今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーはSUBARU「レヴォーグ」が激戦を制した(写真:日本カー・オブ・ザ・イヤー公式サイト)

12月7日、今年の「年クルマ」を選出する「2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー(略称:COTY<Car Of the Year Japan>)」の最終選考会が行われた。今年はコロナウイルス感染拡大の影響で自動車業界は大きな影響を受けたものの、この間に登場したニューモデルの多くは各メーカーの次世代を担うモデルが多かった。

そんな中イヤーカーに選出されたのはSUBARU(スバル)「レヴォーグ」だ。スバル車の受賞は第24回の「レガシィ」(4代目:2003年)、第37回の「インプレッサ」(5代目:2016年)に続く3回目だ。また、最も上位の点数を獲得した輸入車に与えられるインポート・カー・オブ・ザ・イヤーは「プジョー208/e-208」が選出。こちらは初の受賞となる。

さらに部門賞として秀でた内外装デザインを持つクルマに与えられるデザイン・カー・オブ・ザ・イヤーは「マツダMX-30」、革新的な環境・安全技術を備えたクルマに与えられるテクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーには「アウディe-tron Sportback」、感動的なドライブフィールが味わえるクルマに与えられるパフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤーには「BMW ALPINA B3」、そして総合的な優れた軽自動車に与えられるK CARオブ・ザ・イヤーには「ニッサン・ルークス/三菱ekクロススペース/ekスペース」が選出された。

COTYは1980年に創設以来、さまざまなモデルが選ばれてきた。毎年のことなのでおさらいになるが、どのようなモデルがどのような方法で選ばれるのか?

「年間販売台数500台以上」のルールが撤廃

今回のノミネート車両は2019年11月1日から2020年10月30日までに国内で発表/発売されたモデルで、対象車は「継続的に生産・販売され、一般消費者が特別な手段を用いずに購入できること」、「当年の12月下旬までに一般消費者が日本国内で購入できること」を満たしたすべての乗用車が対象となっている。今年は国産車13台、輸入車は20台の計33台がノミネートだ。

ちなみに今年から「年間販売台数500台以上が見込まれたモデル」というルールが撤廃され、輸入車に多い少量生産モデルも対象となり、BMWをベースに独自モデルを生み出す「アルピナ(世界年間生産台数1500台程度)」は初のエントリーとなった。

このモデルの中から、自動車メディアを中心に構成された実行委員会が選任した60名の選考委員が第一次審査として10台のモデル(10ベストカー)を選出。この10ベストカーの中から最終選考が行われ、最も高い点数を獲得したモデルがイヤーカーとなる。ちなみに10ベストカーは一時審査を突破……ではなく、これはこれで立派な章典である。

筆者は2016年から先行委員を務めている。元自動車メーカーのエンジニアとしてニューモデルの“産みの苦しみ”を知っているからこそ、すべてのモデルに満点(10点)を入れたいが、採点にはルールがある。

1・選考委員の持ち点は25点
2・最も高く評価した1台に“必ず”10点を入れる
3・残りの15点を4台に配点(ただし9点以下)

その最終結果がこちらである。例年は自動車メーカー担当者/実行員/選考委員が一堂に会して、独特な緊張感が漂う中で一人ひとり点数を読み上げて開票が行われていたが、今年はオンラインでのライブ配信となった。一般の人も気軽に視聴できたこと(最大で約3000人)や選考委員の選考理由の映像化などなど、このやり方は今後もありなのかな……と感じた。ただ、開票は例年だとランダムなので接戦時にならないようにドキドキしたものだが、今年はアイウエオ順だったので、いつもよりは緊張は少なかった。

次点はフィット、3位にヤリスシリーズ

1・スバル レヴォーグ 437点
2・ホンダ フィット 320点
3・トヨタ ヤリス/ヤリスクロス/GRヤリス 300点
4・プジョー208/e-208 141点
5・ランドローバー ディフェンダー 105点
6・アウディe-tron Sportback 65点
7・マツダMX-30 63点
8・アルピナ BMW ALPINA B3 25点
9・BMW 2シリーズグランクーペ
10・ニッサン キックス 20点

ちなみに各々の配点に加えて10点を入れたモデルの選考理由がCOTYのウェブサイトに掲載済みだ。選考委員は60人いるので評価ポイントは異なるので、その辺りも含めて目を通していただけると幸いである。

今年はかなり早い段階からトヨタ自動車「ヤリス」シリーズvsスバル「レヴォーグ」vsホンダ「フィット」の「三つ巴の戦い」になるといわれていたが、ふたを開けてみるとレヴォーグの圧勝で終わった。開票結果を見てみると10点を入れた選考委員は60人の中で25名、1点も入れなかった選考委員は3名と昨年のイヤーカーだった「RAV4」と同じように多くの選考委員が「いいクルマである」と判断したのだ。

ちなみにフィットに10点を入れた選考委員は11人、1点も入れなかった選考委員は6人、ヤリスシリーズに10点を入れた選考委員は13人、1点も入れなかった選考委員は7人とあまり変わらないが、配点で差がついたのだろう

これは筆者の推測だが、ヤリスはハッチバックに加えてクロスオーバー(ヤリスクロス)とスポーツモデル(GRヤリス)を合わせたシリーズでノミネートしており総合力として見ると高いが、3台のキャラクターが異なるため評価しづらい――という側面もあったのかもしれない。もちろんルールには合致しているので問題はないのだが、複数台まとめてのエントリーは今後、議論が必要かもしれない。

筆者は今年のイヤーカーとなったスバル・レヴォーグに10点を入れた1人である。ただ、正直に言うと投票時間ギリギリまでヤリスシリーズとどちらに10点を入れるか悩んだのも事実である。決め手は何だったのか?

「次世代を指し示すモデル」「海外勢とガチで戦えるポテンシャル」「先代からの伸びしろ」という意味でいうとどちらも同じ境遇である。

2代目レヴォーグは旧型が一気に色あせるほど進化

なぜ、筆者はレヴォーグを選んだかというと、実際に乗ってみてそれまで決して悪いと思わなかった先代モデルが一気に色あせてしまうほどの進化を感じたからだ。

乗る前からいいねと感じさせる「内外装デザイン」、運転がうまくなったと錯覚する意のままで懐の深い「ビークルダイナミクス」、しなやかから強靭までキャラが変わる「ドライブモード」、世界トップレベルといっても過言ではない「アイサイトX」など、日本市場に注力したモデルにもかかわらず世界に通用するポテンシャルを備え、「スバルらしさ」と「スバルらしからぬ」部分がバランスよく盛り込まれた総合力の高さを実感した。

新開発の1.8L直噴ターボエンジンもレベルアップを実現させているが、周りと比べると「もう少し燃費がよければ」、「電動化パワートレーンがほしい」という課題もある。ただ、今回はそれを差し引いても魅力が上回った。

レヴォーグ開発の陣頭指揮を取った五島賢氏は「新型レヴォーグは『継承』と『超革新』をコンセプトにチーム総動員で開発してきました。私たちが『いいクルマ』と言ってもなかなか伝わらず、COTYを取る事が『お客様の心の導火線に火をつける』ためにいちばん重要だと思っていました。まずは購入いただいたお客様に受賞を報告したい。そしてレヴォーグにかかわった人すべてに感謝したいと思います」と時に言葉を詰まらせながら歓びを語った。

GRヤリスを購入した筆者だが基準は「ユーザー」

その一方で極めて個人的なことを言わせてもらうと、筆者が自分のマイカーとして購入したのはGRヤリスである。その理由は単純明快で絶対的な「パフォーマンス」とトヨタの「志」に惚れたからだ。

「モータースポーツ活動を通じて量産車を鍛える」というモリゾウこと豊田章男社長の想いがトヨタの独自開発・生産で実現したこと、トヨタのルール/基準を超えた「設計」、データとドライバーコメントを紐づけした「評価方法」、その場で直してすぐに乗ってもらうといった「スピード感」、「プロドライバー」の積極的な起用、スーパーカー並みの「高精度」を量産ラインで実現、少量でもコストを上げない「工夫」など、従来のトヨタの常識を覆した数々の「挑戦」に関してはレヴォーグ以上に高く評価している。

ただ、筆者のCOTYの選考基準は“私”が中心ではなく“ユーザー”が中心である。今回もその点に関しては譲れなかった。

もちろん、今回の結果に“物言い”をしたい人もいるだろう。例えば「なぜ、あれだけ売れたハリアーが10ベストに残らないのか?」、「フィットよりホンダeのほうが注目されていたのでは?」といった意見も耳にしたが、逆を言えばそれらのクルマが10ベストカーに残れないほど魅力的なクルマが多かった――という証拠なのかもしれない。