Photography: Shinsaku YANO

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「地方創生」とは昨今非常に耳にする機会の多い言葉だ。だが都市部に住む多くの人にとってはニュースや新聞で目にするものの、当事者意識をもって目の当たりにすることは少ないだろう。今回、octane.jp編集部はとある自治体の地域活性化に向けた取り組みの現場を取材する機会を得た。その内容は想像以上にポジティブで楽しい試みであった。

「皆さんの存在自体が”価値”なんです」

ここは岐阜県揖斐郡揖斐川町。岐阜県の西北部に位置するこの町は自然豊かな環境に恵まれている。木曽三川のひとつである揖斐川、西部には伊吹山、名高い「さざれ石」もこの地に存在する。しかし知名度は全国区とはいえない。実際、揖斐川町では高齢化が進み、人口減という問題を抱えている。



2020年11月13日、揖斐川町役場でワークショップが開催された。揖斐川町春日地域の「リブランディング」についての問題点と課題を話し合う場だ。自治体の関係者や地域文化の担い手が参加するのは当然のことながら、驚くべきは「あの」スノーピークからも4名の社員が参加していたこと。総合アウトドアブランドのスノーピークのメンバーは、日本各地の地域の魅力を発掘している。地域住民が当然のことと捉えている日常的な文化風習が、もしかすると外部の新しい視点から見れば「それ、面白いじゃん!」という発見があるかもしれない。それこそが地域のブランディングに役立つに違いない。そんな背景から実現したのが今回の異色のコラボレーションだ。



さらに、このコラボレーション企画を担うのが地元の大垣共立銀行とそのシンクタンクであるOKB総研であるのも興味深い。地域に密着し共に発展するために、机上だけではなく現場でのコラボレーションを企画し実施している機動力には恐れ入る。



ワークショップは2グループに分かれて行われた。自己紹介から始まり、それぞれのグループが地域の問題や特徴を話し合い、課題解決に向けてワークを進めていく。地域資源としての「自然」「生活」「食」「文化」を外部の視点も借りて客観的に把握し、それらの資源を付加価値として飲食や体験、物販に展開するという取り組みの可能性を探るというものだ。



途中、OKB総研の大里顧問がこう語りかけた。「皆さんの存在自体が”価値”なんですよ」と。それを受けて、地域がもっている価値がどんどん挙げられる。皆ポジティブだ。「古来の薬草文化は外せない。特に薬草風呂にはいつも”普通に”入ってます」「水道がないところもあるけど、川の水があるから大丈夫」「農産物は無農薬が”普通”」「炭焼きって、アウトドア好きな人にはきっと刺さるよね」「茶畑の間でこんにゃく芋を作っている。こんにゃく作りでアクがすごく出るから、アクを取るのに炭焼きの灰を使う」「それって無駄なく循環して資源を使い切る、超・循環型のローカルサステイナブルですね」といった活発な意見が飛び交い、予定されていた時間を45分も超えて議論が続けられた。



実は今回の企画では翌日にもプログラムが用意されていた。この日話し合われた”地域資源の財産”に対して、一般の人がどんな反応を示すのかを検証するテストマーケティングの場である。

共に学び、食し、体験するコミュニケーション

翌11月14日。スノーピークの協力を得て招待されたゲスト8組18名が集い、テストマーケティングを兼ねた1DAYイベントが行われた。場所は揖斐川町春日にある長者の里キャンプ場だ。

キャンプ場へ向かうまでの道はまさに紅葉まっさかり。交通量の少ないワインディングはドライブに最適で、とても気持ちよく走ることができる。「もしかするとこの峠道だけでも”地域資源”なのでは?」と感じるほどだ。



用意されたプログラムは地域資源を最大限に活用した6種類。順を追って見ていこう。

1. 薬草染め手ぬぐいづくり



「アトリエのの・麻処さあさ」の田口さんによるワークショップ。アトリエ名の「のの」とは、春日地域で麻布のことを指す言葉だとか。麻炭や麻のものづくりを実践している田口さんが、現物を用いて麻が糸になる過程を説明してくれた。昔話を聞くような心地よさに包まれた中で、まずは近隣で採取した薬草を鍋に入れ、染料を抽出する。





割りばし、ビー玉、輪ゴムなどを利用し、布への模様付けを行う。どんな模様になるかは仕上がってみてのお楽しみ。



抽出された染料に布を入れる。火をおこすのはいつも田口さんのお子さんたちの役割だという。手際よく火をつけ薪をくべていく。慣れた様子が頼もしい。





次いですすぎの工程。川で汲んだ水はとても清く、そして…冷たい!すすいだ布を乾かしたら完成。思い思いの模様が澄んだ空気に映えて美しい。何より、布を広げたときに参加者の顔にパッと広がるうれしそうな表情と「わぁ!」と思わず出る歓声は、ものづくりの原点を感じられるものだった。



使用する薬草の種類により仕上がりの色が異なる。今回使用したのは丸葉赤麻(まるばあかそ)と茜(あかね)の二種。

麻炭によるスケッチも体験することができた。パステルのような独特の描き心地だ。

2. 茶の実油の搾油と保湿クリームづくり



講師は「春日乃売茶翁/たねのしずく研究所」の山田さん。茶の実をご存じだろうか。茶を栽培するにあたり、手入れされ栄養が行き渡っている茶の木には花が咲かない。一方で耕作放棄(=放置されて荒れている)茶畑では茶の花が咲き、実がなるのだという。つまり実がなる茶の木は茶園にとっては恥の証となり、一般的に茶の花や実を見る機会は稀なこととなる。



揖斐川町春日地域では高齢化・後継者不足のために耕作放棄された荒れた茶畑が多く、その結果、多くの茶の実が実っている。この茶の実こそが地域資源だと着目されて誕生したのが茶の実油。オレイン酸とビタミンEを多く含み、保湿性も高く、化粧品の原料にもなり、食用も可能なオイルだ。休耕茶園に人が入り、荒れた茶畑から採れる資源を活かして地域を活性化することは、とてもサステイナブルな取り組みだといえるだろう。

専用の搾油機での搾油を体験する。抽出されたオイルを見つめる参加者の目は真剣だ。オイルをミツロウと混ぜて固めたバームづくりも同時に行われた。

3. 百草茶づくり



揖斐川町春日地域では古くより薬草文化が根付いており、世代を超えて伝承されてきた。この文化を守りたいと「五感で楽しむ伊吹薬草」をテーマに活動している「キッチンマルコ」の藤田さんと四井さんによるワークショップも開催された。





薬草きき茶を行ったのち、参加者が好きな薬草をブレンドしてオリジナルティーを考案するプログラムを実施。標高が高く寒暖の差がある地で育つため、薬草はとても香りが良く質も高い。





4. 春日森の文化博物館の見学(公共施設)



キャンプ場のある長者の里敷地内にある地域文化紹介施設である春日森の文化博物館も公開され、随時見学することができた。地域伝承物語のパネル展示や地域の祭、炭文化、薬草文化に関連する展示資料は一見の価値がある。叶うことなら、地域の文化を知る地元住民だけではなく、県外の別の場所で展示をして春日の文化を知らない人に見てもらうことができたらと感じたのは筆者だけだろうか。

5. ランチ/薬草弁当



百草茶づくりを担当したキッチンマルコ特製のお弁当と揖斐茶が参加者にふるまわれた。



伊吹ジャコウソウ入りのチキン、ヤブカンゾウの胡麻和え、ずいきの煮物、おばこ煮、春日沢アザミ、春日きゅうり漬け、春日豆、手作りのこんにゃくなど、見て優しく体に優しいお弁当は地元の食材をふんだんに用いたもの。



6. 焚火トーク



焚火を囲んでのランチタイムは地域事業者、地域住民、スノーピークスタッフとのコミュニケーションの場となった。この場で聞くことができた参加者の素直な感想が、今回のテストマーケティングでは非常に参考となり今後の指針として役に立つことだろう。





取材してみて感じたことは、この地に地域資源は豊富にあり、実際に体験すればその満足度は高く、口コミで広げたくなる魅力にあふれているということ。人口減に歯止めをかけるために移住者を募ろうにも、町の魅力をいかに周知するか、発信不足をどう解消するのかが今後の課題であるのは明白だ。一回限りのキャンプ場でのイベントに留まることなく、今後も揖斐川町と大垣共立銀行、OKB総研がタッグを組んで取り組み、春日地域の「リブランディング講座」の第二弾を実施していく予定とのことなので、編集部でも継続して注目していきたい。