突っ込みどころしかない高齢者雇用安定法 - 赤木智弘
※この記事は2014年10月20日にBLOGOSで公開されたものです
定年後に再雇用されたドライバーが、定年前と同じ仕事をしているのにもかかわらず、賃金が低くなったのは違法として60歳の契約社員が会社を提訴したという。(*1)年金支給開始年齢を遅らせたのと引き換えに、65歳まで働き続けることを希望する高齢者の延長雇用を義務付ける「高齢者雇用安定法」(*2)。しかし、その運用は決してうまく行っていないようだ。
というか、そもそも「企業に雇用を義務付けよう」という考え方がうまくいくはずがない。再雇用されてる人たちは、結局は本来であれば若い新入社員を入れるハズの人件費を、再雇用に流用することで雇用を維持されているのだから、高齢者の雇用の維持は、若者から雇用を奪っているに過ぎない。
また、再雇用された年寄りも、再雇用だからって突然新しい低賃金に見合うだけの仕事をわざわざ覚えるはずもなく、結局は再雇用以前の仕事につくしかない。それで賃金だけ下がるのはおかしいというのは、実に当然の話である。
企業というもの国のように定期的にある程度決まった税収が入ってくるわけではなく、あくまでも商売の結果によってその収入は大きく変わってくる。雇用というのは常に流動的であり、そうした流動的なものに対して「雇用を維持する義務」を課すこと自体が無茶ぶりというしかない。
結局のところ、年金運用の失敗を有耶無耶にし、国民の生活を守るという義務を企業に押し付けているに過ぎない。そして最終的に不利益を被るのは、弱い立場の若者や、雇用を守るバッファとして浪費される非正規労働者である。
もうこれは何度も何度も口を酸っぱくして言うしかないんだけど、個人を守る責任を負うのは政府や行政であって、企業ではない。企業に個人を守らせようとすることは、結局は企業という私企業に個人の生殺与奪権を与えるということに他ならない。
また、この制度で65歳まで雇用が継続されたとして、それ以降はどうするのか。定年以降に年金で生活が安泰なのは、一部大企業の正社員だけである。多くの老人たちは国民年金の低い給付と、取り崩し続ける貯金によって生活をしていくしかない。そしてやがて老人たちの生活も破綻する。
結局はたかだか5年、年金に守られた老後生活という絵に描いた餅が破綻するのを先延ばしにするだけの制度であり、とても社会保障の一端とは言いがたい。
こんな制度を真面目に運用するだけ無駄である。国は責任逃れに勤しむのではなく、まっとうな社会保障を実現することに力を注いでもらいたい。
*1:<賃金格差>「仕事同じで定年境に減額は違法」契約社員提訴(毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141017-00000026-mai-soci
*2:厚労省は「高齢者の雇用を義務付けるものではない」と主張するが、実質的に希望者全員を再雇用の対象にする制度である。