「PPAP」でおなじみのピコ太郎をプロデュースする古坂大魔王さん。じつは子育て番組への出演や、毎日の子育てをSNSで発信するなど、育児に熱心であることが知られています。
昨年11月には第二子の誕生に合わせて約2週間の育休を取得。「芸人が育休」という意外性も相まって話題になりました。
育休としては短い期間ながらも、確かな手ごたえを感じたとのこと。その経験から見えた男性目線の育児について語ってもらいました。


古坂大魔王さん

古坂大魔王さんインタビュー。育休をとって感じたこと



男性が育休を取ることはようやく昨今浸透してくるようになりましたが、まだまだ実践できないという父親も多いはず。育休を取られた古坂さんが語る、父親目線の子育てについてのお話です。

●芸人が「育休」を取るということ



――古坂大魔王さんのTwitterなどを拝見すると、精力的に育児をされているのが印象的です。現在はお仕事も復帰されていますが、昨年11月の第二子誕生に合わせて、約2週間の育休を取られたんですよね。

古坂大魔王(以下、古坂):はい。でも、育休を取得した間だけ子育てすればいいってものではないんですよね。これは実際にやってみて改めて痛感しました。育休中も育休明けも変わらず育児は続くわけで。「2週間じゃ短い」というお声はいただきましたが、本当に充分な育休を取ろうと思うと、2年や3年は必要なんじゃないかな。

――古坂さんの場合、会社員の方が取る育休とは違って、休んでいる間は収入がまったくのゼロになるので、長期間完全に休むわけにもいかない難しさがありますよね。

古坂:そうなんです。僕の職業は給料制ではないので、育休を取る=死活問題なところは正直あります。じゃあなぜ取ったのかというと、理由は2つあって。
一つは、第一子が生まれたのが2018年で、ちょうど僕がプロデュースするピコ太郎が忙しい時期でした。毎週末、海外に行くようなスケジュールの中で、僕なりに一生懸命育児をしたつもりでいたんです。それで、妻に「僕は何%くらいできてる?」と聞いたら、「2%だ」と。育児・家事の項目を挙げてみたら、確かに100あるうちの2くらいしかできてなかったんですよね。
もう一つは、言うなれば「アピール」。「アピール」というと聞こえが悪いかもしれませんが、「古坂大魔王というわけのわからない芸名の奴が育休を取る」ことで、世間に影響を与えられるんじゃないかと思いました。

――実際、反響はいかがでしたか?

古坂:反響ありました! 「こんな芸人でも育休取っているんだから、あんたも取りなさいよ、と家庭で話し合えました」と褒めているのか悪口なのかわからないお声をたくさんいただきましたね(笑)。いや、でもありがたいです。これをきっかけに、まずは議論が起こることが大事ですから。

――発言力のある方が率先して動いて下さるのは大きいですよね。

古坂:ちなみに以前、テレビ番組で、育休をどれくらい取れているかの統計を取り上げた際に、平均2日しか取れていない、というデータが出ていました。取れない理由が「空気」。だから、小泉進次郎さんの育休も英断だったと僕は思うんです。おかげで育休を取りやすくなったという話も耳にしています。

●古坂大魔王流 家事・育児の役割分担




2人のお子さんと遊ぶ古坂さん。ご本人より提供

――いざ2週間の育休を取ってみて、新しい発見や驚きはありましたか?

古坂:育児に関しては2週間経った以降も続くので、あえて精神論的なお話をしますと、自分の中の育児意識を高める修行の時間、という感覚でした。お恥ずかしいことながら、10か月の間、自分の体の中に子どもがいて、実感を持ち続けてきた妻に勝てない、と最初は思いました。これは、「だから男は育児ができない」と言いたいわけではなく、事実として、どんなにがんばってもお腹の中に子どもがいるのは想像の域を超えないわけで。それが悔しくもありましたし、自分も産めたらどんなによかったことか、とも思いました。育休の2週間で、たくさん失敗して、思考して、追いついて、一緒に戦えるようなレベルまで自分を引き上げた感じです。

――なるほど。育休中だけでなく、その先を見据えての精神統一なんですね。

古坂:そうですね。やっぱりどうしても育児って正解がなくて、こういうときにこう対処する、とマニュアルや役割分担をすれば万事OKなわけではありません。育休中はこれを担当しました、仕事に復帰したあとはこうします、と機械的には決められない。その上、家庭ごとに千差万別だから、決まった解決法もありません。育休中だろうがなかろうが、常に夫婦でお互いにアンテナを張って、子どもをよく見て、試行錯誤するしかないんです。

――分担のお話が出ましたが、育児に限らず家事も含め、ご夫婦で決めているルールなどはありますか?

古坂:家事分担についてはざっくりとは決まっています。お風呂掃除系、トイレ掃除系、ゴミ出し、子どもたちをお風呂に入れる、寝かしつける、送り迎え…、このあたりは基本的には僕がやりますね。ただ、あくまでもわが家の場合はですが、きっちりと線引きして役割を決めてしまうと逆によくないと思って、あえてやっていません。

――そうなんですね。なぜでしょうか?

古坂:僕も妻も、寝込むほどではなくても少し調子が悪いくらいのことは日々あります。でも、役割分担を決めていると、できていなかったときに「サボる」という扱いになってしまうんですよね。役割分担はつまり、「役割義務」になりかねない。だから、やれるほうがやろう、きっちりとは分けずに補い合えるようにしよう、としています。

――それはめちゃくちゃ理想的ですね。

古坂:僕も妻も、多少できていなくてもあまり気にしないタイプなのもあるかもしれません(笑)。

<取材・文/朝井麻由美>

【古坂大魔王さん】



1973年、青森県生まれ。1992年「底ぬけAIR‐LINE」でデビュー。ピコ太郎プロデューサー。文部科学省・CCC大使、総務省・異能vation推進大使、UNEPサスティナビリティアクション・アドバイザー。現在は、バラエティ・情報番組への出演をはじめ、様々なアーティストとのコラボ楽曲制作を手掛けるなど幅広く活動中。