一度目の離婚で結婚に関心をなくした女性が、再び結婚するに至った理由とは?(イラスト:堀江篤史)

あれも欲しいこれも欲しいと思っていると何も手に入らなかったりする。ただでさえ低い自分の集中力が散漫になってしまうからだろう。二兎を追う者は一兎をも得ず。40代半ばになってようやく実感しつつある人生訓だ。

30歳で一度目の結婚をするものの、離婚を経験。反省し、再び結婚することはあきらめ、「好みの顔の男性と付き合う」ことだけに集中したら、理想以上の相手との結婚と子どもを手に入れた女性がいる。東京都内の金融機関に勤務している山崎奈月さん(仮名、40歳)だ。

前夫とは価値観も性格も違っていた

棚からぼた餅を体現した奈月さん自身は、女優の栗山千明と前田敦子を足して2で割って素人にしたような濃いめの顔立ち。そんな自分の顔も「グータラ」な性格も嫌いで、切れ長の目で涼しげな顔をしている男性がとにかく好きだと断言する。


この連載の一覧はこちら

「誰と付き合っても価値観などは自分と違います。だったら、せめて好みの顔の人と付き合いたいと思っていました」

しかし、人生は思いどおりにはいかない。前の夫の幸太郎さん(仮名)は濃い顔だった。そして、「世の中にはこんなに自分と価値観も性格も違う人がいるんだ」ということだけ学んだ5年間だったと奈月さんは振り返る。

「彼は友だちと飲んでいたときに紹介された同い年の会社員でした。ちょうどその頃、ほかの友だちが彼氏と別れたんです。てっきり結婚するカップルだと思っていたので意外でした。結婚は1人ではできないし、タイミングも大事だなと感じたのを覚えています」

他人事のように淡々と語る奈月さん。「仕事が落ち着いていたから」「ちょうど30歳を迎える頃だったから」と結婚理由を述べるが、いちばん重要な「自分の気持ち」が抜け落ちていたのかもしれない。

前夫とは生活習慣などがことごとく異なり、しかも彼は譲り合ったり折り合いをつけたりという発想が抜けていた。例えば、片付けのタイミング。散らかしたモノは早めに片づけたい奈月さんと「手が空いたときにやればいい」という前夫。結局は奈月さんが不満顔で手を動かすことになり、口げんかになることもあった。

「相違点が見つかるたびに、『もう無理だ。別れよう』と言われていました。そうすれば私が折れることがわかっていたからだと思います。本気で別れるつもりではなかったようです」

お互いがいちばんの味方である夫婦の間でもやってはいけないことがある。その1つが、離婚を匂わせることを交渉手段に使うこと。相手に恐怖や屈辱を与えるだけでなく、「その道もあるのか」と具体的に想像させてしまうからだ。

「私なりに妥協点を見出そうと努力をしていました。でも、別れようと何度も言われ続けて疲れてしまったのだと思います。ある日、『そうね。別れようか』と返事をしました」

不仲だったため子どもをもつことには慎重に

前夫との間には子どもを意識的に作らなかった。友だちの子育てをうらやましく思いつつ、その大変さも目の当たりにしていたことが理由だ。

「自分1人ではとても無理です。信頼できる結婚相手とじゃないと私には子育てはできないと思いました。結婚だけならば失敗しても大人2人がつらい思いをするだけですが、子どもを(夫婦不仲の)犠牲にしたくありません。だから、慎重になっていました」

34歳で離婚をした後は、「飲み会に誘ってもらったら参加する」程度で婚活はしなかった。夫婦喧嘩をしている時期が長い結婚生活を体験したので、また結婚したいという気持ちが薄かったからだ。

ただし、奈月さんは淡々としながらも的確な「返し」ができる美人である。飲みの席で目を引かないはずはない。1歳下の哲也さん(仮名)と出会うまでにも3人ほどと付き合ったらしい。一回り年下の男性もいたが、いずれも長続きはしなかった。

「付き合っても、テンションが違うなと思うことが続いたら別れていました。とくに、『男の人がいる飲み会には行くな』的な束縛をされると嫌になってしまいます。恋人がいても知り合いは増やしたいと思うからです」

離婚歴がある自分からアプローチすることはほとんどなかったという奈月さんだが、いろんな人と知り合う中で「とにかく顔が好き」だとほれ込んだ男性がいた。それが俳優の森山未來似だと奈月さんは思っている哲也さんだ。

「毎日でも顔が見たかったので、しつこく連絡して週に2回は会ってもらっていました。あまりに高頻度で会っているので、『これって付き合っているということだよね?』と聞いてみたのです」

スイッチが入ると積極的な女性である。しかし、哲也さんの答えは「まだだよ」とそっけないものだった。後からわかったことだが、奈月さんと同じく金融業界にいる哲也さんは「ノリ」で女性と付き合うことはしないタイプなのだ。もちろん、付き合う前に肉体関係などはもたない。

「何カ月もかけてちょっとずつ相手のことを知っていきたいのだそうです。私のように女性から熱烈に誘っても同じで、慎重に検討しているうちに相手の女性に『真剣に考えてくれないならいい』と切り捨てられてしまうのでしょう」

再び同じ問いをしてみると

再婚の願望は薄く、哲也さんの顔を眺めているだけでうれしい奈月さんはめげなかった。また同じペースで会い続け、出会いから1カ月ほど経過したときに再び問いを投げかけた。

「さすがにさ、もう付き合っているよね」

哲也さんは今度は「そうだね」とあっさり答えた。それまでに10回以上もデートしており、手をつなぐ程度の淡い関係だったらしい。じらせるにもほどがある。

結婚するまでの時間も同棲を含めて2年ほどかかったが、生活のパートナーとしての哲也さんは想定外に素晴らしい男性であることが判明した。婚約中に妊娠する前から家事は「9:1」の割合で哲也さんがやってくれているらしい。

「子どもが生まれてからは、お風呂に入れたりおむつを替えたりすることもまめにやってくれます。私には家庭にこもらずに外の世界で働いて刺激を受けてキレイでいてほしいそうです。その時間を作るためには家事は僕がやる、と言ってくれています」

ちなみに生活費は年収1千万円ほどの哲也さんが出し、年収600万円強もある奈月さんの収入はすべて貯金に回している。「どうせ共有財産なので支出を分担するのは面倒」という哲也さんの意見による。

現代のエリート男性の中には哲也さんのようなタイプが少数ながら存在する。好奇心や向上心が強く、合理的な頭脳もあるため、精神的にも経済的にも余裕があるほうが女性は美しく優しくなれることを知っているのだ。もちろん、束縛などはせず、外の世界と自由に触れることでパートナーがさらに賢くキレイになることを望んでいる。

「結婚することが幸せだとは思っていませんが、私は彼と結婚してよかったです。私の話を楽しそうに聞いてくれるのがうれしいし、否定はしないけれど客観的な意見もくれます。仕事上の相談もしてくれるので信頼されているのでしょう。何かを決めるときは必ず私の意見も聞いてくれるし、私の親のことも気遣ってくれる人です」

異なる角度からの情報や意見を楽しんでくれる

働く女性にとって最高の結婚相手のようだが、そう単純なものではないと筆者は思う。このタイプは相手にも同じレベルを求めることがあるからだ。しかも、自分とまったく同じでは意味がなく、異なる角度から情報や意見を提供してほしいと無意識のうちに思っている。その証拠に、哲也さんは奈月さんの好きなところは「自分では選ばないような店や場所を選ぶところ」だと明言しているという。

「ディズニーランドなど、男性だけでは行かないような場所に誘うと喜びます。前の夫は『なんでそんなところに行きたいの?』と怒ってしまうような人でした」

違いを楽しんでくれること。それが哲也さんを恋人だけではなく再婚相手として選んだ理由の1つだと奈月さんは語る。自立心が強い人でなければ言えないセリフだと思う。相違点を強調する2人だが、結局は似たもの夫婦なのだ。