「最高の着心地」ってどうつくる? 新素材誕生にもつながったノウハウを、スポーツウェア開発担当者に聞いた

写真拡大 (全7枚)

ウェアを選ぶうえで大切な「着心地」。
普段着るウェアはもちろん、スポーツをするときも着心地は大事ですよね。

最近は機能性ウェアも増えており、着心地の良さを特徴にした商品も多く見られます。

でもここで疑問が……。

着心地という感覚的なものは、どうつくられているのでしょうか。着心地の良いウェアをつくるための方法論はあるのでしょうか。

そこで、デサントのスポーツウェア開発を担当する弘中貴大さんに「良い着心地のつくり方」を取材。

そのノウハウを教えてもらうとともに、デサントが新たな着心地を目指して開発した独自素材「S.F.TECH」についても聞きました。

着心地を左右する、生地の「情緒的な機能」とは

――ウェアを選ぶときに「着心地」を気にする人は多いと思います。とはいえ、感覚的なものだからこそ、つくり方のイメージが湧きにくい面もあります。どうやって着心地の良いウェアをつくるのでしょうか?

まず着心地の良さを左右するのが、ウェアの「生地」です。

世の中にはさまざまな生地がありますが、私たちはいろいろな観点で評価して、最適な着心地の生地を探しているんですね。

生地を評価するポイントとしては、「数値的な機能」と「情緒的な機能」があります。

「数値的な機能」というのは、文字通り、数値で表せる生地の性質。“吸水性”や“速乾性”などが分かりやすいでしょうか。吸水性なら、生地に水滴を垂らして、どのくらい速く水滴を吸収するかを数値化するなどがあります。

そしてもう一つの「情緒的な機能」。これは、上品さや高級感を感じるような生地の見え様や、触ったときの肌触りや柔らかさ、ふんわり感など、まさに人の感覚的な評価のこと。

見た瞬間、肌に触れた瞬間の第一印象とも言えますね。

特に着心地では情緒的な機能が大切になるので、それを満たす生地選びをしています。

――ということは、商品開発の現場でも、感覚的な評価を大切にしているんですね。

メーカーには生地選びを専門に行う人もおり、実際に生地を触りながら、肌触りや柔らかさといった機能を自分の感覚で評価しているんです。

その日の温度や湿度、環境によって、どちらの手で触るか変える人もいるほど繊細な仕事。職人技の世界ですね。

スポーツウェアにはストレッチ性を生む「ハリ」と「柔らかさ」。相反する2つの要素が必要

――生地のいろいろな機能、特徴が合わさって最終的な着心地を生んでいると思いますが、特にポイントとなる機能はありますか?

一つ挙げるなら生地の「ストレッチ性」ですね。基本的にストレッチ(伸縮)の効く生地のほうが、体の動きを制限しにくく、ストレスになりにくいと思います。

ただし、ストレッチ性があって生地が伸びてもゴムのように元に戻ろうとする力が強すぎる生地だと、かえって体を動かす際に負荷になる可能性も。

例えば、コンプレッションウェアなどに使われるポリウレタンという繊維があります。ストレッチ性はあるのですが、伸びた後に元に戻ろうとする力があまり強くなると窮屈さにつながる部分もあります。

――ストレッチ性があっても元に戻ろうとする力が強すぎる生地だと、そういうデメリットも生まれるわけですね。

そうですね。また、着心地を追求するうえでは、生地の「軽さ」も重要です。と言っても、これは「グラム」などの数値で表す軽さだけでなく、感覚的な「軽やかさ」も含まれます。

重さは変わらなくても「なんとなくこの服は軽く感じる」ということがあると思います。これも「情緒的な機能」の一つですね。

ただし、軽さも注意が必要です。生地の厚みと軽さは一般的に比例するので、生地が薄いと軽くなるのですが、一方で柔らかくなったりハリがなくなります。

生地が柔らかくなりすぎてハリがなくなると、それによって体にくっつきすぎたりと、着心地の悪化につながることもあるんですね。

これらをふまえると、着心地を考えるうえでは、ストレッチ性とハリがありつつ、感触は柔らかい。それによって、適度な軽やかさを感じる。そんな“バランスの良さ”が大切になってきます。

――そういった「バランスの良い生地」を見つけるのは簡単ではなさそうですね。

ですので、繊維を加工するなかで着心地を上げる工夫もしています。

例えば、ウェアに使われる繊維を糸にするとき、その繊維に熱をかけます。こうすることでできあがった糸が捲縮し、柔らかく、ふわっとした伸縮性のある生地につながるのです。

この工程は、時間をかけて丁寧に熱をかけるほど、ふっくらとした仕上がりに。その分、手間はかかるのですが、着心地のためには大切です。

こうして作られた糸を編んでウェアの生地が作られます。

ウェアの生地は編物(ニット)と織物が代表的ですが、一般的には、編物のほうが生地のストレッチ性が出やすいですね。こういった違いも、着心地に関わってきます。

縫製の場所一つを取っても、着心地は変化する

――ウェアをつくるうえでは、設計図となる「パターン(型紙)」づくりが大切です。これらも「着心地」に関係するのでしょうか?

大きく関わってきます。体の形に合わないウェアを着ていると、動きに制約ができてしまいますから。きちんと体に合わせたパターンにすることで、着心地が変わる可能性があるのです。

トップスの縫製を例にとってみると、多くのウェアは、肩と腕のつなぎ目、肩まわりに縫製が入っていることが多いと思います。ただしスポーツをするうえでは、この部分の縫製が腕の動きに影響を与える可能性も。

そこで、この縫製をなくし、腕から肩まで1枚につながった形のウェアもあるのです。

――肩まわりの縫製をなくして、動きやすさを上げていくと。

逆に、縫製をあえて作って着心地を上げようとするケースもあります。例えばパンツの縫製です。

人間の脚は、横から見ると直線になっていないですよね。膝関節を頂点にして、「く」の字に折れています。

そこで膝裏に1本、縫製を横に入れます。こうすることで、脚の「く」の字に合わせてパンツを曲げやすくし、快適性を高めようとするのです。

――そういったパターンの工夫が着心地に関わってくるわけですね。

ただし、いくら体の形に合ったウェアでも、ストレッチ性がないと運動時は窮屈になります。

ですので、スポーツウェアやトレーニングウェアでは、体の形に合ったパターンに加えて、最初に話した適度なストレッチ性が必要です。

これらのノウハウにより新たな着心地を生んだ新素材「S.F.TECH」とは

――ここまで着心地のつくり方を詳しく聞いてきましたが、デサントでは新たな“着心地”を追求した独自素材「S.F.TECH(エスエフテック)」を開発しています。これはどんな素材なのですか?

着心地ではバランスが必要と言いましたが、まさにそのバランスを追求した素材です。

具体的には、2つの性質の異なる糸を一緒に編み込むことで、柔らかく肌触りの良い“ふわっと感”と、適度な“ハリ”を両立させています。

1つ目の糸は、先ほどお話しした熱を加える工程で、通常の数倍ほどの時間をかけています。それによって、生地の柔らかさやふわっと感、伸縮性を生み出しました。

そして2つ目の糸は、反対にバネのような弾力性があるため、ハリとストレッチ性に優れています。

――2つの異なる性質の糸をミックスさせたことで、着心地に大切なバランスが生まれているわけですね。

ふわっとして軽やかさがありながら、ハリもあって体にまとわりつかない生地になっています。

柔らかなふくらみのある糸だけでも伸縮性は生まれるのですが、もう1本の糸によりさらにストレッチが生まれています。ハリも出るので、体にまとわりつかず動かすときに制限されにくいのではないでしょうか。

ぜひ多くの方に、その新感覚の着心地を試していただきたいですね。

――かしこまりました。着心地の仕組みとともに、S.F.TECHに込められた工夫も分かりました。ありがとうございました!

文/有井太郎

<プロフィール>

デサントジャパン株式会社 
デサントマーケティング1部 カテゴリーマーケティング1課
弘中貴大氏

入社後、約6年の営業を経験したのちデサントブランドのトレーニングウェア開発担当に。現在も週に1回は店舗を訪れ、商品研究や訴求方法の探求に余念がない。