みずほ、システム障害の続発が招いた異常事態
和やかな2月19日の頭取交代会見(左)から状況が一変。3月に入り、みずほ銀行の藤原頭取(右下)、みずほFGの坂井社長(右上)がシステム障害を受けて会見を開く事態に(記者撮影)
トップ交代の取り消し――。2月末以降、立て続けに発生しているみずほ銀行のシステム障害は、異例の事態に発展した。
みずほフィナンシャルグループ(FG)は2月19日、傘下のみずほ銀行の頭取交代を発表。4月1日付で藤原弘治頭取に代わり、加藤勝彦常務執行役員が頭取に就任する予定だった。
しかし、2月28日に大規模なATM障害が発生。その後も2週間で計4度の障害が起こっている。しかも、4つの障害は別の要因で起こっていることから、システム運用全般に関する総点検が急務となっている。
相次ぐトラブルを受けてみずほFGは3月17日に会見を開き、頭取交代人事を取り消すと発表した。システム障害の原因究明と再発防止策を策定し終わるまでは、藤原頭取が引き続き指揮を執ることになる。
3月中に問題が片づかない
当日の会見に藤原頭取の姿はなかったが、3月1日と12日に開かれた会見では「この問題がきちんと総括された中で、引き継ぎを行いたい」(藤原頭取)と述べていた。しかし、システム障害が繰り返し発生し、3月いっぱいで問題が収束しそうにないため、異例の続投という形になったわけだ。
みずほFGの坂井社長は4月から全銀協会長に就任する予定だったが・・・・・(記者撮影)
頭取就任が白紙になった加藤氏は副頭取に就任し、業務執行統括の補佐にあたる。今後については「しかるべきタイミングで(加藤氏が次の)頭取に就任する方向ではないか」(坂井社長)。
坂井社長は4月1日から全国銀行協会の会長に就任する予定だったが、システム問題の解決に専念するため、「当面の間、見合わせていただく」(坂井社長)とした。結局、全銀協の会長は4月以降も三菱UFJフィナンシャル・グループの三毛兼承氏が続投することになった。坂井氏は自身の経営責任についても言及し、「当然、持ち株会社としての責任がある。原因を究明し、極力早期に信頼回復を図るのが責務。原因究明、再発防止策ができた上でどういう責任を取るかは今後適切に判断する」としている。
3メガバンクの一角でありながらも、収益面でみずほは他の2メガに遅れをとってきた。それは過去の業績を見ても明らかだ。中でもみずほの足を引っ張ってきたのは、他でもない「システム」という存在だった。
みずほは2002年、2011年に大規模な障害を経験。これを繰り返すことのないよう、新勘定系システムへの移行を進めてきた。移行期間中はデジタル化や店舗改革といった構造改革を本格的に進めることができず、他行との差は開くばかりだった。
2019年7月、4000億円以上をかけた新システム移行がようやく完了し、現在は構造改革を本格化するフェーズに入っている。
システム問題で遅れる「改革」
頭取就任が先送りとなった加藤氏が担うのは、まさにその構造改革だった。加藤氏自身も「収益力は十分でない」とし、「営業体制を変えて収益を上げていく」と語っていた。最初の大仕事になるはずだったのが、4月に行われる予定だった店舗と法人営業部隊の改革だ。
4月から頭取として指揮を執るはずだった加藤勝彦氏(左から2番目)。頭取交代が白紙となり、4月から副頭取に。写真は2月19日の頭取交代会見(記者撮影)
店舗については、法人・個人にそれぞれ特化した店舗への再編を進める。みずほの店舗は法人個人双方の取引を取り扱う総合店が過半を占めているが、それぞれに対する専門性を持った人材を配置することで、サービスを向上させようという試みだ。
法人営業では、これまで自動車や電機といった業種ごとに担当が分かれる営業体制が敷かれていた。これを「自動車とテクノロジー」、「情報通信とリテール」など業種をまたいだ5つのグループに再編する。日本企業でも業種を超えたビジネスやM&Aが増加する中、取引先のアプローチのかけ方を変えようとしている。
ところが、システム障害によって、これらの改革も「いったん見合わせ、期初の(システムの)安定稼働状況を見極めたうえで実施する」(坂井社長)。トラブルを繰り返すシステムの呪縛によって、みずほの改革はますます遅れることになった。
構造改革に再度アクセルを踏むためには、システム問題の根本的な解決が不可欠だ。会見では、外部の専門家で構成される第三者委員会を設置し、原因究明、再発防止策策定にあたると発表した。社外取締役で構成される「システム障害対応検証委員会」も設置し、再発防止策の検証を行うことになる。
人員を呼び戻してシステム部門強化
現場レベルでも、「勘定系システム移行を経験した人材を呼び戻し、増員しようと考えている」(みずほFGの石井哲専務)。まさに総動員で問題解決に臨む。
調査結果をふまえて再発防止策を策定する時期については「現時点で申し上げるべきではない」(坂井社長)としており、肝心の構造改革に着手するタイミングはまるで見通せない状況だ。調査を経てどれだけ詳細な説明がなされ、2度と障害が起きないという証明ができるかが、信頼回復のカギとなる。