インターネットやテレビでは、ぐっすり眠れるようになるサプリメントや食材などについての情報が流れていますが、それらの中には根拠がはっきりしていないものも多々あります。そこで、「安眠できる」とよく言われる食べ物や飲み物について、医学の専門家が科学的なエビデンスを元に解説しました。

Can oily fish, cherries or milk help you sleep? Here's what the evidence shows

https://theconversation.com/can-oily-fish-cherries-or-milk-help-you-sleep-heres-what-the-evidence-shows-173529

イギリス・アストン大学医学部の管理栄養士であるデュアン・メロー氏と、健康生命科学部の准教授であるジェームス・ブラウン氏によると、食事は主に「睡眠ホルモン」とも呼ばれるメラトニンの分泌に影響を与えることで、人の睡眠に影響を及ぼしているとのこと。例えば、メラトニンの生成を助ける必須アミノ酸であるトリプトファンが安眠に役立つ栄養素として有名なほか、ビタミンDやマグネシウム、亜鉛なども睡眠を助けることが知られています。

メロー氏らが紹介した中で、安眠につながる可能性が高いことが研究で示されている食材は、次の2つです。

◆脂が乗った魚

漁業が盛んなエクアドル沿岸部の住民を対象とした2016年の研究や、オメガ3脂肪酸の摂取量に注目した2014年の研究により、サケやニシンなど脂が乗った魚の摂取量が多い人は睡眠の質が高いことが分かっています。これは、オメガ3脂肪酸が睡眠と覚醒のサイクルの調整をしている脳内物質であるセロトニンの放出に関与しているからとのことです。



◆タルトチェリー

タルトチェリーは、スミミザクラの実で、酸味が強いことからジュースやスイーツなどによく使われます。このタルトチェリーのジュースを高齢者に飲んでもらった2010年の研究では、タルトチェリーには不眠症の重症度を大きく改善させる可能性があることが示されました。これは、タルトチェリーにはマグネシウムや睡眠サイクルを調整するメラトニンが豊富に含まれているからだと考えられています。

一方、次の5つは相反する研究結果があったりエビデンスが不十分だったりして、間違いなく安眠効果があるとは言い切れないものです。

◆キウイフルーツ

キウイと安眠の関係については、科学者の間でも見解が分かれています。睡眠障害のある大人とキウイフルーツの摂取量について調べた2011年の研究では、キウイを4週間続けて摂取した結果、睡眠に関する複数の指標の数値が改善したとの結果が得られました。しかし、慢性的な不眠症を患っている学生を対象にした2017年の研究では、効果が得られなかったと結論づけられています。このことからメロー氏らは「これまでのところ、キウイを食べると睡眠にいい影響が得られるとは言い切れません」と述べました。

◆カキ

19世紀の資料には「カキを食べた人は、その夜には穏やかに眠ることができる」と記されているとのこと。実際に、カキを含む亜鉛が豊富な食べ物は睡眠に役立つと報告する研究結果がありますが、「寝る前にカキを食べるとよく眠れる」と断定するにはまだ至っていないのだそうです。



◆ホットミルク

1970年代に行われた(PDFファイル)研究では、就寝の前に温かい牛乳を1杯飲むと睡眠の質が向上することが示唆されました。しかし、この研究は対象者が18人と少人数な上に、これ以降ホットミルクと睡眠に関する研究はほとんど行われていません。確かに、牛乳を飲むとメラトニンのレベルが上昇するので安眠効果が期待できる可能性はありますが、メロー氏らは「ホットミルクを飲むと間違いなく眠りがよくなるとの主張を裏付けるには不十分」と結論づけました。

◆ボーンブロス

ボーンブロスとは、骨からダシをとったスープのことで、英語圏のネットではよく睡眠を助ける料理として話題になるとのこと。その根拠としては、アミノ酸の一種であるグリシンが豊富だからとされています。確かに、グリシンが内臓などの深部体温を下げてマウスや人間の睡眠を改善させるとの研究結果もありますが、ボーンブロスが睡眠に影響をもたらすことを直接確かめた研究はまだ行われていません。

◆お茶やハーブティー

睡眠の改善を目的としたハーブティーは多く存在しており、特に「バレリアン」と呼ばれることもあるセイヨウカノコソウは不眠症に効く薬草として重宝されています。しかし、バレリアンが安眠の助けになるかどうかを決定づける研究結果はまだ得られていないそうです。

一方、カフェインレスの緑茶には睡眠の質を高めると報告があり、これは緑茶に含まれるテアニンというアミノ酸がリラックス効果をもたらすことが関係している可能性もあります。こうした研究から、メロー氏らは「寝る前にカフェイン入りの飲み物を飲まないようにするのは賢明な判断です。また、ハーブティーが好きな人が寝る前に飲むとリラックスにつながると思いますが、睡眠の質を改善する効果があると保証することはできません」とコメントしました。



◆アルコールはNG

アルコールが鎮静効果やリラックス効果により眠気を誘発するのは確かですが、眠りを浅くして睡眠の質を下げてしまうという悪影響もあります。そのため、ぐっすり眠りたい場合はアルコールを避けることをメロー氏らは推奨しました。

こうした知見から、メロー氏らは末尾で「睡眠にいいとされる食品の多くは確たる証拠がなく、イギリスやヨーロッパの法律で『睡眠に効果がある食品』と表示することが許可されているわけでもありません。もちろん、すでに快眠に役立つと感じているのであれば摂取するのをやめる必要はありませんが、寝る前に安静にしたりブルーライトを発する電子機器の使用を避けたりといった基本的な安眠対策をおろそかにしないようにしてください」と締めくくりました。