最上位ウォークマン「NW-WM1ZM2 / WM1AM2」が飛躍の第二世代となった理由(本田雅一)

ソニーというメーカーはとても洗練されたデザインの製品を作るイメージがある。一方で作り手のこだわりが込められた、実にマニアックな製品も生み出してきた。

かつて業績が長く落ち込んだ時期には、自由闊達な気風から生まれる個性的な製品が失われたこともあった。しかしここ数年は徹底してこだわることに重きを置いた製品が生まれるようになっている。オーディオ製品で言えば、それらには「シグネチャー」シリーズという名称が与えられているが、中でもウォークマンチームの作る製品は"異質"だ。

量産メーカーが手がける製品というよりも、少量生産ながら徹底的に質にこだわるガレージメーカーのようなコンセプトで徹底的に質を追いかける。本来は量産でなければ成立し得ないジャンルでそれをしている。

金メッキ処理が施された銅シャシーのNW-WM1Zは重く、高価ではあるが、それまでホームオーディオ向けだったさまざまなオーディオチューニングをウォークマンに盛り込み、熱狂的なファンを生み出した。

その開発チームは、敬愛の念を込めて「変態さん」とファンから呼ばれ、本人たちも「変態さん」と呼ばれることを楽しんでいる。なぜ"変態"なのかと言えば、それは通常ならあり得ない「それってオカルトですよね?」と言われるような音質対策を施しながら、細かく、粘り強く、音質を追求してきたからだ。

▲左から順に、ソニー株式会社ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 モバイルプロダクト事業部 モバイル商品設計部 関根和浩氏、ソニー株式会社ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 モバイルプロダクト事業部 モバイル商品企画部 田中光謙氏、 ソニー株式会社ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 モバイルプロダクト事業部 モバイル商品設計部 佐藤浩朗氏

そこに経済合理性は、実はあまりない。結果的に採算が取れているかどうかは承知していないが、コスト回収を考えて開発していないことは明らか。そんなことがソニーという大きな組織の中で許されているのだから、そもそもソニーという会社のDNAに、オーディオにこだわる人種を受け入れる素養があるということだろう。

君子は豹変す。アプローチの変化で標準モデルの音が変わった

そんな変態チームが作るウォークマンのフラッグシップ機がAndroidを採用することでストリーミング配信にも対応した"マーク2"になった。機能的な変化や画面サイズの拡大なども重要ではあるのだが、実は初代機の音質チェック時に開発チーム、佐藤氏と音質について議論したことがある。その時のエピソードと、議論に対する答えが実は「NW-WM1ZM2」「NW-WM1AM2」の音質的な位置付けを把握する上でとても重要だったので、まずはそのあたりをお話ししておきたい。

初代機の発売直前、試聴して最初にコメントしたのは「より多くの消費者と接するだろうNW-WM1Aを音質的なリファレンスとして、その究極版としてNW-WM1Zを置く方が良かったのでは?」ということだった。

というのも筆者にはNW-WM1Aの音質が良いとは感じられなかったから。当時、他媒体の記事でもはっきりと書いている。

NW-WM1Aは、音の輪郭が明瞭に聞こえるが情報量が少なく、切り抜いたように明瞭な音像の輪郭は見通せるものの、音像の周辺にふわっと広がるべき空気、気配のようなものが薄い。バランス面でもドンシャリ傾向で、S/N感がよく帯域のエネルギーバランスも揃って聞こえるNW-WM1Zとは明確に異なる。

そこには"品位"の違いもあるのだが、明確に"質"が異なっていたのだが、それはどうやら当たらずとも遠からず。NW-WM1Zで音を作り込んだ上で、より低価格なWM1Aではどんな音の性格にしようかと悩み、最終的に落ち着いたのが品位の違いだけではなく、質の面でも異なるチューニングを施すという結論だったのだそうだ(という話は今回の取材で知ったのだが)。

そんな話の後、ウォークマンの音は少なからず変化し、中上位モデルのNW-ZX300が発売された際にはNW-WM1Z寄りの音作りになっていた(現在のNW-ZX500シリーズでも同様のチューニング傾向にまとめられている)。

……と、旧モデルの話を長々と書いたのは、新モデル最上位のNW-WM1ZM2では99.99%純度の銅素材へとグレードアップしたシャシーやキンバーケーブルによる内部配線、さらに金ハンダの採用など、さまざまな面で最高を追っているのは同じだが、音作りの考え方に関しては変化していたからだ。

標準モデルとなるアルミ削り出しシャシーのNW-WM1AM2で音作りを追い込んだ上で、上位モデルのNW-WM1ZM2では”物量”を投入することにより、そこからさらに音の品位を磨き込んでいる。その際に音作りは変えていない。もちろん同じではないのだが、価格や重さの違いを考慮するならば、NW-WM1AM2が極めて費用対効果の高い製品になったとも言える。

高橋氏も「ここまで近い音にするとNW-WM1ZM2を選んでもらえないかもしれない」との葛藤があったそうだが、それでも両モデルの音の質感を揃えるべきだと考えて追い込みを行ったと話した。