【特別寄稿】 GWに遠出してでも劇場に観に行くべき4本の傑作映画 - 高盛雅子 - BLOGOS編集部
※この記事は2017年05月03日にBLOGOSで公開されたものです
■ロングランで大ヒット中 ~ 『人生フルーツ』
この連休中、遠出してでも見ていただきたいミニシアター系作品のご紹介です。
まずはヒット作を連発中の東海テレビが放つドキュメンタリー映画『人生フルーツ』。お二人合わせて177歳・津端ご夫妻の日々を2年にわたって東海テレビのクルーが密着、映画用に再編集したものが今年のお正月に公開、現在もロングランで大ヒット中です。
愛知県は春日井市・高蔵寺ニュータウンのグラウンドデザインを手がけた津端ご夫妻のお父さん。ですが、お父さんの描いたような緑の多い街づくりとはいかず。高度成長期の時代のニーズに応えるようにと、あまり余白のない、無機質な団地群が出来上がってしまいました。誰が悪いわけじゃない、こういう諦めって組織にはありますよね。
そこで津端ご夫妻は自ら高蔵寺ニュータウンに広めの土地を求め、失われた雑木林を個人の力で少しずつ再生させ、自分たちの動きに呼応してくれる家々が増えていけば、宅地開発された高蔵寺に再び緑が戻るのでは?と人生を賭けた壮大なチャレンジにご夫婦で取り組みました。
そこから50年の年月が、ゆっくりコツコツと流れていき…
ご自宅の雑木林の中に作物や花を植え、絵心のあるお父さんがひとつひとつに黄色いプレートにその名前と用途を書き込み、おふたりで大切に育てて豊かな緑のお庭に。建屋は30畳のワンルーム。ご夫婦の間には間仕切りなどいらないのです。お母さんも何かにつけて『お父さんのいいように』と万全のサポートをする気持ちでニコニコ生活されているんですが……、よーく見ると朝食時のテーブルには、お父さんは和食、お母さんはパンにジャム。
好みが違っても、同じ方向さえを向いていれば、気分良く暮らせていけるようです。人生という果実をどう実らせるかは心持ち次第。とても豊かな気持ちになる作品でした。またテレビマンたちがご夫婦のほんっとに近く、そこまで入り込めたの!?と思う至近距離まで寄り添った取材力もあっぱれです。関わったひとたちの熱量を感じる作品でした。
■ある絵本作家の、自然に囲まれた豊かな生活 ~ 『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』
それからスローライフを描いたドキュメンタリーをもうひとつ。
アメリカを代表する絵本作家ターシャ・テューダーの花と動物に囲まれた生活を描いた『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』。
20世紀初頭、アメリカはボストンの良家のお嬢さんとして生まれたターシャは社交界よりも農業に魅了されるような女の子で、結婚してからは畑仕事と子育て、家事をしながら絵本作家デビュー。生涯現役を貫いた女性なんですけど、一方で18世紀のような手作りの暮らしぶりや、園芸家としての才能と技術、一人暮らしを支える前向きなものの考え方に至るまで、あらゆることをエレガントでかつ力強くコントロールするライフスタイルそのものも世界の人々から支持された、そういうひとでもありました。
そんな彼女を日本のテレビウーマンらが10年もの歳月をかけて密着。アーティストなターシャが丹精こめて美意識の限りを尽くしたお庭、ドールハウスのようなファンタジックな家、そこに佇む妖精のようなターシャ。被写体をいかに美しく見せるかにこだわったスタッフの知恵と工夫も見どころの一つとなっています。光と影を操る映像1コマ1コマが絵画のようで、ほんっとに美しかった~!
そしてサブタイトルの『静かな水の物語』。英語では『A still water story』で、静かな水のように穏やかで、周りに流されず自分の速さで進むこと。ターシャ自身の言葉からつけられたそうです。劇中にも、彼女自身が自らの道を思うように歩いたからこそ紡ぎ出された名言、生き抜くヒントになるような言葉の数々が出てきます。目も思考も豊かにさせてくれる素晴らしい作品でした。
■20年ぶりにヤツらが帰ってきた! ~ 『T2 トレインスポテッィング』
ここまでBLOGOS読者の皆さんよりもおそらく先を歩いている先輩方を描いた作品を紹介しましたが、続いては読者の皆さんが若い頃ご覧になったかもしれない1本です。20年ぶりに続編が公開された『T2 トレインスポッティング』。ダニー・ボイル監督とユアン・マクレガーを大スターにした前作の公開が1996年。今はなき渋谷のシネマライズ、混んでましたよね。20年前と同じ、懐かしいメンバー再集結で、エジンバラのジャンキーな悪ガキたちも、今じゃオトナな40代、50代。ちょっとはまともになってるかと思いきや…。
演じている役者さんたちはスターウォーズのオビワンだったり、大ヒットドラマ『エレメンタリー』のシャーロック・ホームズだっり。それぞれ大出世してるんですけど、『トレインスポッティング』の時間軸の中の登場人物たちは相変わらず人生に行き詰まっていました。それを映像で見せられると、この20年はロスジェネだと、変わらない、いや変われないことを時代のせいにしていた我が身を見せつけられるようで、映画の冒頭は胸が締め付けられました。やばい、こいつらと一緒だ…と。
しかも20年が経っています。映像にも20年分の年輪がくっきり。
お互い老けましたなぁと、慰め合いたい気分にもなりました。
ただ、長い月日はジャンキー少年たちを少しは成長させていまして、前作では発想もできなかったであろう大人としての優しさもチラホラ。重ねた年月は無駄じゃなかったんだとホッとさられます。
ダニー・ボイルが仕掛けた20年ぶりの銀幕同窓会、かつての若者の皆さんにも是非ご覧いただきたいです。
■感動の実話を映画化 ~ 『LION 25年ぶりのただいま』
そして最後に泣ける1本、『LION 25年ぶりのただいま』。
広い広ーいインドで間違って回送列車に乗ってしまって何日も旅した挙句、迷子になった5歳の少年サルー。結局家には帰れず海を渡ってタスマニアの夫妻の養子になって、やがて大学生になった彼はグーグルアースで故郷を探すという壮大なお話で、実話だそうです。
大きくなった彼は『当時の列車の速度×移動時間で大体の距離が割り出せる』って、数学に強いインド人らしい発想で計算し始めます。壁に貼った大きな地図には幼い頃、列車でたどり着いたコルカタ(=かつてのカルカッタ)を中心に半径1600キロの円がぐりーっと。ここを5歳当時のおぼろげな記憶を頼りに、何年もの歳月をかけて血縁者のいる家を探り当てようという試み。知っている道ならたどることもできますけど、おぼろげにしか覚えている駅近の給水塔を頼りに上空の写真からたどるんです。無茶です。
それでも突き進んだのは、今もインドにいる家族が自分を探しているはずだという思いからでした。5歳のサルーは貧しいシングルマザーと歳の離れたお兄ちゃんにとても愛されて育ったんです。そういうあったかい記憶があるから、彼は自分が無事だと伝えたくて必死に探します。でも肉親を探すことは養父母への裏切りだと考えて、誰にも言えず、家に引きこもってパソコン画面と地図をにらめっこする日々。当然周囲は心配します。やがて育ての親に打ち明ける日が来るんですが、そのお母さんを演じるのがオスカー女優のニコール・キッドマン。彼女の顎のラインがたるんだ老いた姿が画面にドーンと出てくると、20年の時間経過の表現には軽くめまいを覚えるんですけど、そこまでの姿を晒したニコール演じるお母さんから出てくる言葉がまた愛情深くって。この設定と同じようにニコール自身も養子を迎えて家族として生活しているからこそ滲み出る説得力があって、圧巻でした。
そして主人公・サルーを演じたのが『スラムドッグ$ミリオネア』でスターの仲間入りを果たしたデヴ・パテル。まだ少年だったスラムドッグの時はスラムで培った知恵でサバイバルしていましたけど、あの子がこんなに大きくなったのねぇ…と親戚の子を見るような気持ちになりまして、今作品でもグーグルアースで旅してサバイバルする姿に、また応援したくなっちゃいました。
それから5歳のサルーを演じた子役のサニー・パワールくん。子猫みたいな声を出す、瞳がキラキラ美しい少年です。映画初出演の天才少年の熱演。全部が必死で全力で、泣けるほど感動します。彼に会いに、この作品を見るのもいいかもしれません。そうそう、タイトルにある『LION』、ライオンは一頭も出てきませんが、オチは最後に。ハンカチをお忘れなく!