自動車の電化は“自動運転”というイノベーションへの重要なステップ - BLOGOS編集部PR企画
※この記事は2016年02月26日にBLOGOSで公開されたものです
前回は、ヨーロッパにおける自動車の電動化の潮流を取り上げたが、アジアでもこうした動きが活発になってきているという。その動向と、自動車の電動化の延長線上にある“自動運転”という未来について鶴原氏に聞いた。
世界最大規模の中国市場の攻略が鍵を握る
―技術力や品質面に優れる日本製の電気自動車やプラグインハイブリッド車が、なぜ国内のみならず世界でも大きな普及に至っていないのでしょうか?
『実は日本ではあまり知られていませんが、中国でも自動車の電動化が急速に進んでいて、昨年は電気自動車とプラグインハイブリッド車を合わせた国内販売台数が25万台くらいに達したと言われています。ちなみに日本は約3万台です。
非常にざっくりとした数字ですが、中国の自動車マーケットが2500万台くらいで、日本が500万台。中国でも電気自動車やプラグインハイブリッド車はまだまだマイナーな存在なのですが1%くらいにはなってきたということです。
その要因のひとつとして、みなさんご存知の通りPM2.5による深刻な大気汚染の問題があります。これは自動車に限ったことではありませんが、電動車両を増やすということが国家レベルの政策的な至上命題になっていて、電気自動車とかプラグインハイブリッド車には、最大で5万5千元(1元=18円換算で99万円)というかなり高額の補助金が支給されます。これにより通常のクルマとの価格差がかなり埋まります。
もうひとつは、中国特有の事情として、北京や上海などの大都市では、クルマがこれ以上増えてしまっては困るということでナンバープレートを有料にしているんですね。もちろん日本でもナンバーを取得するのに諸費用はかかりますが、中国ではそれをオークションにかけたりして、高く値段を付けた人が権利を買うようなシステムにしているんです。例えば上海では最近のナンバープレート入札価格は平均で9万元(同162万円)近くにも上っているようです。ところが、電気自動車とプラグインハイブリッド車を買う人には、無料でナンバープレートが交付されるんです。これらの要因で電動自動車が普及しはじめているのです。
また、中国国内の電池業界から自動車業界に参入した企業の健闘もあり、中国の電気自動車市場は、今年は60万台)くらいになることが見込まれています。アメリカでも18万台程度と言われていますので、中国がいきなり世界最大のマーケットになるわけです。現在は、このマーケットにおいても中国産のクルマが大半を占めていますが、そこに日本のメーカーが価格を抑えるなどして、どれだけ食い込んでいけるかが今後の展開のポイントだと思います。
現時点では日本のメーカーの方が電池やモーターにしても技術的にも進んでいると思いますし、品質面においても世界一であることは間違いないと個人的には思います。ただやはり中国のように販売台数が多いと、そこで利益が生まれ、研究・開発への投資ができるようになりますし、数が売れていれば量産効果でコストが下がり販売価格は安く設定できます。
技術力も上がってコストは下がるという好循環に入ると、電動車両のノウハウにおいてリードしている日本も足元をすくわれかねないと思います。もちろんそれは日本メーカーも強く意識していることだと思いますが、中国市場の攻略が日本の電気自動車やプラグインハイブリッド車の重要な使命と言えますし、中国での成功が日本国内での販売価格にもいい影響を与えると思います。
クルマは“持つものではなくて呼ぶもの”になるかもしれない
―一方で、電動化の行き着く先には、“自動運転”というイノベーションが考えられる。“自動運転”が実現することで、もたらされる産業構造の変化とは、どのようなものなのだろうか?
『ひと言に“自動運転”といってもいくつかレベルがあります。衝突回避を支援する機能(プリクラッシュセーフティシステム)や車線からはみ出しそうになるとと警告を出してドライバーに注意を促す機能(レーンディパーチャーアラート)、前方のクルマと一定の車間距離を保って自動でアクセル操作をする(レーダークルーズコントロール)機能も、広い意味では自動運転になるのですが、これらの機能はドライバーがいるのが前提で、そうしたレベルでは、人間の運転がより安全で快適なものになるとは思いますが、産業構造に大きな変化をもたらすところまでは至らないと思っています。
ただその先、2030年ごろ以降には“無人カー”というか、完全自動のクルマが実用化してくるでしょう。そうなると自動車業界には革命的な変化が起きると思っています。というのも、クルマは“持つものではなくて、必要なときに呼ぶもの”になると考えられるからです。
昨年5月にディー・エヌ・エー(DeNA)とロボット開発ベンチャーのZMPが合弁で「ロボットタクシー」という会社をつくりました。同社が何を目指しているかというと、簡単に言えば運転手のいないタクシーです。タクシーは経費の4分の3が人件費と言われていて、運転手がいらなくなればタクシー代を4分の1にできる可能性があります。
仮にここまで料金が下がると、クルマを持つコストより無人タクシー呼んで使う方が安く上がるという人が多くなる可能性が出てきます。自分で運転しなくていいとなればお酒も飲めますし、乗り捨てていいとなれば駐車場で困ることもなくなります。要は運転に関する煩わしさから開放されるわけです。
加えて、“クルマは呼ぶもの”になれば選択肢が圧倒的に増えると思います。子供がふたり以上いるとミニバンを選ぶ家庭が多いですよね。ふたりなので3列シートはいらないと思うかもしれませんが、犬がいたり、おじいちゃんおばあちゃんが乗ることがあったり、子供の習い事の送り迎えで近所の子を乗せることがあったりと、最大公約数的に選ばざるを得ないということもあると思います。
40、50歳のお父さんならスポーツカーがいいなあとか、キャンプに行くならSUVがいいなあと思う人もいるかもしれません。本当は複数台所有してシチュエーションに応じてクルマが使い分けられるのがベストなのですが、なかなかそうはいきません。
でも、クルマが呼ぶものになったら、「今日は多人数乗車だからミニバンでいこうか」とか、「今日はスーパーで買い物するだけだから軽でいいや」とか、「今日は結婚記念日だからスポーツカーにしよう」といったように、用途によって好きなクルマを呼んで使えるようになります。
となればクルマの使い方の幅はかなり広がっていきますよね。運転しなくていいから単に楽になるだけでなく、もちろん呼んだクルマを自分で運転してもいいんですよ。ただ、だんだんハンドルがないクルマが主流になってくるかもしれません。
さらに言えば、生産者側も最終的に売って終わりということではなく、“道路を走る電車”といったようなビジネスモデルができてくるのではないでしょうか。具体的に言えばまず、クルマというハードウェアに加えて、それを走らせるための通信のネットワークをはじめとする巨大なインフラが必要になります。
また、運転しなくていいとなれば、「じゃあ俺はコンサートのライブビデオ見ようかな」「いや私は仕事をします」といったユーザー向けに、クルマの中で有意義に時間を過ごすための新しいビジネスがどんどん生まれてくるのではないでしょうか。
例えば、これまではクルマを買う際に燃費やデザインで選んでいましたが、“どのクルマを呼ぼうか”という時代になれば、「A社のクルマだけが、あのアーティストのライブが見られる」「B社のクルマであれば独占で話題の映画を放送している」といったように、自動車メーカーが呼んでもらうための付加価値をもっと充実させる必要があります。
あるいは、例えば家族で外食に出かけようとするときに「横浜の中華街に行ってくれる?」と言えば、クルマのナビ画面にクーポンが表示されて「Aという店に行っていただくと割引になります」とか、「B店だったらビールが一杯付きます」というように、クルマが動く広告端末になる可能性も出てきます。
極端な話、スマートフォンでお店を調べてもそのサイトに飛ぶだけでGoogleマップなどを手がかりに自分で辿り着かねばならないわけですが、自動運転になればクルマがリアルにお客さんをお店に連れてくる情報端末(広告端末)になるわけです。
電動化はイノベーションに向けた重要な一歩
自動運転と電動化は実は密接な関係があります。前回も申し上げたようにプラグインを含むハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などの電動車両は、ガソリンエンジン車に比べて応答性が高いし制御しやすいという特性があります。そもそも電動化と自動運転は相性がいいわけです。
クルマの役割は、普段は近距離の移動が中心で、ごくたまに遠距離移動をするというのがほとんどだと思います。いざ自分でクルマを買うとなると、やはり遠距離移動に不安があるという理由で電気自動車は選ばない人もいると思います。しかし、もしも呼んで使えばいいというものであれば普段の近距離移動は電気自動車でまかなえるし、遠出をしたければプラグインハイブリッド車やハイブリッド車を呼べばいいわけです。つまり、自動運転の時代には、電動車両がクルマの主流になる可能性があるのです。無人タクシーは、もはや公共の交通機関と呼んでもいいかもしれませんね。そうなれば、新幹線とも競合する可能性があると思います。
また、今後の高齢化社会を鑑みれば、一番メリットがあるのは過疎地でしょう。高齢者だけになってしまったけれど、クルマを運転しないとどこにも行けないといった地域には、自動運転という最先端技術がいち早く導入されるべきだと思います
電気自動車やプラグインハイブリッド車は、こうした未来のイノベーションにつなげるための重要な第一歩となるクルマなのです。
さらにプラグインハイブリッド車は航続距離が長いといった実用性や日常生活における利便性、そして環境性能を備えているため、今の技術と未来の技術をつなぐ役割を果たしていくと思います。』
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