犬用ケーキでお祝いを。7歳のパーティーの風景<inubot回覧板>
ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている@inu_10kg
。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。
第35回は、犬の7回目の誕生日について。
2021年5月6日夜
風船をくわえて息を吹き込めば、膨らむってわかっていても背筋に緊張が走る。最後に風船を膨らませたのなんていくつかも思い出せないが、そういえば子どものときから風船を膨らませるのも、空気口を結ぶのも好きじゃなかった。
息を吹き込み、やめて、を繰り返していたら、だんだんなにやってるんだと侘しくなってきた。すると遠くからトットット! と小走りで「なんやこれ!」とでも言うように風船めがけてやってくる。
私の口元で揺れる風船に迷わず鼻を寄せ、フンフンフンと好奇心から鼻息を荒げる。風船の中には星型の金紙が散りばめられていて、至近距離で見ていたら犬の瞳に星が映える。なんだか犬の瞳が小宇宙のようで見惚れるも、犬が風船に向かってヌゥっと口を開いたので、慌てて距離を取った。
ビニール風船にストローを差し込み膨らませると、ペラい紙からきちんと形になっていくのがおもしろかった。割れそうな恐怖心もなくて、お手軽で、見目よく気持ちも高まり、ビニール風船がこんなにいい代物だと初めて知った。パーティーで重宝されるのも納得である。
あとは注文しておいた犬用のケーキも届いて、こちとら準備万端だ。ねえ犬、明日がなんの日かわかってる?
2021年5月7日
律儀な友人からLINEが届く。
「犬ちゃん誕生日おめでとう! もう7歳か〜! ほんまに人の子は育つのが早い」というメッセージに犬の写真を使ったバースデー画像が添えられていた。そう、本日20201年5月7日は犬の7回目の誕生日なのだ。牡牛座の犬です。私は星座占いを読むときに、自分の山羊座のあとに自然と牡牛座もチェックするようになった。
普段とそんなに変わらない気もするが、今日一日は犬を存分に甘やかして、楽しいって感じてもらえたらいい。
朝の散歩ではいつものミカン畑に行ってきた。柵の中でだが、伸び伸びと駆けまわる犬の体躯はたくましくて、いつまでもベイビーだと思っていたがやはりもう立派な成犬よなぁとしみじみ思う。健やかな成長は本当に本当にうれしいが、…どこか切なさのようななにかも込み上げてきて、そんなうれしい一心ではない己も嫌で、胸がヒリヒリと痛んだ。
昨夜冷凍状態で届いたケーキを冷蔵庫で解凍したら、ほどよい塩梅で溶けていた。ホールケーキひとつまるまる犬のだよ。
…とはいえホールケーキひとつは食べすぎだろうし、少しだけ私にもください。
今回ご用意したのは犬も人間も一緒に食べれるケーキである。コロナ禍だからネットショッピングで注文したのだが、大事な買い物なのでそれはまぁ時間がかかった。いくつもの通販サイトでお店を巡り、写真を凝視しレビューを見、それを連日繰り返した結果、全サイトのおすすめが犬のケーキ、風船、ケーキ、風船とパリピの愛犬家と化した。
ケーキは犬用のため甘さは控えめで、それが食べやすかった。きめ細かいホイップは口溶けがよくて、なによりスポンジがおいしかった。スポンジがおいしいケーキはいい。犬もおいしそうに頬張っていたので、めっちゃ時間かかったけどよかった。
勢いよく食べると戻してはいけないので、母が一口ずつあげて、せつくでもなく口をあけて待っている犬は、毎年家に巣づくりをするツバメの親鳥と雛鳥のように見えた。
口に運ばれてくるのを覗き込んで待っている
昨夜せっせと飾りつけた部屋に入れば、犬はやはり一目散に風船に興味を示した。そうなると思ったから立ち上がっても届かない位置にセットしておいた。
毎日写真を撮っているが、年に一度はきちんとストロボを焚いて(もちろん直射は駄目!)きちんとした肖像写真を撮っておきたい。犬が喜ぶとかではないけど、私のためです。時間は流れるものだから、たまにきちんと留めておきたくなる。
ほんの数分だけ母にも手伝ってもらって撮影をして、のんびりお昼寝をして、夕方の散歩は芝生がある広場に向かった。
今日一日、犬は楽しく過ごせただろうか。犬には際限なくなんでもしたいと思うが、犬から与えてもらってるものが莫大で、それに対したら0.1%も返せてない気がする。不安になっていたら、突然ズシっと足が重くなった。犬が両手でしがみついていたのだ。家で母が捕まっているのはよく見るが、こんな散歩先で私に珍しくてびっくりした。上からでは犬の頭と耳しか見えないが、どんな表情をしているのか覗いてみる…。
今朝の発言を撤回せにゃならん、犬はいくつになってもベイビーだ。
翌朝、昨日の残りのケーキをふたりでいただきます。解凍から一日たっていたが、イチゴもすごくおいしかった。7歳のお誕生日、本当におめでとうございます。生まれてきてくれてありがとう。
おまけ話のような余談だが、先日仕事から帰ってきたら犬と母が散歩に行っていて家の中はがらんどうだった。普段私が犬に出迎えられているが、この日は反対に私が犬をお帰りを言おうと思って、家の前で待っていた。ほどなくして道の向こうからふたりの姿が見えて犬と目が合った、それは犬の目にも私が映ったということ。
途端に犬は母の手を引っぱって、私の方に向かって走り出したのだ!! 引っぱられる母は大変そうだったが、犬はキラキラと光るエフェクトをまとっているように眩しかった。
朝から8時間くらい離れていただけなのに。そのときふいに「あ、犬に背くことはしない」と心の中で誓いを立てた。なんだかすごく自然に、明日仕事帰りに本屋寄ろうくらいの感覚で、誓った。
「犬に背くことはしない」有り体に言えば犬より先に死なないってだけだけど。こんなにも全幅の信頼を置いてくれる犬がいるのだから、それは自分に課そう。
おかえり
この連載が本『inubot回覧板』
(扶桑社刊)になりました。第1回〜12回までの連載に加え、書籍オリジナルのコラムや写真も多数掲載。ぜひご覧ください。
1991年和歌山生まれ。バンタンデザイン研究所大阪校フォトグラファー専攻卒業。「一枚皮だからな、我々は。」で、塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞。愛犬の写真を投稿するアカウント@inu_10kg
を運営
。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。
第35回は、犬の7回目の誕生日について。
お誕生日おめでとう。でも、君はいくつになってもベイビーだ
2021年5月6日夜
風船をくわえて息を吹き込めば、膨らむってわかっていても背筋に緊張が走る。最後に風船を膨らませたのなんていくつかも思い出せないが、そういえば子どものときから風船を膨らませるのも、空気口を結ぶのも好きじゃなかった。
息を吹き込み、やめて、を繰り返していたら、だんだんなにやってるんだと侘しくなってきた。すると遠くからトットット! と小走りで「なんやこれ!」とでも言うように風船めがけてやってくる。
私の口元で揺れる風船に迷わず鼻を寄せ、フンフンフンと好奇心から鼻息を荒げる。風船の中には星型の金紙が散りばめられていて、至近距離で見ていたら犬の瞳に星が映える。なんだか犬の瞳が小宇宙のようで見惚れるも、犬が風船に向かってヌゥっと口を開いたので、慌てて距離を取った。
ビニール風船にストローを差し込み膨らませると、ペラい紙からきちんと形になっていくのがおもしろかった。割れそうな恐怖心もなくて、お手軽で、見目よく気持ちも高まり、ビニール風船がこんなにいい代物だと初めて知った。パーティーで重宝されるのも納得である。
あとは注文しておいた犬用のケーキも届いて、こちとら準備万端だ。ねえ犬、明日がなんの日かわかってる?
2021年5月7日
律儀な友人からLINEが届く。
「犬ちゃん誕生日おめでとう! もう7歳か〜! ほんまに人の子は育つのが早い」というメッセージに犬の写真を使ったバースデー画像が添えられていた。そう、本日20201年5月7日は犬の7回目の誕生日なのだ。牡牛座の犬です。私は星座占いを読むときに、自分の山羊座のあとに自然と牡牛座もチェックするようになった。
普段とそんなに変わらない気もするが、今日一日は犬を存分に甘やかして、楽しいって感じてもらえたらいい。
朝の散歩ではいつものミカン畑に行ってきた。柵の中でだが、伸び伸びと駆けまわる犬の体躯はたくましくて、いつまでもベイビーだと思っていたがやはりもう立派な成犬よなぁとしみじみ思う。健やかな成長は本当に本当にうれしいが、…どこか切なさのようななにかも込み上げてきて、そんなうれしい一心ではない己も嫌で、胸がヒリヒリと痛んだ。
昨夜冷凍状態で届いたケーキを冷蔵庫で解凍したら、ほどよい塩梅で溶けていた。ホールケーキひとつまるまる犬のだよ。
…とはいえホールケーキひとつは食べすぎだろうし、少しだけ私にもください。
今回ご用意したのは犬も人間も一緒に食べれるケーキである。コロナ禍だからネットショッピングで注文したのだが、大事な買い物なのでそれはまぁ時間がかかった。いくつもの通販サイトでお店を巡り、写真を凝視しレビューを見、それを連日繰り返した結果、全サイトのおすすめが犬のケーキ、風船、ケーキ、風船とパリピの愛犬家と化した。
ケーキは犬用のため甘さは控えめで、それが食べやすかった。きめ細かいホイップは口溶けがよくて、なによりスポンジがおいしかった。スポンジがおいしいケーキはいい。犬もおいしそうに頬張っていたので、めっちゃ時間かかったけどよかった。
勢いよく食べると戻してはいけないので、母が一口ずつあげて、せつくでもなく口をあけて待っている犬は、毎年家に巣づくりをするツバメの親鳥と雛鳥のように見えた。
口に運ばれてくるのを覗き込んで待っている
昨夜せっせと飾りつけた部屋に入れば、犬はやはり一目散に風船に興味を示した。そうなると思ったから立ち上がっても届かない位置にセットしておいた。
毎日写真を撮っているが、年に一度はきちんとストロボを焚いて(もちろん直射は駄目!)きちんとした肖像写真を撮っておきたい。犬が喜ぶとかではないけど、私のためです。時間は流れるものだから、たまにきちんと留めておきたくなる。
ほんの数分だけ母にも手伝ってもらって撮影をして、のんびりお昼寝をして、夕方の散歩は芝生がある広場に向かった。
今日一日、犬は楽しく過ごせただろうか。犬には際限なくなんでもしたいと思うが、犬から与えてもらってるものが莫大で、それに対したら0.1%も返せてない気がする。不安になっていたら、突然ズシっと足が重くなった。犬が両手でしがみついていたのだ。家で母が捕まっているのはよく見るが、こんな散歩先で私に珍しくてびっくりした。上からでは犬の頭と耳しか見えないが、どんな表情をしているのか覗いてみる…。
今朝の発言を撤回せにゃならん、犬はいくつになってもベイビーだ。
翌朝、昨日の残りのケーキをふたりでいただきます。解凍から一日たっていたが、イチゴもすごくおいしかった。7歳のお誕生日、本当におめでとうございます。生まれてきてくれてありがとう。
おまけ話のような余談だが、先日仕事から帰ってきたら犬と母が散歩に行っていて家の中はがらんどうだった。普段私が犬に出迎えられているが、この日は反対に私が犬をお帰りを言おうと思って、家の前で待っていた。ほどなくして道の向こうからふたりの姿が見えて犬と目が合った、それは犬の目にも私が映ったということ。
途端に犬は母の手を引っぱって、私の方に向かって走り出したのだ!! 引っぱられる母は大変そうだったが、犬はキラキラと光るエフェクトをまとっているように眩しかった。
朝から8時間くらい離れていただけなのに。そのときふいに「あ、犬に背くことはしない」と心の中で誓いを立てた。なんだかすごく自然に、明日仕事帰りに本屋寄ろうくらいの感覚で、誓った。
「犬に背くことはしない」有り体に言えば犬より先に死なないってだけだけど。こんなにも全幅の信頼を置いてくれる犬がいるのだから、それは自分に課そう。
おかえり
この連載が本『inubot回覧板』
(扶桑社刊)になりました。第1回〜12回までの連載に加え、書籍オリジナルのコラムや写真も多数掲載。ぜひご覧ください。
【写真・文/北田瑞絵】
1991年和歌山生まれ。バンタンデザイン研究所大阪校フォトグラファー専攻卒業。「一枚皮だからな、我々は。」で、塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞。愛犬の写真を投稿するアカウント@inu_10kg
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