新卒採用で人事担当が嘆く「就活生の質の劣化」
最近の新卒採用について企業の人事担当者からは「学生の質の劣化」を嘆く声が聞かれる(写真:xquang/PIXTA)
今回は新卒採用の問題点を考えてみたい。
学生は大学や専攻する学部・学科という条件の中で、志望業界と企業を絞り込んで就活を進める。企業は学生以上に千差万別。規模、業種、好・不況の波があり、経営陣の考え方やセンスも採用に影響を与える。立場によって抱える問題は変わるが、共通する課題もある。
人事担当者が見ている採用の風景と認識をアンケートから拾い上げてみよう。使用するデータは、「HR総研:2021年卒&2022年卒採用動向に関する調査」(2020年6月26日〜7月2日実施)である。
「学生の質の劣化」を指摘する声
人事担当者のコメントで目立つのは、学生の質の低下、劣化を指摘する声だ。こういう指摘はいつの時代にもあった。古代エジプトの粘土板にも「いまどきの若者はけしからん」という大人の慨嘆が記されていたそうだ。この話はよく知られているが、出典ははっきりしないらしい。
『就職四季報』特設サイトはこちら
この話の真偽は定かではないが、昔から大人や老人が「いまどきの若者は……」と文句を唱えていたというのはありそうな話だ。
若者は活力に富み、経験が少なく、ものの道理に暗いから、時にとんでもないことをする。だから冒険者のほとんどは若者だ。失敗によって学び、成長し、いつか物わかりのよい(時には頑固な)大人になっていく。若者をとがめる大人もかつては若者だったはずだが、自分の若い頃のことは棚に上げている。
ただ、人事担当者の若者批判を読むと、「いまどきの若者は……」という類型的なものと少し異なる印象がある。「ものを知らない」「マナーやルールを守れない」「自信過剰で生意気」ではなく、価値観、行動軸に問題があり、「人間として評価できない」と感じる採用担当者が多いのだ。
「学生の労働意欲や向上心の希薄さや自己中心的な考え方」(サービス・1001人以上)
「学生の意欲低下、おとなしい性格の者が増加」(サービス・1001人以上)
「学生の質の低下。特に主体性やバイタリティの低下。そういう経験をして育ってきていない」(金融・301〜1000人)
「学生の自己評価が高い、企業に就職する意味(コストをかけて採用する側の視点)をあまり考えていない傾向。義務教育から会社の仕組み等を授業で取り入れるなどが必要」(情報・通信・301〜1000人)
かつての若者への非難は、未熟さによる問題行動への批判が多かったものだが、現在の就活生に対しては、行動を起こさないおとなしさに不満を感じているようだ。
原因に挙げられる「少子化」
レベル低下を挙げる人事担当者がおり、「少子化の中で、内定が多く得られ、自分の進むべき選択に迷っている」や「少子化による学生の質の低下」という意見がある。
確かに少子化によって若年労働者の不足はとても大きな問題である。企業は慢性的な人手不足に陥っており、思うように若者を採用できていない。飲食店や建築現場でも外国人が目立って多くなっている。自衛隊の採用も困難に直面し、定員割れの状態が続いているそうだ。
「少子化」の報道が多いので、若者の代表である学生数が減少していると勘違いする人もいるだろうが、実際は違う。大学生は増えている。
「少子化」とは出生数の減少による人口分布の変化を指す。出生数が最多だったのは1949年の269万人。いわゆる「団塊の世代」(1947〜1949年生まれ)だ。次のピークは「団塊ジュニア世代」の1971年で出生数は210万人。その後は減りつづけて、2016年から100万人を割り、昨年は86万人だった。
大学に進学する18歳人口も減少し始めている。ただし、出生数と18歳人口は18年のタイムラグがあり、現在の減少率はまだ緩やかだ。2010年のころの18歳人口は約120万人だが、2019年は117.5万人、2020年は116.7万人、2021年は114.1万人と、10年経っても5万人程度の減少にとどまっている。
18歳人口は少しずつ減っているが、大学生の数は逆に少しずつ増えている。2020年度の学部学生数は262.4万人で前年より1.5万人増えて過去最高だ(文部科学省『令和2年度学校基本調査速報』)。
若者の数は減っているのに大学生は増えている。つまり、大学に進学する若者の比率が高まっており、かつては大学進学していなかった層の学生までが進学し、相対的に質が低下している可能性が高い。この現象は「大学全入時代」と言われ、すでに10年以上前から「ゆとり世代」と絡めて指摘されていた。
現在の若者に関しては「Z世代」という言葉が使われている。しかし、学生の質を分析するために、少子化や世代論のような大きな議論が必要だろうか? もっと低い視線で採用環境の変化を見れば済む話だと思う。
売り手市場化も要因
2010年代後半のもっとも大きな採用環境の変化は、「就職・採用戦線の売り手市場化」だった。売り手市場なので、内定獲得が容易になった。学生生活で最もつらい経験は就活だが、あまり苦労しないままに内定を獲得し、翌年4月に入社する。つまり、学生の意識のまま社会人になってしまう。
キャリア論では人間がどういう契機で成長するかを論じるが、神戸大学を退官し、現在は立命館大学で教鞭を執る金井壽宏教授は、「一皮むける経験」が成長の契機だと記している。つまり、現在の実力より高いハードルを越えたときに一皮むけるのだ。
内定が得られず将来が見えない就活は苦しい一方で、成長の契機になりうる。リーマンショック(2008年)後、2010年代初頭の頃まで多くの学生は就活に苦しんだ。ところが、2010年代後半の新卒採用は売り手市場だった。楽な就職が強いキャリアになりうるのかというと疑問があり、多くの人事担当者が違和感を持っているようだ。
「実力はさておき、就活生も保護者もとりあえず“大手”という考えになってしまう風潮そのもの」(情報・通信・301〜1000人)
「学生のレベル低下。実地の就業体験をもっと積むべき」(マスコミ・コンサル・300人以下)
教育についての不満もある。「全人教育」のような立派な理念をうたう大学があるが、実際には就職率の高さで受験生を集めている。
また、2000年頃から「就職課」を「キャリアセンター」と名称変更する大学が多かったが、企業の人事担当者からは「就職がゴールのようになっている。学校の意識変化が必要」(サービス・300人以下)という声が目立つ。
「就職はゴールではない。わが校はリベラルアーツ(教養科目)に力を注いでいる」と主張する大学もある。ところが、学生の育ちに繋がっておらず、人事の不満は大きい。
「学生自身が自己分析できていない。もっと親や学校が“働く”ということを早くから考えさせるべき」(サービス・300人以下)
「個人の能力が低いにもかかわらず、権利を主張する傾向が強いので、コミュニケーション力を身につけてもらいたい」(サービス・300人以下)
「学生の教育。高校生の時点でキャリアを意識した教育が必要」(サービス・300人以下)
「内定辞退」に憤り
昔から採用担当者を悩ませてきたのが「内定辞退」だ。採用は農業に似ていて、1年単位で種まき、苗の田植え、水やり、収穫を行う。シーズンごとに施策を立てて採用工程を進めていき、最後に内定を出して終わる。次は10月1日の正式内定、翌年4月の入社へと進む。この1年がかり、いや、サマーインターンシップから考えれば、実際には2年近い作業を根底から覆すのが「内定辞退」だ。
上のロゴをクリックするとHR総研のサイトへジャンプします
すべての採用担当者は内定辞退に遭遇し、憤りを感じたはずだ。そして、この数年で内定辞退が増えている。今回のアンケートでは辞退学生に対する「ペナルティー」や2次エントリーなどの仕組みを求める声があった。
「内定承諾後の辞退は何らかのペナルティーを設けないと、企業側が圧倒的に不利。承諾後の内定辞退が出たら、サイトに大学・学部・学科をインプットして公表する等の措置を講じてほしい」(メーカー・301〜1000人)
「一部の大手による囲い込みで、内定辞退者が一定数出てしまう。内定者辞退を想定した2次エントリーのような仕組みが必要」(サービス・1001人以上)