ネットをどこまで利用するか』ではなく、『ネットと共に生きる』事だと私は考えます。ラジオという利権に留まりながら『利用する』のではなく、ネットと共に『形を変えてでも生き残る』事…。果たしてそれが出来るのか?謙虚さを持ってネットを学び、変わることができるのか…。それとも時代の流れと共に滅びるのか…答えは15年後に出るでしょう。