現体制の傀儡でしかないフジテレビのトップ人事 - 渡邉裕二
※この記事は2017年05月11日にBLOGOSで公開されたものです
あらゆる苦境に立たされているフジテレビが、トップの刷新で「事態」の収拾を図ろうとしているのだろうか?もっともフジテレビの場合、この「事態」というのが何なのかということになる。視聴率の低迷なのか?あるいは単に総帥・日枝久会長の院政隠しなのか?非常に興味のあるところだ。
◇フジテレビ亀山社長がBSフジ社長就任のサプライズ
まずは、公表されたフジテレビの社長交代を含む役員の内定人事を見ると――。驚かされたのはフジテレビとBSフジの社長を単に入れ替えたところだった。正直言って、BSフジの宮内正喜社長がフジテレビの亀山千広社長の後任というのは「やっぱり…」の人事だった。だが、その一方で亀山氏をBSフジ社長に据える人事というのは予想もしていなかったからだ。
さらに、今回のトップ人事には続きがあった。それによると日枝久氏もフジテレビと、親会社のフジ・メディア・ホールディングス会長を退任するという。「一番の責任は日枝会長にあるんだから当然」というプロダクション関係者もいたが…。
いずれにしても後任にはフジ・メディア・ホールディングス社長の嘉納修治氏が会長に昇任されフジテレビと兼務し、宮内氏もフジテレビとフジ・メディア・ホールディングスの社長を兼務するという。
それにしても、一見すると大胆な人事にも思えるが、私には実に計算高い人事だと思えた。そもそも日枝会長は退任しても取締役相談役として残るのだ。所詮は「院政人事」だといってもよいだろう。それに、この人事で日枝会長も毎年のように批判にさらされ、針のむしろ状態にあった株主総会から、ようやく逃れることができる。内心、ホッとしているに違いない。
そもそも亀山氏の社長退任は当初から予想はされていた。本来なら昨年、退任していても不思議ではなかったのだが、それは日枝会長にとってはタイミングが合わなかっただけのことだろう。
今回の内示を見て改めて思うのは、日枝会長は自らの後継者を早い時期から宮内氏に決めていたと言うことだ。宮内氏はフジテレビ専務の後、07年に岡山放送の代表取締役社長に就任した。この人事に当時、業界内には「日枝氏に飛ばされたのか」という声もあったが…、実際には"温存"していたのだろう。
宮内氏は8年間、岡山放送で社長を務め、2年前の2015年に戻り、BSフジ社長に就任した。私は、この時点で「ついに…」と思ったものだ。事実、私の周りには「この日」を予想して宮内氏に祝花を出したり、ゴルフに誘ったり…とにかく接触を図っている人もいたほどだ。
そういった〝流れ〟が明確になったのは昨年の役員人事だった。宮内氏はフジ・メディア・ホールディングス取締役に就任したのだ。
要するに、宮内氏の今回のフジテレビ社長は既定路線だったのだ。 とは言いつつも、私には掴めない部分があったことは事実だ。それは亀山氏の処遇だった。
「フジテレビ社長を退任したとして、次のポストがあるか?」 ということだった。
亀山氏の処遇を考えると「やっぱり、亀山社長で突っ走るのかな」なんて思ったりした。そういった意味で、BSフジ社長という人事を聞いた時は、冒頭でも記しように「驚かされた」。
「亀山さん受けるのか?」
そんな言い方する人もいた。一部では「退社して映画関係の会社を作るようだ」という噂もあったが、亀山氏は新天地で「頑張る」ようだ。
日枝会長が見せた人事への執念
ところで、今回のフジテレビ社長交代、業界内の予想では遠藤龍之介専務の名前が挙がっていた。メディアによっては「内定した」なんて書いていたところもあったほどだ。言うまでもなく、遠藤専務は作家・遠藤周作の長男。フジテレビでは主に広報畑を歩んできた。そういったことからマスコミ対策を含め業界にも顔が広いと評判だったことから「次は…」となったのかもしれない。しかし、編成局より広報局が長い遠藤専務の後任社長というのは疑問符があった。
では?
遠藤専務の社長就任説は、実は、宮内氏を隠すための内部リークだったのではないかと言う人もいる。もちろん真偽はわからないのだが…。しかし、裏返せば、それだけ日枝会長が巧妙だったということになる。いや、と言うより自らが「2020年まで君臨する」ためには、今、やるしかない人事だったとも言える。
日枝会長の執念を考えたら、こんな見方も出来る。
亀山氏は、まだ60歳で若い。ここは一旦、後に引いて、まずワンクッションで宮内氏を後継者に据え、この先、宮内氏の後継者として亀山氏を据えたいと思っているのかもしれない。日枝会長は、何だかんだ言っても亀山氏をかわいがってきた。自分の後継者だと思っているはずである。
世間的には、亀山氏は大きな実績はなく視聴率の低迷を招いたと評価されている。この4年間は局内の雰囲気も悪く、何より番組作りに対する意欲も薄らいでいる。人も育っているとは言いにくい。
そういった中にあって今回、いくら社長が変わったからといって、フジテレビの状況や流れが変わるなんて思えない。冷めた見方をしたら73歳の宮内氏が出来ることと言ったら限られている。そんなことぐらいは日枝会長だって分かっているはずだ。
その日枝会長も80歳を過ぎた。だとしたら「まずは後継者」を固めることしかない。だとしたら今回のトップ人事は、あらゆる苦境に立たされているフジテレビにとっては、何も発展的なものでもなく、それこそ起死回生を図ることを念頭に置いたものでもない、単なる現体制のエゴイスティックな傀儡人事と言わざるを得ない。
▼宮内正喜氏(73)
1944年(昭和19年)1月28日生。山口県出身。慶大法学部卒。67年4月フジテレビ入社。88年7月編成局第二制作部長、90年7月事業局事業部長、92年7月秘書室長、94年7月総合調整局秘書室長兼総合調整局連絡調整室長、97年6月社長室長、99年6月編成制作本部編成制作局長、2000年7月執行役員編成制作本部編成制作局長、01年6月(株)フジテレビ出版代表取締役社長、フジテレビ常務取締役編成・制作・広報担当、02年6月常務取締役編成・制作・広報・権利開発担当、03年6月常務取締役総務・人事・情報システム・番組審議室担当、05年6月常務取締役秘書室・総務・人事・情報システム・番組審議室担当、06年6月専務取締役経営戦略統括、07年6月岡山放送(株)代表取締役社長、15年7月BSフジ代表取締役社長就任(現任)/フジテレビ取締役(現任)/フジ・メディア・ホールディングス取締役(現任)。
▼亀山千広氏(60)
1956年(昭和31年)6月15日生。静岡県出身。早大政治経済学部卒。80年フジテレビ入社。編成部、第一制作部(現ドラマ制作センター)を経て、97年編成部長、01年編成制作局長、03年7月映画事業局長、06年執行役員映画事業局長、10年6月取締役映画事業局長、12年6月常務取締役 総合メディア開発(映画事業局、メディア推進局、コンテンツ事業局)担当 映画事業局長、13年6月代表取締役社長(現任)/フジ・メディア・ホールディングス取締役(現任)。