●メタバース空間へダイブせよ! Shiftall発のデバイスを試す

2022年のCESでおおいに盛り上がった話題のひとつが、デジタル空間の中でさまざまなエンターテインメントやサービスにのめり込める「メタバース」。日本から出展した企業の中では、特にパナソニックのグループ企業であるShiftall(以下、シフトール)のメタバース製品群が関心を集めていました。

メタバースに興味をお持ちのみなさま、こんにちは。


そこで今回、筆者はシフトールのオフィスを訪問して、同社が2022年春以降に発売を予定しているVRヘッドセット「MeganeX(メガーヌエックス)」など、“メタバース:四種の神器”をいち早く体験してきました。

なお、今回レポートする製品のスペックなどの詳細については、本誌ニュース記事もあわせてご覧ください。

シフトールの“メタバース:四種の神器”を装着して“完全体”になった筆者。(上から)MeganeX、mutalk、HaritoraXを着けており、写真には写っていないがPebble Feelが背中にある


○MeganeX:5.2K高画質映像空間を支配せよ!

まずはVRヘッドセットのMeganeXからレポートしましょう。MeganeXは1.3型のマイクロ有機ELディスプレイを左右に搭載し、両目で5.2K(2,560×2,560画素)解像度のリアルなメタバース空間を体験できるスマートグラスです。国内では2022年春に10万円未満で販売を予定しています。

高画質&快適な装着性能を実現したVRヘッドセット「MeganeX」(メガーヌエックス)


シフトールの広報担当者に確認したところ、やはりパナソニックが開発を進めるVRヘッドセットをベースにしているそうです。ちなみに、筆者はパナソニックが試作を進めていた2020年、京都の仁和寺・金堂の内部を3Dスキャンでデータ化した立体情報の上に、写真を合成した高精細なCG映像を視聴したことがあります。

MeganeXは、本体に付属する専用のインタフェース変換ボックス(USB Type-C/DisplayPort + USB 2.0搭載)を使って、ケーブルでゲーミングPCに接続。SteamVR対応のさまざまなゲームやアバターで参加するVRチャットなどのアプリケーションを楽しめます。

PCなど映像ソースを出力する機器との間はケーブルで接続。インラインにはコンテンツの再生や音量を操作するためのリモコンがある


リモコンには3.5mmヘッドホン端子を搭載。音声はMeganeX本体の内蔵スピーカー、または手持ちのヘッドホン/イヤホンで楽しめる


【期待を超えて軽く心地よいフィット感】

VRヘッドセットの開発で豊富な実績を持つアメリカのディスプレイメーカーKopinや、眼鏡メーカーと一緒に練り上げてきたという装着感が期待を超えて良好でした。

スペックに書かれているMeganeXの重さは約250g。ソニーのワイヤレスヘッドホン「WH-1000XM4」(約254g)と同程度ですが、筆者はもっと軽く感じました。遮光フードが左右の目の周囲にフィットして、さらに耳元あたりがテンプル(つる)で固定されるので、ディスプレイ部が前のめりに偏らないからでしょう。

ユーザーの視力に合わせた視度調整や、瞳孔間の距離調整にも対応します。筆者は左右の視力がともに0.1を下回りますが、メガネを外した状態で装着しても映像のフォーカスを合わせることができました。ただ個人差があるので、商品になった段階では事前に試す必要がありそうです。

※編注:なお、今回の取材に同行した編集者は山本氏よりも視力が悪く、さらに乱視もあって、裸眼ではフォーカスが合わなかった。著しく視力が低い人はコンタクトをつけたほうがいいかもしれない。

MeganeX本体裏側のレバーを左右に動かすと視度調整ができる


瞳孔間距離調整のダイアルは本体のトップに搭載


【映像ソースの出力機器とケーブルでつなぐ】

PCと接続するケーブルは右側テンプルの末端から延びています。端子の形状はUSB Type-Cで、MeganeXへの給電とコンテンツデータの送信は1本のケーブルで行います。DisplayPort Alternate Modeに対応しているので、同モードをサポートするスマートフォンやタブレットとも接続できるのでしょうか。シフトールでは「モバイル端末との接続は技術的には可能だが、今後の対応については反響を見ながら検討」する考えだといいます。

PCと接続するケーブルが1本だけで、しかも細身であることから、VRコンテンツの視聴時に、ケーブルの煩わしさにより没入感が削がれる心配はなさそうです。

ただ、MeganeXは非透過型のVRヘッドセットで、装着すると目の周辺はフードで完全に遮光されます。実風景を垣間見ることもできなくなるため、あらかじめ部屋を片付けて、ユーザーが安全に動き回れるようにルームスケール設定を入念に行う必要があります。

MeganeXは非透過型のVRヘッドセットなので、楽しむ際には安全に動き回れるルームスケール設定を入念に行う必要がある


テンプルの耳に近いところには下向きにスピーカーを配置。MeganeX単体で、VRコンテンツの映像と音が楽しめる


【リアルで目に優しいVR映像】

MeganeXが再現するVR映像の画質も、やはり期待を裏切ることなく高精細でした。色彩・輝度の均一性がとても高く、ドットの粗さが感じられません。有機ELディスプレイらしく暗部も引き締まっています。VRチャット内のオブジェクトは輪郭が活き活きと描かれ、鮮やかな立体感が得られました。

映像は十分に明るいうえ、液晶ディスプレイを採用したVRヘッドセットのようにギラつかないため、疲れる感じもありません。メタバース空間に長時間、心地よく没入し続けるためには「目に優しい映像」であることがとても大事なのだと実感しました。

【デバイスの存在を忘れさせてくれる快適さ】

VRヘッドセットはメタバース空間にダイブするために欠かせない基本装備でありながら、その存在を徹底してユーザーに感じさせないことが求められます。

MeganeXは、メタバースの世界の空気感にも触れられそうなリアルな映像と、ストレスフリーな装着感を実現したことにより、デバイスの存在感を見事に忘れさせてくれる心地よさを実現していました。HDRやリフレッシュレート120Hzに対応するVR映像の魅力が引き出せる余力も残しています。

頭脳にあたるチップセットには、クアルコムがVRデバイス向けに開発する高性能な「Snapdragon XR1プラットフォーム」を搭載しています。筆者はMeganeXが発売された後も、さまざまな楽しみ方ができるVRヘッドセットとして、アップデートを繰り返しながら進化を続けるのではないかと期待しています。画質の良さと発展性を加味すれば、10万円という予価も納得できるように思います。

MeganeXと、テスト用の市販コントローラーを使ってメタバース空間にダイブする筆者


●VR空間で暑さ/寒さを表現。音漏れ防止マイクも

○Pebble Feel:ついにメタバース空間の温度に触れた!

Pebble Feelは専用のホルダーを使って首元に着ける、ポケットサイズのウェアラブルデバイスです。SteamVRから配信されるVRコンテンツ内の暑さや寒さ、またはオブジェクトの冷たさや温かさを再現するため、ユーザーに触覚を付与するユニークな役割を果たします。

身に着けてVRコンテンツ内の冷温感を体験できる、ポケットサイズのウェアラブルデバイス「Pebble Feel」


【専用のホルダーで背中に身に着ける】

ユーザーの肌に触れる金属プレートを、急速に冷やしたり温めることで冷温感を伝えます。筆者が厚手の外着で取材にのぞんでしまったため、写真からは若干イメージしづらいかもしれませんが、Pebble Feelをポケットに入れたホルダーを背負いながら使います。

本体はバッテリー非搭載のため、ホルダーには別途、Pebble Feelの電源として使うモバイルバッテリーを収納するポケットがあります。バッテリーを内蔵しなかった理由について、シフトールの担当者は「長くメタバース空間に滞在している最中も、バッテリー切れのために没入感が損なわれないように配慮した」と説明しています。

専用のホルダーを使って本体が首元に直接触れるように装着。写真では服の上から着けているが、本来は服の下に装着する


【冷温感がすばやく切り替わる】

Pebble FeelをSteamVRのコンテンツと連動させるためのアドオンをPCにインストールしてから、Pebble FeelとBluetoothで接続して使います。Pebble Feelによる体感温度の設定は、既存のシェーダーを使って簡単にプログラミングできる仕組みも合わせて提供されるそうです。

本体裏側のメタルプレートが急速に冷えたり、温(ぬく)もることによってユーザーに冷温感を伝える


取材時点では連携を試せるコンテンツがそろっていなかったため、テスト用のモバイルアプリからPebble Feelを操作して冷温効果の強さを体験しました。冷感モードがMAXの状態でプレートに触れるとかなりの冷たさを感じます。そのまま温感モードに切り換えると、すばやくプレートが温まります。体感温度は使用する環境によっても変わりますが、室温25度の場合最低9度、最大42度の範囲で冷温感を伝えるそうです。

【コンテンツと連動する体験が魅力】

実際にSteamVRのコンテンツを体験したときに、Pebble Feelがどれぐらいリアルにメタバース空間内の冷温感を再現してくれるのか、ぜひ体験してみたくなりました。

筆者は首元だけでなく、手元でメタバース空間に触れたときの冷温感が再現できるデバイスがあってもよいと思いました。VR空間内のオブジェクトの質感を触感フィードバックによって再現できるデバイスと、Pebble Feelのような冷温感を再現するデバイスのコンセプトが融合すると、さらに面白くなりそうです。

○mutalk:静かなる声に美しき精神が宿る!

もうひとつのmutalkは、一見すると小型のVRヘッドセットのようにも見えますが、その正体は静音性能を高めたワイヤレスBluetoothマイクです。メタバースやオンラインゲームを楽しむときに、ボイスチャットの会話が周囲に漏れないように口元を覆いながら使います。

Bluetooth接続の防音ワイヤレスマイク「mutalk」


【装着・接続設定はとても簡単】

装着方法はmutalkを口元にあてながら、マジックテープで長さを調節できるバンドで頭の後ろ側に固定します。鼻まで覆い隠す必要はありません。

PCとの接続はBluetooth。スマホなどモバイルデバイスとの接続もできますが、外部ワイヤレスマイクとして使うことに関しては現在検討中だそうです。

mutalkも、MeganeXなどのVRヘッドセットと組み合わせて、おもにSteamVRプラットフォームのVRチャットといったコンテンツを楽しむ用途を想定しています。そのため、mutalkの側にボリューム設定のボタンがありません。出力音声のボリュームはPC側で操作します。

頭部の後ろ側にマジックテープで長さを調節できるバンドを回して固定する


mutalkの充電端子はUSB Type-C


【確かに、声が漏れ聞こえない】

mutalkはBluetoothマイクですが、電気的な処理は一切行わず、アナログ的に口のまわりに“戸を立てる”消音装置でもあります。金管楽器を演奏したことがある方々には、トランペットやトロンボーンの音の出口に装着する楽器「ミュート」の使用感に近いと表現すれば伝わりやすいでしょうか。

装着して話す人の声は、確かに周りに漏れにくくなります。今回は静かなオフィスで試させてもらったため、大きな声を張り上げれば装着した状態でも会話できました。

mutalkを装着。鼻が外に出ているので息苦しくはない


MeganeXも同時に装着。コンテンツを再生しなくても、何かに没入している手応えがみるみるうちに高まる


mutalkを装着すると口元の動きが少し制限されます。マイクを通してヘッドホンで確認したmutalkによる音声にも影響が出るためか、ややこもりがちに聞こえました。

筆者は顔がデカいくせにパーツ単位で見ると口は小さいので、mutalkを装着して普通に話すことができましたが、口の大きさ、顔の形によってはmutalkが小さすぎると感じる人もいるかもしれません。mutalkと口の間に挟んでフィット感を調整する、柔らかい素材のアジャスターなどがあれば、万人に使いやすいミュート機能付きワイヤレスマイクになると思います。

●快適なメタバース体験はすぐそこに

○HaritoraX:動く、アバターの両脚が動くぞ!

HaritoraX(ハリトラックス)については、既に販売開始しているデバイスなので詳細な説明は割愛します。別途赤外線センサーなどを使わずに、脚と腰に装着したセンサーで動きをモーショントラッキングするデバイスです。シフトールのWebサイトでの直販価格は27,900円です。

HaritoraXを装着したところ。胸部にメインユニット、両脚のひざの上、足首の上にセンサーユニットを装着して、それぞれをEthernetケーブルでつないでいる。電源はメインユニットのバッテリーパックから供給する


VRヘッドセットと両手に持つコントローラーだけでは、アバターの頭と手の動きしか再現できません。HaritoraXを装着すると、VRヘッドセットとコントローラーを組み合わせて、メタバース空間の中で全身を動かせるようになります。バッテリーは胸部に装着するメインユニットに内蔵しており、各センサーユニット同士はEthernetケーブルで接続します。PCとの間はBluetoothによってワイヤレスでつながるため、動きが制限されることもなく、思う存分に体を動かせます。

HaritoraX、VRヘッドセット、コントローラーを装着すると、メタバース空間の中で全身を動かせる


VRチャットでHaritoraXを体験しました。ワイヤレス伝送によるレスポンスの遅延もなく、キャラクターの動きにすばやく反映されます。安全に使える環境を整えれば、メタバース空間の中で気持ちよく暴れ回ることができそうです。

左の画面のアバター(赤丸で囲ったところ)の足のポーズに注目。筆者のポージングに合わせて足の向きが変わっている


上半身だけでは表現できないポージングも、ご覧の通りVR空間内で再現されている


○リアルなメタバース体験の実現へ、カギを握るのは「クオリティ」の進化

今回、筆者はシフトールが開発する“四種の神器”を体験してみて、近い将来にメタバース空間の中で、違和感なく快適に過ごせる日がやってくる可能性を強く実感しました。

MeganeXの画質であったり、HaritoraXの低遅延レスポンスなど、人をつなぐインタフェースとなるデバイスにも「クオリティにこだわる目線」がとても重要であることもよくわかりました。Pebble Feelのように、人間の触覚に冷温感を伝えるデバイスも、これからますます多様化してくるでしょう。

今の時世ではなかなか難しいかもしれませんが、シフトールには可能な限り、多くの人が“四種の神器”を試せる場所と機会を実現してほしいと思います。