74歳、月7万円のひとり暮らし。それ以外の生活費はすべて献金している理由
老後にいつかひとり暮らしになるかもしれない…。いつかはそうなるかもと考えるのではないでしょうか?
昨今注目されているシニアの暮らし。なかでも話題を呼んでいる本が『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる
』(すばる舎刊)です。その気になる内容についてご紹介していきます。
ミツコさんのご自宅の玄関には写真コーナーを。夫が元気だったころ、家族が集まったときに撮影した集合写真など、たくさんの思い出が飾られています
昨年秋に発売された一冊の本が、静かに話題を呼んでいます。キリスト教の牧師でもある、ミツコさん(74歳)の、明るく心豊かなひとり暮らしを綴ったエッセイ、『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる
』がそれです。
ミツコさんとはいったいどんな方なのでしょうか?
ミツコさんは戦争直後の1946年、牧師の家庭に生まれました。8人きょうだいの5番目。家族のほかにも信者の人たちが出入りする家で、大勢に囲まれて育ったと言います。
「貧乏には慣れています」
著書でそう言いきるミツコさん。お父さまはどんなにお金に困っていても「うちよりもっと困っている人に分け与える」という方だったようで、その精神はミツコさんにも受け継がれています。
高校卒業後神学校に入り、卒業と同時に牧師の夫と結婚。
4人の子どもを育てながら、教会学校の教師をしたり、日曜礼拝後、教会員20人ほどの昼食をつくるなど、『牧師の妻』として教会の裏方仕事に奔走します。
多忙な日々を送るうち、まだ40代の夫に大腸がん、骨がん、肺がんが次々と襲いかかります。病気を天命と受け止める夫は手術はせず、さすがのミツコさんも幼い子どもたちを抱え、不安にさいなまれる日もあったといいます。
そんな心の葛藤を救ってくれたのもまた、キリスト教でした。
ミツコさんが30年以上大切に使い続けている皮の表紙の聖書。牧師だからといってすべてを暗記しているわけではありません。読むたびに新たな発見があるといいます
「すべては神さまがお決めになる。もう生きていけないなとなったら、そのときはそのときだ」
なんという割りきり!
強い信仰心あってのことなのは間違いありません。
しかし、そう思いきれる心の強さは、キリスト教徒でなくても見習いたくなります。
やがて子育てがひと段落した54歳のとき、ミツコさんは試験を受けて、それまでの『伝道師』から『牧師』へ。本格的に教会をきり盛りするようになります。
教会のほかにも大学や病院、老人施設などで奉仕活動をしていた夫は、今度は糖尿病に。つらい闘病を続けましたが、今から5年前、とうとう他界します。
夫の死後、ミツコさんは夫婦で暮らしていたマンションから公営住宅に移ってひとり暮らしに。寂しくないといえばうそになるけれど、いつもたくさんの人に囲まれていた分、ひとりの気ままな暮らしを楽しんでいます。
それでも、ちっともじっとしていないのがミツコさんなのです。
ミツコさんの暮らしは、質素そのもの。それは若いころから変わりません。
家族のため、教会員のために働き、食事の世話や掃除を一手に引き受けてきました。
牧師になってからはカウンセリングや牧会(キリスト教で、羊飼いが羊の世話をするように、信者や悩める人のケアをすること)など、教会内外で忙しく活動してきました。
現在は第一線を退き、教会へは週2回通っています。
ミツコさんの毎日は多忙です。日曜日は教会で説教を。シルバー人材センターの仕事もあります。月曜日には、家族や教会に来られなくなった教会員など80〜90代の方たちの様子をうかがいに、順繰りに訪問することにしていましたが、コロナ禍が始まってからは控えています
「子育ての最大の目的は自立」
著書の中でそう語るミツコさんは、4人のお嬢さんたちが幼いころから「18歳までは面倒を見るけれど、あとは自分でどうにかして」と育ててきたと言います。
その言葉どおり、子どもたちは早くから独立。それぞれに仕事や家庭を持って暮らしています。
そしてミツコさん自身は、月7万円の年金で生活のすべてをまかなっているのです。
その内訳は、おおよそ次のようなものだといいます。
私たちの目から見たら、必要最小限度の出費のように思われます。が、ミツコさんは7万円でも「なかなかの収入」と書いています。
月々の出費のうち、通信費が占める割合が多め。牧師という仕事柄、いろいろな方の相談に乗ることが多いためです
生まれたときからキリスト教徒として生きてきたミツコさんにはあるものに感謝して、その中でどうにかする習慣が身についているのです。子育てや夫の看病、教会の運営で精いっぱいだったころから比べれば、ひとりでこれだけのお金が使えるのは「お金持ち」の感覚なのだそうです。
お金の管理は電子マネーやクレジットカードで。電子マネーはチャージ式なので、使う分だけ入れておけます。クレジットカードは何に・いくら使ったか記録が残ります
「花はごくたまに、1本しか買いません。それでも、その1本がものすごくうれしい。お金があればたくさん買えるでしょうけれど、それでは1回の感動が薄まってしまう。今はむしろ、お金がないほうが幸せだとも思えるようになりました」
そんなミツコさんですが、年金のほかにも収入があります。地域のシルバー人材センターに登録して、主に共働き家庭での掃除や料理など、家事の補助の仕事を週に2日ほどしているのです。
そうして得た収入は…? なんと、ほぼ全額を教会への献金に充てているのです。
なぜそこまでできるのでしょう?
ミツコさんに代わって、本書の担当編集者である、すばる舎の水沼さんが答えてくださいました。
「私たちが考える『寄付』とミツコさんの『献金』は少し意味が違うようです。私たちは、生活費に多少なりとも余裕があれば考えますが、敬虔なキリスト教徒であるミツコさんにとって、教会への献金は神様との約束。だから、生活費は最小限でも献金の優先順位は高いんです」
暮らしは慎ましく。その一方で人に尽くし、社会に奉仕する価値観は、ミツコさんならでは。若いころから、心の中にそうした指針を持ち続けている人だからこそできること。
「とてもそんな風にはなれないわ」と思う人も多いでしょう。
すべてをマネするのは難しいかもしれませんが、前向きな生き方の参考になりそうですね。
<写真提供/すべて『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる』(すばる舎刊)より、林ひろし撮影 取材・文/浅野裕見子>
1946年生まれ。牧師の家庭に育ち、自身も牧師を志す。神学系の大学を卒業後、同じく牧師の夫と結婚。夫婦二人三脚で47年間教会を運営するかたわら、4人の娘を育てる。夫を2016年に見送り、その後は公営住宅でひとり暮らし。現在も協力牧師として週2回教会に通う。心に常にあるのは「牧師の仕事は富とは無縁の仕事。お金がないならないで、工夫して楽しく暮らす。過去を振り返ったり、将来を心配したりせず『今ここ』に心を込めて生きることを大切に」。著書『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる
』(すばる舎)が多くの読者の共感を得て話題に。
昨今注目されているシニアの暮らし。なかでも話題を呼んでいる本が『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる
』(すばる舎刊)です。その気になる内容についてご紹介していきます。
ミツコさんのご自宅の玄関には写真コーナーを。夫が元気だったころ、家族が集まったときに撮影した集合写真など、たくさんの思い出が飾られています
「お金がない方が幸せかも」。74歳、ひとり暮らしの境地とは
昨年秋に発売された一冊の本が、静かに話題を呼んでいます。キリスト教の牧師でもある、ミツコさん(74歳)の、明るく心豊かなひとり暮らしを綴ったエッセイ、『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる
』がそれです。
ミツコさんとはいったいどんな方なのでしょうか?
●苦難があったから、強くなれた
ミツコさんは戦争直後の1946年、牧師の家庭に生まれました。8人きょうだいの5番目。家族のほかにも信者の人たちが出入りする家で、大勢に囲まれて育ったと言います。
「貧乏には慣れています」
著書でそう言いきるミツコさん。お父さまはどんなにお金に困っていても「うちよりもっと困っている人に分け与える」という方だったようで、その精神はミツコさんにも受け継がれています。
高校卒業後神学校に入り、卒業と同時に牧師の夫と結婚。
4人の子どもを育てながら、教会学校の教師をしたり、日曜礼拝後、教会員20人ほどの昼食をつくるなど、『牧師の妻』として教会の裏方仕事に奔走します。
多忙な日々を送るうち、まだ40代の夫に大腸がん、骨がん、肺がんが次々と襲いかかります。病気を天命と受け止める夫は手術はせず、さすがのミツコさんも幼い子どもたちを抱え、不安にさいなまれる日もあったといいます。
そんな心の葛藤を救ってくれたのもまた、キリスト教でした。
ミツコさんが30年以上大切に使い続けている皮の表紙の聖書。牧師だからといってすべてを暗記しているわけではありません。読むたびに新たな発見があるといいます
「すべては神さまがお決めになる。もう生きていけないなとなったら、そのときはそのときだ」
なんという割りきり!
強い信仰心あってのことなのは間違いありません。
しかし、そう思いきれる心の強さは、キリスト教徒でなくても見習いたくなります。
やがて子育てがひと段落した54歳のとき、ミツコさんは試験を受けて、それまでの『伝道師』から『牧師』へ。本格的に教会をきり盛りするようになります。
教会のほかにも大学や病院、老人施設などで奉仕活動をしていた夫は、今度は糖尿病に。つらい闘病を続けましたが、今から5年前、とうとう他界します。
夫の死後、ミツコさんは夫婦で暮らしていたマンションから公営住宅に移ってひとり暮らしに。寂しくないといえばうそになるけれど、いつもたくさんの人に囲まれていた分、ひとりの気ままな暮らしを楽しんでいます。
それでも、ちっともじっとしていないのがミツコさんなのです。
●年金7万円は「けっこうな収入です」
ミツコさんの暮らしは、質素そのもの。それは若いころから変わりません。
家族のため、教会員のために働き、食事の世話や掃除を一手に引き受けてきました。
牧師になってからはカウンセリングや牧会(キリスト教で、羊飼いが羊の世話をするように、信者や悩める人のケアをすること)など、教会内外で忙しく活動してきました。
現在は第一線を退き、教会へは週2回通っています。
ミツコさんの毎日は多忙です。日曜日は教会で説教を。シルバー人材センターの仕事もあります。月曜日には、家族や教会に来られなくなった教会員など80〜90代の方たちの様子をうかがいに、順繰りに訪問することにしていましたが、コロナ禍が始まってからは控えています
「子育ての最大の目的は自立」
著書の中でそう語るミツコさんは、4人のお嬢さんたちが幼いころから「18歳までは面倒を見るけれど、あとは自分でどうにかして」と育ててきたと言います。
その言葉どおり、子どもたちは早くから独立。それぞれに仕事や家庭を持って暮らしています。
そしてミツコさん自身は、月7万円の年金で生活のすべてをまかなっているのです。
その内訳は、おおよそ次のようなものだといいます。
《ミツコさんの支出内訳》
公営住宅の家賃 6000円
社会保険料 約4000円
水光熱費 約8000円(月平均)
通信費(スマホ・固定電話) 約10000円
食費・雑費 約40000円
公営住宅の家賃 6000円
社会保険料 約4000円
水光熱費 約8000円(月平均)
通信費(スマホ・固定電話) 約10000円
食費・雑費 約40000円
私たちの目から見たら、必要最小限度の出費のように思われます。が、ミツコさんは7万円でも「なかなかの収入」と書いています。
月々の出費のうち、通信費が占める割合が多め。牧師という仕事柄、いろいろな方の相談に乗ることが多いためです
生まれたときからキリスト教徒として生きてきたミツコさんにはあるものに感謝して、その中でどうにかする習慣が身についているのです。子育てや夫の看病、教会の運営で精いっぱいだったころから比べれば、ひとりでこれだけのお金が使えるのは「お金持ち」の感覚なのだそうです。
お金の管理は電子マネーやクレジットカードで。電子マネーはチャージ式なので、使う分だけ入れておけます。クレジットカードは何に・いくら使ったか記録が残ります
「花はごくたまに、1本しか買いません。それでも、その1本がものすごくうれしい。お金があればたくさん買えるでしょうけれど、それでは1回の感動が薄まってしまう。今はむしろ、お金がないほうが幸せだとも思えるようになりました」
そんなミツコさんですが、年金のほかにも収入があります。地域のシルバー人材センターに登録して、主に共働き家庭での掃除や料理など、家事の補助の仕事を週に2日ほどしているのです。
そうして得た収入は…? なんと、ほぼ全額を教会への献金に充てているのです。
なぜそこまでできるのでしょう?
ミツコさんに代わって、本書の担当編集者である、すばる舎の水沼さんが答えてくださいました。
「私たちが考える『寄付』とミツコさんの『献金』は少し意味が違うようです。私たちは、生活費に多少なりとも余裕があれば考えますが、敬虔なキリスト教徒であるミツコさんにとって、教会への献金は神様との約束。だから、生活費は最小限でも献金の優先順位は高いんです」
暮らしは慎ましく。その一方で人に尽くし、社会に奉仕する価値観は、ミツコさんならでは。若いころから、心の中にそうした指針を持ち続けている人だからこそできること。
「とてもそんな風にはなれないわ」と思う人も多いでしょう。
すべてをマネするのは難しいかもしれませんが、前向きな生き方の参考になりそうですね。
<写真提供/すべて『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる』(すばる舎刊)より、林ひろし撮影 取材・文/浅野裕見子>
【牧師ミツコさん】
1946年生まれ。牧師の家庭に育ち、自身も牧師を志す。神学系の大学を卒業後、同じく牧師の夫と結婚。夫婦二人三脚で47年間教会を運営するかたわら、4人の娘を育てる。夫を2016年に見送り、その後は公営住宅でひとり暮らし。現在も協力牧師として週2回教会に通う。心に常にあるのは「牧師の仕事は富とは無縁の仕事。お金がないならないで、工夫して楽しく暮らす。過去を振り返ったり、将来を心配したりせず『今ここ』に心を込めて生きることを大切に」。著書『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる
』(すばる舎)が多くの読者の共感を得て話題に。