ロシアによるウクライナの軍事侵攻を踏まえ、JALとANAが、ロシア上空を通過するヨーロッパ線において、同国上空を避ける迂回ルートの設定を開始。ただ両社でルート選定に差があります。なぜでしょうか。

JALは北回り、ANAは南回り

 ロシアによるウクライナの軍事侵攻を踏まえ、JAL(日本航空)とANA(全日空)が、ロシア上空を通過するヨーロッパ線において、同国上空を避ける迂回ルートの設定を開始しています。


JALのボーイング777-300ER(乗りものニュース編集部撮影)。

 JALは2022年3月4日(金)より、羽田〜ロンドン線でロシア上空を通過せず、アラスカ・グリーンランド・アイスランドを通る「北回り」で運航します。羽田〜パリ・ヘルシンキ線では、欠航も視野にいれつつ、1週間程度のスパンで都度、運航方針を決めるといいます。

 北回りルートは、JALと協業関係にあるアライアンス(航空連合)の乗り継ぎに適しているロンドン・ヒースロー空港に最短距離で運航できる経路であるほか、過去にこの北回りルートで欧州線を運航していた実績があり、安全に飛行できると判断したとのこと。なお、今回は直行便となり、従来より往路(成田発)が2〜3時間、復路(欧州発)が4時間程度、それぞれ飛行時間が伸びる見込みです。

 一方でANAは、3月4日から成田〜ブリュッセル便や羽田〜フランクフルト便などを中央アジア上空を通過する「南回りルート(中央アジアルート)」で運航を開始。こちらも飛行時間が往路が3時間30分、復路が2時間飛行時間が伸びる見込みです。

 ANAの平子裕志社長は2日時点ですでに、報道陣に対し迂回ルートを採用する可能性を示唆しており、「南回りが一番有力です」とコメント。今回の発表も、それに準じたものとなりました。

ANAの南回り、JALのとりあえず北はなぜ?

 ANAの平子社長によると北回りの場合「ETOPS運航時のダイバート先(緊急時に着陸する代替空港)が、良い空港が取れない可能性もある」とのこと。

 通常、双発機はエンジン1基が停止したときなどに備え、条件の整った空港へ60分以内に降りられる範囲を飛行しなければいけません。「ETOPS」は一定の条件を満たし信頼性が認められた航空会社と機体に限り、その時間制限を大きく緩和するルールです。

 ただ、「ETOPS運航」でも代替空港を選ぶことが必要です。平子社長の発言は、北回りルートでは、そのときに条件の整った空港を設定することが、南回りと比べて難しいという意味でしょう。事実南回りであれば、ANA定期便が就航する空港の近くを飛ぶことができます。


ANAのボーイング787-9。同機はワクチンを積みブリュッセルから到着した(乗りものニュース編集部撮影)。

 一方でJALの幹部は、「南回りは今後検討する」としているものの「(南回りルートにある)ヒマラヤ上空では強いジェット気流が吹きます。北回りは南回りと比べて100マイル(約185km)程度飛行距離に差があり(北回りの方が遠い)、風向きまで考慮すると一概に北回りが遠いとはいえないと考えています」とコメント。

 ただ、JALの北回りルート採用は、緊急性を踏まえた交通網の確保のための”暫定対応”ともいえます。

 ヒースロー空港は、JALと欧州線の共同事業パートナーを組む英・ブリティッシュ・エアウェイズの拠点。ここから欧州各国へ乗り継げることを優先した形で、JALの担当者も「最速で準備できるステーションがヒースローだったということです」と話します。また今後「可能性としては、北回りと南回りを組み合わせて飛ばす可能性も十分考えられる」とのことです。