大変な経験はいつか、いい思い出に変わってほしい - 赤木智弘
※この記事は2016年06月11日にBLOGOSで公開されたものです
北海道七飯町の山中で行方不明になり、6日後に保護された7歳の男の子が、搬送されていた病院から、無事退院した。(*1)行方不明になった発端は5月28日の午後、父親が「しつけ」と称して男の子を林道で車から降ろし、置き去りにしたことである。その後5分程度で戻ったというが、すでに男の子はいなかったという。
これはしつけではなく、ハッキリとしたネグレクトであると断じてしまってもいいだろう。子供の頃に「親に怒られて家から追い出された」経験くらいは誰にでもあるだろうが、土地勘がハッキリとあり、危険も少ない自宅の外と、あまり馴染みもなく事故が起こりかねない山中は全く違う。
両親は今後、自治体などが参加する児童虐待防止のためのプログラムに積極的に参加するなど、今回の件への反省を行動で示す必要があるだろう。
また、この行方不明事件に関しては、マスメディアやネットがかなり先走っていた印象がある。
マスメディアのコメンテーターたちは、言葉を濁しながらも「5分でいなくなるのはおかしい」などと行方不明ではない可能性、明確に言ってしまえば親による狂言、つまり、親が男の子を殺して、それを隠すために行方不明になったと言っていると、そういうことを匂わせる発言を繰り返していた。
ネット上ではそれはもっとあからさまだった。両親を殺人犯呼ばわりするのは当たり前で、情報ソースも全く提示されないまま、父親が警察で虚言を繰り返しているかのような情報が出てきたり、自衛隊の施設で雨風を防いでいたということが明らかになった今でも「発見されてた時に、衰弱しておらず、おにぎりをすぐに食べたのは元気すぎておかしい」などと、探偵気取りを続けている。
一番笑ったのが、Facebookに「霊視」と称し、「男の子はすでに死んでいる」とか「4足歩行の動物に襲われて死んだ」などと、後から検証すれば大間違いでしかないものが堂々とアップされていたことだ。この霊視が公開されたのが行方不明になって3日後のようで、その時間経過を考えれば、死んでいたり、その死因が熊などの動物であるという予想は、誰が考えても最も可能性が高そうな鉄板の組み合わせでしかない。
結果として外れていたから良いようなものの、こうした予知も事件をネタ化しているという意味では、マスメディアでの無責任な報道と何も変わりはない。
そして、自衛隊の施設で発見され、病院からも退院となり、その様子がニュースで流れていたわけだが、ニュース映像を見るに、男の子はとても楽しそうだった。
子供ながらに気を使って楽しそうなふりをしているのか、それもとこうして大々的にマスメディアの人までいっぱい集まっているのが本当に楽しかったのかは分からないが、とても楽しそうに笑っていた。
「もう発見されたんだから、もう取材はやめてやれよ」とも思ったが、その笑顔を見た時に、退院の様子を報じたことは良かったのかなとも感じられた。
山に置き去りにしたという親の行動には問題はあったし、マスコミやネットはあまりにこの事件をネタとして利用しすぎた。そうした問題はありながらも、しかし行方不明になった本人はとても元気で、一応はハッピーエンドとなった。
願わくば、行方不明になって、自衛隊の施設で助けを待ち、そして助けられ、多くのメディアに撮影されるという一連のことが、その笑顔のまま「いろいろあったけど楽しい思い出」として、本人に認識され、「大変だったけど、いい思い出」と認識されますようにと、祈らずにはいられない。
*1:<北海道保護男児>退院、両親「元気な大和さん見て安心を」(毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160607-00000101-mai-soci