患者に選ばれる歯科医院と離れていく歯科医院 その違いとは?
今や、コンビニエンスストアを1万軒以上も上回るといわれるのが、歯科診療所の数だ。その一方で、患者数は年々減少し、競争が激化しているといわれる。
そんな歯科業界の中で、25の歯科医院を開業、分院展開している医療法人社団佑健会理事長の河野恭佑氏は、著書『歯科医院革命〜大廃業時代の勝ち残り戦略〜』(幻冬舎刊)で、勝ち残るための戦略を提示する。
「攻め」とも言える戦略を展開する河野氏に、歯科業界の「今」と「これから」についてお話を聞いた。
(新刊JP編集部)
■患者に選ばれる歯科医院、患者が離れている歯科医院 その違いは?
――まずは本書を執筆された経緯から教えてください。
河野:一つは私が経営する法人(医療法人社団佑健会)が10年の節目を迎え、これまで取り組んできたことを一冊の本にまとめたいという思いがありました。
また、タイトルにもあるように、これから歯科医院業界は淘汰の時代に入ります。その中で新たに大きな展開をしていこうという一つの決意表明としてもまとめておきたかったというのがありますね。
――本書は歯科医院のマーケティング戦略について書かれた本ですが、歯科業界が直面している課題についてはどのように考えられていますか?
河野:歯科業界って実はすごく小さい業界なんですよ。医科業界とは違って、大きな組織もなければ、有名な先生もいません。歯科医院1軒の平均売上も5000万円に満たない程度です。
一方で歯科業界外からの参入もあるのですが、そこもしっかりまとまっているわけではありません。歯科医師の中で誰かがリーダーシップをとって業界全体を盛り上げるということもできていません。
そこは自分でも(歯科業界が)特殊な業界だと思う理由の一つです。だから、自分自身がこれから歯科業界の中で新たな取り組みを仕掛けたり、仕組み作りができるように働きかけていきたいと考えています。
――サブタイトルに「大廃業時代」と書かれていますが、歯科業界も大きな変化の中にあるということでしょうか。
河野:先ほど言った淘汰の時代ですよね。年間約1600医院が廃業していて、今後は後継者がいないという理由で閉院する歯医者が増えるはずです。
その一方で別の変化もあります。たとえば、予防歯科への注目が高まっていて、予防目的に歯科医院に来院する方が増えています。今起きているのはそういった変化です。
――この変化はポジティブなものなのでしょうか。
河野:私自身は、今後歯科業界は縮小に向かうと思っています。コロナ禍で閉院した歯科医院もありました。力のある歯科医師であったり、先生方が踏ん張ったとはいえ、やはり休業を余儀なくされた歯科医院も多かったです。
ただ、その中でも堅実に経営を続けられている法人や医院もあって、そういったところはやはりシビアに物事を考えて取り組んでいらっしゃるんですよね。華やかではないけれど堅実にやってきたところと、そうではないところの差がコロナ禍で明らかになったように思います。それは業界的には「正しい道しるべ」になったように思うんですね。
――河野さんご自身は多角的に歯科医院を展開されていますが、業界の中では珍しいことなんですか?
河野:自分の中ではこの戦略が当たり前だと考えていましたが、こうして本を出してみると、「時代が変わってきている」というような感想をいただいたりもして、もしかしたら新しい動きの一つと捉えられているのかもしれません。
ただ、多角的な展開をしているとはいえ、やはり医療ですから、平均よりも高い水準のサービスを提供しないといけないと思っていますし、その中で、ある種の高級感がある、ここならば間違いないという、カフェ業界におけるスターバックスのようなポジションに行ければと考えています。
――歯科業界の中のスタンダードな存在になるというイメージでしょうか?
河野:そうですね。そこでいろんな治療ができるし、全国展開をしていてどこにでもある。スターバックスのようなポジションまで行くのはすごく大変なんですが、気軽に行ける敷居の低い歯科医院を展開できたらと思っています。
――2011年に河野歯科医院院長になられてから10年。これまでの医院経営を振り返って、今取られている戦略の良かった点、悪かった点を教えていただけますか?
河野:悪かった点は自分の中ではないと思っています。ただ、一時期、勢いだけで医院を増やすような展開をしていたときがありました。それは自分の感覚とも反するところだったので、これから先は自分の感覚を信じて、ここだったら絶対に間違いないというところで展開していこうと思っています。
一方で良かった点は「人」ですね。私は何をやっても「人」が一番大事だと思っていて、スタッフや協力してくれる人、患者さん…良い人たちに出会い、彼らを信じてやってきたことが一番の財産だと思っています。
――患者に選ばれる歯科医院と、患者が離れていく歯科医院、その違いはどこに表れてくると思いますか?
河野:私たち歯科医師は先生と呼ばれたり、治療をして「ありがとう」と言われることが多いんですけど、それを当然だと思っている人もいると思います。でも、実際はそうではありません。私たちは患者さんからお金をもらっていて、その対価以上のサービスを提供しないといけないと思います。
私はよくスタッフに「誰からお給料をもらっているのか」という話をします。それは患者さんですよね。だからこそ、歯科医院がこれだけ多い中で、自分たちの医院を選んできてくれる患者さんに対して、どれだけのパフォーマンスが出せるのかというところが大事になってくると思います。
今後、患者さんに選ばれる歯科医院になれるかどうかは、患者さんに対してどれだけ親身になって真心を持って接することができるかどうかです。それができる医院には患者さんが集まるでしょう。逆に離れていく医院は、やはりどこかで患者本位になれていない。治療も自分がいいと思うものを押し付けている傾向にあると、患者さんは離れていくと思います。
(後編に続く)
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「攻め」とも言える戦略を展開する河野氏に、歯科業界の「今」と「これから」についてお話を聞いた。
■患者に選ばれる歯科医院、患者が離れている歯科医院 その違いは?
――まずは本書を執筆された経緯から教えてください。
河野:一つは私が経営する法人(医療法人社団佑健会)が10年の節目を迎え、これまで取り組んできたことを一冊の本にまとめたいという思いがありました。
また、タイトルにもあるように、これから歯科医院業界は淘汰の時代に入ります。その中で新たに大きな展開をしていこうという一つの決意表明としてもまとめておきたかったというのがありますね。
――本書は歯科医院のマーケティング戦略について書かれた本ですが、歯科業界が直面している課題についてはどのように考えられていますか?
河野:歯科業界って実はすごく小さい業界なんですよ。医科業界とは違って、大きな組織もなければ、有名な先生もいません。歯科医院1軒の平均売上も5000万円に満たない程度です。
一方で歯科業界外からの参入もあるのですが、そこもしっかりまとまっているわけではありません。歯科医師の中で誰かがリーダーシップをとって業界全体を盛り上げるということもできていません。
そこは自分でも(歯科業界が)特殊な業界だと思う理由の一つです。だから、自分自身がこれから歯科業界の中で新たな取り組みを仕掛けたり、仕組み作りができるように働きかけていきたいと考えています。
――サブタイトルに「大廃業時代」と書かれていますが、歯科業界も大きな変化の中にあるということでしょうか。
河野:先ほど言った淘汰の時代ですよね。年間約1600医院が廃業していて、今後は後継者がいないという理由で閉院する歯医者が増えるはずです。
その一方で別の変化もあります。たとえば、予防歯科への注目が高まっていて、予防目的に歯科医院に来院する方が増えています。今起きているのはそういった変化です。
――この変化はポジティブなものなのでしょうか。
河野:私自身は、今後歯科業界は縮小に向かうと思っています。コロナ禍で閉院した歯科医院もありました。力のある歯科医師であったり、先生方が踏ん張ったとはいえ、やはり休業を余儀なくされた歯科医院も多かったです。
ただ、その中でも堅実に経営を続けられている法人や医院もあって、そういったところはやはりシビアに物事を考えて取り組んでいらっしゃるんですよね。華やかではないけれど堅実にやってきたところと、そうではないところの差がコロナ禍で明らかになったように思います。それは業界的には「正しい道しるべ」になったように思うんですね。
――河野さんご自身は多角的に歯科医院を展開されていますが、業界の中では珍しいことなんですか?
河野:自分の中ではこの戦略が当たり前だと考えていましたが、こうして本を出してみると、「時代が変わってきている」というような感想をいただいたりもして、もしかしたら新しい動きの一つと捉えられているのかもしれません。
ただ、多角的な展開をしているとはいえ、やはり医療ですから、平均よりも高い水準のサービスを提供しないといけないと思っていますし、その中で、ある種の高級感がある、ここならば間違いないという、カフェ業界におけるスターバックスのようなポジションに行ければと考えています。
――歯科業界の中のスタンダードな存在になるというイメージでしょうか?
河野:そうですね。そこでいろんな治療ができるし、全国展開をしていてどこにでもある。スターバックスのようなポジションまで行くのはすごく大変なんですが、気軽に行ける敷居の低い歯科医院を展開できたらと思っています。
――2011年に河野歯科医院院長になられてから10年。これまでの医院経営を振り返って、今取られている戦略の良かった点、悪かった点を教えていただけますか?
河野:悪かった点は自分の中ではないと思っています。ただ、一時期、勢いだけで医院を増やすような展開をしていたときがありました。それは自分の感覚とも反するところだったので、これから先は自分の感覚を信じて、ここだったら絶対に間違いないというところで展開していこうと思っています。
一方で良かった点は「人」ですね。私は何をやっても「人」が一番大事だと思っていて、スタッフや協力してくれる人、患者さん…良い人たちに出会い、彼らを信じてやってきたことが一番の財産だと思っています。
――患者に選ばれる歯科医院と、患者が離れていく歯科医院、その違いはどこに表れてくると思いますか?
河野:私たち歯科医師は先生と呼ばれたり、治療をして「ありがとう」と言われることが多いんですけど、それを当然だと思っている人もいると思います。でも、実際はそうではありません。私たちは患者さんからお金をもらっていて、その対価以上のサービスを提供しないといけないと思います。
私はよくスタッフに「誰からお給料をもらっているのか」という話をします。それは患者さんですよね。だからこそ、歯科医院がこれだけ多い中で、自分たちの医院を選んできてくれる患者さんに対して、どれだけのパフォーマンスが出せるのかというところが大事になってくると思います。
今後、患者さんに選ばれる歯科医院になれるかどうかは、患者さんに対してどれだけ親身になって真心を持って接することができるかどうかです。それができる医院には患者さんが集まるでしょう。逆に離れていく医院は、やはりどこかで患者本位になれていない。治療も自分がいいと思うものを押し付けている傾向にあると、患者さんは離れていくと思います。
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