新型ノートは見た目も大きく変わった。2021年に発売する新型EV「アリア」と似た先進的なデザインを採用した(記者撮影)

「起死回生のモデルに十分になりうる。経営へのインパクトも非常に大きいだろう」。神奈川日産自動車の横山明社長が大きな期待を寄せるのは、12月23日に発売される新型「ノート」だ。今回が実に8年ぶりのフルモデルチェンジとなる。新型ノートの投入に合わせて、首都圏のある日産販売店では新装開店を予定するなど、販売現場の士気も高まっている。

ノートは、普通車(軽自動車を含まない登録車)の中では小ぶりなコンパクトカーの売れ筋モデル。2016年に日産独自のハイブリッド車(HV)技術であるeパワーの搭載モデルを投入してから人気に火がつき、2017年から3年連続で国内コンパクトカー市場の販売台数1位を獲得。2018年には全登録車の中で最も売れた車になった。販売不振が続く日産にとって、国内販売を支える「最後の砦」ともいえる車種だ。

競争が熾烈なコンパクトカー

ただし、燃費性能がよく小回りも利くコンパクトカーは近年の売れ筋として各社がこぞって力を入れており、販売競争は熾烈になっている。トヨタ自動車は今年2月、「ヤリス」(国内では旧車名「ヴィッツ」から変更)の新型車を投入。ホンダも同じく2月に4代目となる新型「フィット」を発売している。  

こうした新型車効果により、2020年度上期(4〜9月)の車種別販売台数(軽自動車除く)ではヤリス(7万9400台)が1位、フィット(5万0521台)も4位にランクインした。


一方、ノート(3万1085台)は競合車種の攻勢で9位にまで順位を落としており、今回のモデルチェンジはコンパクトカー市場における日産反撃ののろしとなる。

3代目となる新型ノートは外観や内装を大幅に刷新したほか、現行モデルにはあったガソリンエンジン車を用意せず、eパワー搭載のHVモデルのみとした。eパワーはエンジンを発電のみに使用してモーターを駆動させる独自のシステム。ガソリン車のみならず、通常のHVよりも燃費性能に優れ、現行ノートの購入者の7割は燃費性能が高いHVを選択しているという。

日産は今回のノートのモデルチェンジに際して、eパワーのモーターやインバーターなどを大幅に改良し、現行のHVモデルよりも出力や加速性能、燃費性能などを向上させた。ガソリン車のラインナップはなくしたが、「(それでも)ナンバーワンを狙っている」(開発責任者の渡邊明規雄氏)。あえてHVモデルだけに絞ったのは、新型車の競争力に自信を持っていることの表れともいえる。

また、プラットホーム(車台)はアライアンスを組む仏ルノーと共同開発したものを新たに採用することで、開発費や部品調達コストの削減につなげたという。車両価格は203万円からで、平均で月間8000台の販売目標を掲げる。

日産は2010年代、カルロス・ゴーン元会長の指揮下で、成長市場の新興国での販売シェア拡大を経営の最重要点に位置づけた。投資では新興国での生産能力増強を優先し、新車の開発投資は逆に絞った。その結果、新型車の投入が極端に減って車齢の古いモデルばかりになり、近年の深刻な販売不振につながった経緯がある。

国内市場はとくにそれが顕著で、フルモデルチェンジが軽自動車も含めて1車種もない年すらあったほど。当然のごとく販売台数は右肩下がりで、2013年度の72万台から2019年度には53万台に減少した。日産の国内販売シェアは今や10.6%(2019年度実績)にまで下がっており、おひざ元の国内市場で日産の存在感は年々薄れているのが実情だ。

販売現場からは不安の声も

こうした現状への反省から、同社は経営再建に向け、今後は新型車を積極投入して販売をテコ入れする計画を打ち出している。今回の新型ノートは、6月に発売した新型コンパクトSUV(スポーツ用多目的車)「キックス」と併せ、国内における日産復権のカギを握るモデルともいえる。


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ただ販売現場からは不安の声も聞こえてくる。ある首都圏の日産系販売会社の役員は「新型ノートは価格の安いガソリン車の設定がないので、販売動向が読めない」と打ち明ける。ヤリスやフィットは50万〜60万円ほど安いガソリン車を設定しており、売れ行きで差が生じる可能性もある。

日産の星野朝子副社長は11月24日に開かれた発表会で、「電動化と自動運転の先進技術を搭載したこの新型ノートで市場を牽引し、再建計画を着実に進めたい」と語った。8年ぶりのモデルチェンジは国内販売回復の起爆剤となるか。日産の経営再建の行方を占う意味でも、新型ノートの成否は大きな意味を持つ。