「サッポロ一番」の主力3品(写真:サンヨー食品)

コロナ禍の生活も3年目と長期化している。この間、飲食をはじめ消費活動を取材してきたが、インスタントラーメン(即席麺)では、興味深い動きがあった。

最初に巣ごもり需要となった2020年度(1月〜12月)は「カップ麺よりも袋麺が好調」だったのだ。同年度は小売額ベースで対前年比20.0%増、数量ベースで17.4%増となった。ちなみに袋麺の2倍以上の総需要があるカップ麺は、出荷額ベースで2.6%増だった。

(※数字はいずれも「日本即席食品工業協会」調べ、表記は発表時)

コロナ禍の初年に袋麺の需要が高まったのは興味深い。この年からリモートワークが増え、他の食品でも、消費者が自宅で「少し手間をかけて調理を行う」傾向にあるからだ。

そこで今回は、袋麺で長年首位ブランドに君臨する「サッポロ一番」(サンヨー食品)に焦点を当ててみた。日本で育ったほとんど人が、一度は食べたことのある袋麺の横顔とともに、消費者心理も探った。

人気は「みそラーメン」と「塩らーめん」 

「『サッポロ一番』の発売は1966年で『サッポロ一番(しょうゆ味)』が最初でした。2年後の1968年に『サッポロ一番 みそラーメン』が、1971年に『サッポロ一番 塩らーめん』が発売され、1972年から半世紀にわたり、袋麺ではほぼ首位を維持しています」

サンヨー食品の水谷彰宏さん(マーケティング本部 広報宣伝部課長)はこう説明する。

これまで同シリーズ累計で250億食以上を販売したが、“2トップ”といえる存在が「みそラーメン」と「塩らーめん」だ。さまざまなデータで調べても「サッポロ一番 みそラーメン」が首位、「サッポロ一番 塩らーめん」が僅差で続く構図は変わらない。ちなみに「サッポロ一番(しょうゆ味)」は強くない。

この2大風味を好む人は、強い信念があるのだろうか。

「消費者調査を行うと『その時の気分で選ぶ』という方は結構おられます。もちろん同じ味を食べ続ける方もいらっしゃいますが、『子ども時代はみそ、大人になってから塩』という方、またはその逆の方もおられます。それぞれの思いで楽しまれているようです。

2019年、ユーザーの方にTwitter上で投票していただき決着をつける『サッポロ一番 みそ派塩派大論争』キャンペーンをしたことがあります。その時も大接戦でした」(同)

ちなみに結果は次の通りだった。


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サンヨー食品広報宣伝部の水谷彰宏さん(筆者撮影、撮影のためマスクを外しています)

久しぶりの「簡単調理」にも選ばれやすい

在宅時間が増え、簡単な料理を作り始めた人も多い。別のメーカーの取材では「麻婆豆腐の素を使った『麻婆豆腐の作り方』動画では、再生回数が増大した」という話も聞いた。

「久しぶりに何かを作ろうとした方に『サッポロ一番』は選ばれやすいようです。即席麺には舌の記憶があり、他の加工食品に比べて手軽なのもあるでしょう」

福井尚基さん(マーケティング本部 広報宣伝部部長)はこう話し、「常温で長期保存もでき、コストパフォーマンスが高い」という長所も指摘する。

小売店の特売では5袋入りパックが300円程度で販売されることもある。昔から財布にやさしい商品だが、実は発売以来、味をほとんど変えていないという。

「『サッポロ一番 みそラーメン』は、発売45周年の時に少し味わいを深くしました。粉末スープは、使われる味噌を7種類のブレンドから8種類に増やしたのです。麺にもその味噌を練り込みました。でも、多くの方は気づかれないかもしれません」(同)

同封の「七味スパイス」もグレードアップし、スパイスのパッケージも銀色になった。

半世紀前とほぼ変わらない味なのは、それだけ発売時の商品の完成度が高かったのだろう。


都内の小売店では、今でも3品がゴールデンゾーンで販売されていた(筆者撮影)

どんな食材を入れ、ひと手間かけるのか

ロングセラー商品は、よく「消費者とともに年をとる」と言われるが、「サッポロ一番」は若い世代も支持する。今回、若手消費者の本音トークも聞いたので紹介したい。

「めっちゃ食べます! 備蓄しています。基本的に『サッポロ一番』を食べるのは、疲れていて、いかにラクして栄養を取れるかを考えているときですが、素ラーメンだと罪悪感があるので、基本は冷凍野菜または乾燥わかめを入れます」(20代の会社員女性)

この人は「塩らーめん」と「みそラーメン」愛用派。こんなひと手間をかけている。

「塩らーめんの場合は、卵とネギを入れて中華スープっぽくして食べることが多いです。みそラーメンの時は、ベーコンを炒めて入れると美味しいのですが、炒めるのが面倒な時はここもまた冷凍野菜です。鍋用に買った白菜とかが余るので、それを冷凍しておいてラーメンに入れます。みそラーメンにはキノコを入れたりもします」(同)

サンヨー食品は同社の公式サイトで「ひと手間レシピ」も紹介している。

「一般的には、卵やサラダチキン、カット野菜など手に入りやすい食材を入れる方が多いようです。あまり手間をかけず、身近な食材を入れて調理されています」(水谷さん)

インスタントラーメンは昭和時代から「栄養が偏る」と言われてきた。そうならない工夫は野菜を入れること。昔の「サッポロ一番 塩らーめん」のテレビCMでは「♪白菜、シイタケ、ニ〜ンジン、季節のお野菜いかがです〜」と訴求していた。


2001年「サッポロ一番 みそラーメン」CMでも、野菜を入れる訴求を行った(写真:サンヨー食品)

昭和時代に発売されて、平成、令和と人気を維持してきた「サッポロ一番」だが、激戦区の袋麺市場では強敵が出現したこともある。

1981(昭和56)年に登場したのが「中華三昧」(明星食品)だ。「本格中華」を掲げ、当時で1食120円。高級感を打ち出し、袋麺のイメージを変えるパッケージや味わいでセンセーションを巻き起こした。

2011(平成23)年には「マルちゃん正麺」(東洋水産)が登場した。生の麺を再現したような味わいが受けて大ヒットとなり、発売10年で累計販売数は19億食を突破した。

カップ麺では「カップヌードル」(日清食品、1971年発売)という巨大ブランドがある。グローバルでも展開し、2021年には「世界累計販売500億食」を突破した。

全体に占める割合は、「カップ麺66%:袋麺31%:生タイプ0.3%」(2020年度、日本即席食品工業協会)だが、カップ麺が袋麺を抜いたのは平成元年=1989年だった。

「『カップヌードル』に代表されるように、お湯を注げば、勝手に調理してくれる。食べた後の食器や鍋洗いなども不要。この簡便さが袋麺との価格差を超えて支持された」と話す業界関係者もいる。ちなみに袋麺の総生産量ピークは1972年と半世紀も前だ。

カップ麺も袋麺も「激辛」人気が続く

カップ麺に比べて、袋麺は5割弱の生産量だが、それでも年間「約18億6451万食」(2020年度、日本即席食品工業協会)も生産される。消費者嗜好の変化を踏まえて、さまざまな味で訴求。近年目立つのは辛口の味だ。

2017年ごろから「マー活」と呼ぶブームが起き、麻(マー)のしびれるような辛さを楽しむ消費者が増えた。カップ麺も「蒙古タンメン中本」(セブンプレミアム)のような激辛が人気だ。

袋麺では「宮崎辛麺」(響)を楽しむ人もいる。「平日の在宅勤務の昼食に、子どもと一緒の時は食べられない刺激のある味を選ぶことも多いです」(30代の会社員男性)。


2018年にリニューアルされて人気の「サッポロ一番 みそラーメン 旨辛」(写真:サンヨー食品)

「サッポロ一番」でも派生商品で『サッポロ一番 みそラーメン 旨辛』が発売されている。今回「サッポロ一番の中で、これがいちばんおいしい」(20代男性)という声も聞いた。

前述の「みそラーメン」「塩らーめん」でも“ちょい足し”では、「圧倒的にラー油が多く、みそラーメンにはコチュジャンを入れる人も目立ちます」(水谷さん)という。20代〜30代を中心に、何かを足して刺激を求める消費者は多いようだ。

「消費者は変化するが、人間の本質は変わらない」

こうしてインスタントラーメンと向き合って、思い出した言葉がある。

「消費者はどんどん変化するが、人間の本質はそんなに変わらない」という言葉だ。

生活文化の視点を加えると「高度成長期に定着した飲食は強い」とも思う。即席麺で最強の「カップヌードル」(1971年)、袋麺の2強「サッポロ一番 みそラーメン」(1968年)、「サッポロ一番 塩らーめん」(1971年)はいずれも昭和40年代の発売。半世紀超も人気が続く。

この時代から消費者の食生活が洋風化されたり、レトルト食品などの登場で簡便化されたりしていき、上の世代にはなかった飲食を楽しむようになった。それが続いているのだ。

即席麺好きな人からは「あのチープ感がいい」(30代の会社員女性)という声も聞いた。「無性に食べたくなる」と話す人も多い。

「サッポロ一番」の開発を陣頭指揮した井田毅氏(サンヨー食品創業者、前社長)は、「美味しすぎるものは飽きる」と話していた。同社社内には、「サッポロ一番 みそラーメン」の最終決定の試食時に、井田氏が「試作品の中からいちばん美味しいものをあえて外した」という逸話が残る。

味を現代風にしすぎない理由もここにありそうだ。店で食べるラーメンに近づいた商品もあるが少し違う。適度な「チープ感」がインスタントラーメンの魅力かもしれない。

(高井 尚之 : 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント)