※この記事は2017年05月12日にBLOGOSで公開されたものです

 まず私事で恐縮である。1997年ダイアナ妃が亡くなった翌年の1998年、私は、ダイアナ妃が最後に生きている姿を見せたというパリ1区の宮殿風のホテル・リッツの裏口がよく見えるこじんまりしたホテルに宿泊したことがある。

 夕暮れ時、私の部屋の窓越しに見えるその出入り口は1年前、生前の最期のダイアナを見る為に世界中の人々が監視カメラ映像を通して見た“世界一有名なドア“であるにも関わらず、人気(ひとけ)も無い石造りのこじんまりしたドアであった。

 結局、滞在2日中、カーテン越しに引き付けられる様に私は3回は見たと思う。静かなこのドアから出てメルセデスベンツ250に乗り込んだダイアナがその直後に大事故に遭うなどと全く想像出来なかったからなのだろうか?

■世界中が最も注目した”嫁姑問題”

「嫁と舅(しゅうと)」間の諍(いさか)い……と言ってしまえばそれまでである。一方は伝統を誇る大英帝国の頂点「英国王室の女王」エリザベスⅡ。もう一方は女王の息子のチャールズ(プリンス・オブ・ウェールズ)の嫁・ダイアナ妃である。ダイアナ妃はウイリアム王子(第2王位継承権者)とヘンリー王子(第5王位継承権者)の母である。

 

『ザ・ライバル』レディ・ダイアナVSエリザベス2世 ~英国王室・見えざる闘い~より

 ダイアナは1961年17世紀から続く貴族の家系・スペンサー家に生まれる。1969年両親が長年不仲で離婚する。明るく見えるダイアナにこの事がしこりを残す。後に結婚するインテリのチャールズと異なりダイアナはあまり勉強に熱中出来なかったことから、英国の大学には進学せずスイスの花嫁学校に入学する。

 ロンドンでフラット暮らしを始めたころ、1979年あるパーティーでチャールズ皇太子と会う。急速に二人の仲は深まり1981年セントポール大聖堂で結婚した。178センチ同士の背の高いカップル。知的でスマートな皇太子と大輪の薔薇の様なお妃。二人の姿に世界中はうっとりした。

『ザ・ライバル』レディ・ダイアナVSエリザベス2世 ~英国王室・見えざる闘い~より

 その後、二人の息子をもうけ幸せの絶頂と思えた夫婦に問題が発生する。チャールズ皇太子のカミラ・ローズマリーとの不倫問題である。この件の発覚後、1994年ダイアナも秘かに不倫をしていた事が発覚。ただ、チャールズは振り向かない。拒食症となり1995年BBCにおいて「私は(息子たち)とだけの3人だけで生活している」と述べ物議を醸し、不倫で傷ついた自らの名誉を回復し大衆の同情をひく。

■メディアを操って「新しい王室」に変えようと先鋭化したダイアナの活動

 私はこのドキュメンタリーが光彩を放つのはこの部分あたりからだと思う。現実主義者のエリザベス女王とその美貌とその立場を武器にメディアを駆使して国民の支持を増やしてゆくしたたかなダイアナ。

 旧家に生まれた普通の何も知らないお嬢様と思われていたダイアナが変貌してゆく様が面白い。公式行事よりもパーティーやチャリティーの催しに現れ、その美貌と華麗なるファッションで衆目を集めるダイアナ。もしかしたら、幼くして離婚した両親に与えられなかったであろう「愛」を求める様に「愛されることをもとめて」いたのだろうか。

 また「地雷撤去運動」「エイズ撲滅運動」とダイアナの活動は先鋭化した。それはまるで旧態然とした王室を「新しい王室」に変えようとしているかの様だ。その姿をマスコミが追いダイアナは国民的人気者に昇り詰める。ダイアナはただものではなかったのだ。

『ザ・ライバル』レディ・ダイアナVSエリザベス2世 ~英国王室・見えざる闘い~より

■死後も惜しまれる声が後を絶たない

 パリの集中治療室にいるまだ生きているダイアナに会いに行くため、王室専用機の使用許可を貰おうとしたチャ―ルズに女王は「ダイアナはもう公人ではないから国民から浪費になると糾弾される。」と言って断ったと言う。チャールズはダイアナ死亡後「将来国王になるであろう子の母親の遺体を運ぶのは浪費でしょうか?」と訴えパリからの遺体移送を許可したと言う。

『ザ・ライバル』レディ・ダイアナVSエリザベス2世 ~英国王室・見えざる闘い~より

 ダイアナの死後しばらく公式声明を出さない女王に国民から非難が集まり始めた。そして葬儀ははじめ「内輪の葬儀」が検討されるが、「凖国葬」になったと言うのだから、ダイアナに凄い人気があった事がしのばれる。

 約一週間後の葬儀の日、エリザベス女王はバッキンガム宮殿の前に集まった一般国民の中に入り花やカードを見て回り。後にテレビで追悼の特別生放送を行った。死後もダイアナのパワーは衰えを知らなかったのである。

関連サイト

・【予告編】ニコニコドキュメンタリーシリーズ『ザ・ライバル』 ~世界が注目する12のライバルたち~