ユーザーを魅了するアップルの世界

MacやiPhoneといったAppleのプロダクトに魅了されるユーザーは多い。カバンやポケットにはiPhone、腕にはApple Watch、バックパックにはMacBook Proが入っていて、自宅はiMac。こんな感じで身の回りがAppleのプロダクトで満たされているAppleユーザーは少なくない。

Appleのプロダクトは「ハードウェアのスペック」という視点で比較した場合、同列の製品よりも高価なことが多い。このため、シェアという面ではAppleのプロダクトはさまざまな分野でトップをキープできないことが多い。パソコンではMacよりもWindowsのほうが多く、スマートフォンではiPhoneよりもAndroidが多い。プロダクトの良し悪しは当然大切だが、プロダクトのシェアにおいては価格も大きな要因になる。Appleのプロダクトは結構高いのだ。

しかし、日本はちょっと事情が異なる。日本はAppleの製品が占める割合が世界的に見てもトップクラスに高い。これほどiPhoneのシェアの高い国は他にはほとんどなく、Macのシェアも大きい。

Appleはキーボードも作っている

AppleのプロダクトはAppleのプロダクトと組み合わせたときに真価を発揮する。確かに廉価ではないのだが、組み合わせたときに動作もよいので、結局Appleプロダクトでそろえてしまうのだ。

MacBook ProやMacBook Airを使っている場合、オフィスやホームで作業するときには大きなディスプレイに接続して使ったほうが効率がよいことがある。そんなときはMacBookをクラムシェルモードにして、Bluetoothキーボード、トラックパッド、マウスを使ってスマートに操作だ。Appleはこうした場合に必要になる周辺機器をすべて用意している。Appleの世界で必要なデバイスは用意できる。

Magic Keyboard - 日本語(JIS)

Appleシリコン搭載Macモデル用Touch ID搭載Magic Keyboard(テンキー付き)- 日本語(JIS)- ブラックキー

12.9インチiPad Pro(第5世代)用Magic Keyboard - 日本語 - ブラック

しかし、である。現在、Appleが提供しているキーボードはどれもMacBookのキーボードに近い特徴を備えたものだ。ストロール長は短く、ノートパソコンのキーボードに近い。価格は安くはないのだが、いわゆる「高級キーボード」と呼ばれるキーボードが備えているような長いストロークやタイプ感は備えていない。キーボードの操作効率を引き上げたい場合、Apple以外のキーボードを選ぶというのはロジカルな選択肢だ。

Appleのキーボードで物足りないのなら

キーボードは入力デバイスという機械ではあるのだが、嗜好品の側面も備えている。現在のMacのキーボードのようにMacBook風のキーボードを好む人もいれば、キーが大きくストローク長さが十分なものを好む人もいる。MacBookのようにコンパクトなキーボードを好む人もいれば、テンキーやファンクションキーも充実したキー数の多いキーボードを好む人もいる。キーボードにおいて「最強のキーボード」というものを定義するのは難しく、その人にとっての「最良」のキーボードがあるという説明のほうがしっくりくるだろう。

こうした嗜好品という点において、Appleの提供するプロダクトはバラエティに限りがある。相性はよいのだが、チョイスの幅はそれほど多くないのだ。そしてキーボードは特にAppleの純正品として選択肢が多くない。キーボード操作の効率を引き上げようとした場合、Appleではないサードパーティのキーボードも検討したいところだ。

「Happy Hacking Keyboard」という選択肢

Macに対応しているサードパーティ製キーボードはいくつかあるが、ここでは「Happy Hacking Keyboard」を取り上げたい。Happy Hacking Keyboard (以降、HHKB)はコンパクトで、そのサイズはMacBookのキーボードとほぼ同じだ。MacBookを使っているなら使い出しやすいキーボードだ。キーの数は60個と少なく、何十年にわたってアドバンスドユーザーに愛用されている。Macで使われることも多い。

Happy Hacking Keyboard Professional HYBRID Type-S 無刻印/墨(英語配列)

現在展開されているHHKBモデルは次の3つ。

Happy Hacking Keyboard Professional HYBRID Type-S

Happy Hacking Keyboard Professional HYBRID

Happy Hacking Keyboard Professional Classic

HYBRIDはBluetooth接続とUSB接続、ClassicはUSB接続を表している。Type-Sは高速性と静音性を示す。双方を備えた「HYBRID Type-S」がフラッグシップモデルだ。

英語配列無刻印、英語配列、日本語配列という配列/キートップに、さらに「墨」と「白」というカラーがある。無刻印はキートップに何も印字されていない。これもHHKBの特徴だ。

製品のメトリックスは次のとおり。

パワーユーザーはキーボードを見ながら入力を行わないので、キートップの印字は不要だ。しかし、無刻印のキーボードというのはなかなかない。HHKBは最初から無刻印モデルを用意している。キートップに印字のないキーボードは結構スタイリッシュであり、Appleプロダクトとの相性はばっちりだ。

ここではこのHHKB HYBRID Type-SをMacで使う方法を紹介する。



FileVaultを使っているならログイン時のことは知っておくべき

ただし、HHKBを購入する前に知っておかなければならないことが数店ある。まず、HHKBは決して廉価なデバイスではないので、この点はちゃんと検討しておこう。

また、HHKBをBluetoothで使う場合、「FileVault」を有効にしてある場合にはログイン時にパスワードを入力することができない。スリープからの復帰時には入力できるが、ログイン時には使えない。この場合、MacBookを使っているならMacBookのキーボードで、そうではないならHHKBをUSB接続してパスワードを入力する必要がある。

さらに、HHKBの日本語配列を使う場合は「macOS 10.15 Catalina」およびこれ以降のバージョンが必要ということだ。「サポート対象外になっているMacを使っている」「Mojaveでアップデートを止めている」という場合を除いて、こちらは問題にならないことが多いと思う。

ということで、FileVaultを有効にしている場は注意が必要だ。ログイン時はBluetooth接続が使えないことに留意しておこう(USB接続なら使えるので、ケーブルを用意しておけばよい。最初からUSB接続で使うのであればこの問題はない)。

HHKBの基本的な操作

最初にHHKBに備わっている操作/設定用の部品を把握しよう。「電源スイッチ」、「DIPスイッチ」、「チルト」だ。

電源スイッチはオフ時に1秒以上長押しで電源オン、オン時に2秒以上長押して電源オフとなる。電源オンの後にはLEDインジケータが数秒青に点灯してから消灯し、電源オフの後には橙に点灯してから消灯する。最も基本となる操作なので最初に覚えよう。

HHKBは3つの動作モードを備えている。デフォルトモードは「HHKモード」と呼ばれる。これに「Macモード」と「Winモード」という3つにモードが用意されており、このどれかのモードで動作する。このモードを切り替えはHHKB背面に備わっているDIPスイッチで行う。

チルトはHHKBの角度調整を行う足だ。上部左右の背面に備わっている。大きい足と小さい足があり、好みに応じて角度を変更できる。チルトを使わなくても角度はついているので、そのままでも使える。ここは好みの問題だ。使い出す前にチルトを操作して好みの角度を探っておこう。

DIPスイッチを設定

DIPスイッチは最初は全部OFFになっている。これは「HHKモード」で動作することを意味している。

HHKB Professional HYBRID - DIPスイッチ設定例

DIPスイッチでモードの切り替えといくつかのキーの割り当て変更をする。主な設定は次のとおり。

Macの場合は「SW1」と「SW2」を「OFF」と「ON」に設定して「Macモード」設定し、SW4からSW6までは好み合わせて設定する。なお、MacモードではSW3は機能しない。Macは基本的に「Delete」がなく「BS」を使うからだ(「Fn」キーを使って「Delete」を入力することはできるが、使えるかどうかはアプリケーションに依存している)。

例えば、DIPスイッチを次のように設定する。

これで「Macモード」になる。まずはこの設定でよいと思う。



HHKB HYBRIDをペアリングする

HHKB HYBRIDはBluetoothペアリングを4つ設定できるようになっている。それぞれ1から4だ。どの番号に設定してもよいが、最初は1に設定することになる。設定方法は次のとおりだ。

電池を入れる

電源スイッチを1秒以上長押しする。LEDインジケータ青に点灯してから消灯するのを確認する

システム環境設定を起動し、「Bluetooth」を選択する。自動的に接続候補にHHKB HYBRIDが表示されるので、「接続」を選択し、表示されるパスコードをHHKB HYBRIDに入力して「Return」キーまたは「Enter」キーを押せば設定は完了だ。

システム環境設定:「Bluetooth」

表示されるパスコードをHHKB HYBRIDで入力して「Return」を押す

ペアリング完了

上記のスクリーンショットでは「HHKB-Hybrid_2」と表示されている。これは1で同期させたのではなく、2に同期させたためだ。1だと表示が「HHKB-Hybrid_1」になる。この表示される番号でどこに設定を保存しようとしているかがわかる。

2台目から4台目を登録する

では、具体的に2から4に対してペアリングする方法を説明する。次のショートカットキーを使って登録を行う。

例えばペアリング2に別のデバイスを登録するなら、次のように操作する。

「Fn」+「Q」を押す。青点滅(2回/秒)を確認する

「Fn」+「Ctrl」+「2」を押す。青点滅(4回/秒)を確認する

ほかのデバイスからBluetoothペアリングを行う

予算が潤沢にあるなら、作業するすべての場所用にHHKB HYBRIDを購入すればよいのだが、HHKB HYBRIDは持ち運んで利用するのもラクだ。4つまで登録できるので、いろいろなところに持ち運んで使用できる。

ペアリング先を切り替えて使う

ペアリングの切り替えは次のショートカットキーで行う。登録していない番号には切り替えることができない。

「Fn」+「Ctrl」+「1」 - ペアリング1へ切り替え

「Fn」+「Ctrl」+「2」 - ペアリング2へ切り替え

「Fn」+「Ctrl」+「3」 - ペアリング3へ切り替え

「Fn」+「Ctrl」+「4」 - ペアリング4へ切り替え

USB接続で使う場合には次のショートカットキーを入力してUSB接続へ切り替える。

「Fn」+「Ctrl」+「0」 - USB接続へ切り替え

USB接続にするとBluetoothで使うときのように手軽に移動させるといったことはできなくなるが、USBケーブル経由で給電されるので電池が消耗しないという利点がある。使い方次第だが、ケーブルが気にならないならUSBケーブルを接続して使うのもありだ。



ペアリング先を確認する

HHKBの意思表示はLEDインジケータだ。電源ボタンを1回だけクリックすると、Bluetoothのペアリング先がどれかを確認できる。接続先で混乱したときはこの方法で確認する。

省電力モード

HHKB HYBRIDは省電力モードが有効になっている。SW6で切り替えが可能で、SW6をONにすると省電力モードを無効化できる。

省電力モードでは、30分間入力がないと自動的に電源がオフになる機能だ。これで電池の消耗を抑えている。このため、30分以上空いた場は使い出す前に電源ボタンを1秒以上長押しして電源をオンにする必要がある。このあたりは有線キーボードやほかのBluetoothキーボードを使っている場合には慣れが必要なところかと思う。

省電力モードを無効化すれば自動的に電源がオフになることはないが、その分だけ電池の消耗も早くなる。

電池残量

電池の残量が少なくなってくると、LEDインジケータが橙色に点滅を繰り返すようになる。この状態になったら電池を交換しよう。

キーの入れ替えはソフトウェアからもできる

HHKBは「Happy Hacking Keyboard キーマップ変更ツール」を使ってキーの入れ替えることができる。Macを使っている場合はそれほどの必要性はないと思うが、どうも配置が手になじまないなら、このツールを使ってキーを入れ替えてみるというのも手だ。

Happy Hacking Keyboard キーマップ変更ツール

Happy Hacking Keyboard キーマップ変更ツール:キーマップ変更

「Happy Hacking Keyboard キーマップ変更ツール」はHHKBのファームウェアをアップデートする用途にも使われる。

ただし、「Happy Hacking Keyboard キーマップ変更ツール」はBluetooth接続状態では使えないので、使うときはUSBケーブルで接続する必要がある。

MacとHHKB HYBRID無刻印というスタイリッシュな組み合わせ

Appleの世界ですべてが完結できるAppleプロダクトだが、キーボードの入力効率を高めたいと考えるなら試してもらいたいのがHHKBだ。特にフラッグシップモデルであるHHKB HYBRID Type-Sは予算が許すのなら試してもらいたい。

キートップを見ないと入力ができないという場合は印字されたモデルを、ブラインドタッチができるならぜひ無刻印モデルを試してみてほしい。HHKB HYBRID Type-S無刻印とMagic Trackpadと組み合わせなどよい感じのシンプルなスタイルになる。

スタイリッシュさはもちろんだが、なんといってもHHKBはユーザーが長年にわたって愛用する実力がある。使い続けるほどに手になじみ、入力効率が高まっていく。Macは世代交代を重ねて行っても、利用するキーボードはHHKB一本、そうなってくるのだ。

もしキーボードの操作効率を上げていきたいと思っているのなら、ぜひ利用を検討してみてほしいキーボードだ。もちろん相性の問題はあるが、かけた時間と努力の分、きっちりを応えてくれるキーボードだ。