店内がダサくても、もっと大事なことがある。繁盛する飲食店の法則とは?
コロナ禍で厳しい状況が続く飲食業界。その中でも、繁盛する店がある。
この苦境の中でも繁盛の兆しを見せる店は一体何が違うのか。
これまで20年以上にわたり外食チェーン店の設計デザインを手掛けてきた大西良典氏。𠮷野家、すき家、なか卯、ココス、とりどーる、すた丼、かつや、フレッシュネスバーガーなど、誰もが入ったことがある外食チェーンの設計をしてきた。
そんな大西氏による『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密』(扶桑社刊)は、飲食店の集客のヒントが詰まった、まさにマーケティングの教科書的な一冊だ。
大西氏へのインタビュー後編では、店舗デザインにおける「本質的な部分」についてのお話を聞いた。
(新刊JP編集部)
■トイレも重要な空間に。客にとって大切なポイントとは何か?
――ここまでのお話で「ダサカッコイイの法則」の奥深さを感じました。「ダサい」デザインにこだわるのではなく、それよりも大事なポイントを押さえれば繁盛する。
大西:そうですね。コスト面においてもそれは言えます。例えば、だいたい1店舗つくるのに2000万円くらいはかかるのですが、「壁はレンガ風クロスだと安っぽくなる!」と言って、本物のレンガを使うとそこに500万円のコストがプラスされます。
確かに本物のレンガの方がカッコいいかもしれないけれど、その部分にこだわって入店する客はどのくらいいるのですか?ということですね。
――「壁が本物のレンガだから入ろう」とはなかなかならないですよね。
大西:だったらレンガ風クロスでもいいでしょう。確かに「ダサい」かもしれないけどね。でも、そういうことなんです。客が座る位置から厨房の冷蔵庫が見えたら、ちょっとダサいかもしれないけれど、もし厨房で作業するときにそこに冷蔵庫があれば動きやすくなるのであれば、ダサくてもそうした方がいいと。
――むしろ従業員が機能的に動けたほうが、本質的な顧客満足度に結びついていきますね。
大西:そうです。僕がデザインしている飲食店はチェーン店ですから、赤ん坊からご老人まで、本当にいろんな人が食べに来ます。そこをターゲットにしているのに、汚しにくいめちゃくちゃきれいなお店だったら、子連れの家族は来店しにくくなってしまいますよね。
僕は𠮷野家の河村泰貴社長から「𠮷野家にタキシードを着てくる人はいますか?」と言われました。私たちのお店はそういうお客様が来る場所ではない、と。まさにその通りだなと思うんですね。自分たちのターゲットに合うお店を設計しないといけない。
――お話をうかがっていて、「細部へのこだわり」よりも重要なポイントがたくさんあるということを実感します。
大西:そうですね。お客さんは細かいところは見ていない。ちなみに、最近行ったレストランの床が何色だったか覚えていますか?
――最近行ったレストランの床…。ちょっと覚えていないです。
大西:でしょう? ほとんどのお客さんはそのくらいの認識なんです。だから、デザインにクレームを入れる人ってまずいなくて、例えば床が油で滑るとか、今なら三密になっているとか、そういうことの方が圧倒的に多いんですよね。あとは、照明が明るすぎて目がチカチカするとか。
――そうですね。自分に不利益があるからクレームを出します。
大西:そうですよね。床の色よりも、床が滑らないかどうか、そこをちゃんと押さえるべきでしょう。あとは、お店でカレーの匂いがしたら、カレーを注文したくなりますよね。でも、カレーがありませんと言われたら「なんやねん!」ってなるでしょう。そういう期待はちゃんと満たしてあげないといけない。
――なるほど、細かいデザインにこだわるよりも、相手の期待をちゃんと満たすことが大事と。
大西:そうですね。お客さん、つまりエンドユーザーはそこまでデザインについてよく見ていないと思います。だとするならば、その細かい部分にコストをかけず、回収率を上げたほうがいいと思うんですね。まさにレンガの例で言えば、本物にこだわらずに、レンガ風クロスでいいと。確かに、ちょっと店内がダサくなるかもしれないですが、レンガ風クロスだからクレームを入れるという人はいません。
――本書の「トイレのデザインにも手を抜かない」という部分がありましたが、確かに今、トイレのきれいさでお店を決める客がいます。飲食店におけるトイレの重要さについて、大西さんはどのくらい意識されていますか?
大西:トイレは一人の空間ですから、落ち着く場所にしないといけないと思っています。また、ほとんどの人はトイレに入ったらスマホを触っているんですよ。だから充電ができる環境を作っておくとか、そういう工夫は必要でしょうし、同じ3分のトイレ時間にもリラックスできる環境のあるトイレの方が価値はあるでしょうね。
――そのリラックス時間がリピートに繋がるということもあるわけですね。
大西:そうですね。例えば、居酒屋に会社の人間4人で飲みに来て、上司が愚痴を言い出したりしたら逃げ込む場がほしくなりませんか?
――ほしいですね。ちょっと場を外したいときはトイレに行きます。
大西:そうでしょう。トイレで一度リラックスして、さて戻るか、と。だから単純にトイレも用を足すためだけの場所ではなくなってきているんです。
そういうリラックスできる場所は他にも必要とされていて、例えばアルバイトさんの休憩室。1時間に5分でも休憩できれば作業効率は上がりますよね。アルバイトさんの休憩室ってお客さんから見えないところにあるけれど、そういう場所も重要です。
――本書ではチェーン店の事例が並んでいますが、個人店にもメソッドは使えるのでしょうか?
大西:正直なところを言うと、コロナ禍でしんどい個人店の経営者にこの本を読んでほしいんです。そういう人たちが元気にお店をやってくれないと、自分たちが行く店がなくなってしまうし、そこに食材を降ろしている業者も業績が落ちてしまって、業界全体が暗くなってしまう。
実際この本を出してから、「この本に出会えて良かったです」とか「大西さんのアイデアをもっと早く知っていたら、お店を閉めなくて済んだかもしれません」というような声をいただいています。もちろん、僕とは面識はない方々からいただいた声ですが、そういった苦しんでいる人に希望と勇気を与えたいですね。この本を読んでもらって、飲食を続けて良かったと思ってほしいです。
――また、このコロナ禍でも飲食店を開きたいと思っている方もいると思います。
大西:そうですね。そういう人はこの本を読んで、アイデアを活かして店舗デザインしてほしいです。あとはやはり冒頭にも言いましたが、この本を食品メーカーさんに営業ツール、コミュニケーションツールとして使ってほしいです。「この本、面白かったですよ」と会話のきっかけになるように使ってもらえば嬉しいですね。
(了)
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これまで20年以上にわたり外食チェーン店の設計デザインを手掛けてきた大西良典氏。𠮷野家、すき家、なか卯、ココス、とりどーる、すた丼、かつや、フレッシュネスバーガーなど、誰もが入ったことがある外食チェーンの設計をしてきた。
そんな大西氏による『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密』(扶桑社刊)は、飲食店の集客のヒントが詰まった、まさにマーケティングの教科書的な一冊だ。
大西氏へのインタビュー後編では、店舗デザインにおける「本質的な部分」についてのお話を聞いた。
■トイレも重要な空間に。客にとって大切なポイントとは何か?
――ここまでのお話で「ダサカッコイイの法則」の奥深さを感じました。「ダサい」デザインにこだわるのではなく、それよりも大事なポイントを押さえれば繁盛する。
大西:そうですね。コスト面においてもそれは言えます。例えば、だいたい1店舗つくるのに2000万円くらいはかかるのですが、「壁はレンガ風クロスだと安っぽくなる!」と言って、本物のレンガを使うとそこに500万円のコストがプラスされます。
確かに本物のレンガの方がカッコいいかもしれないけれど、その部分にこだわって入店する客はどのくらいいるのですか?ということですね。
――「壁が本物のレンガだから入ろう」とはなかなかならないですよね。
大西:だったらレンガ風クロスでもいいでしょう。確かに「ダサい」かもしれないけどね。でも、そういうことなんです。客が座る位置から厨房の冷蔵庫が見えたら、ちょっとダサいかもしれないけれど、もし厨房で作業するときにそこに冷蔵庫があれば動きやすくなるのであれば、ダサくてもそうした方がいいと。
――むしろ従業員が機能的に動けたほうが、本質的な顧客満足度に結びついていきますね。
大西:そうです。僕がデザインしている飲食店はチェーン店ですから、赤ん坊からご老人まで、本当にいろんな人が食べに来ます。そこをターゲットにしているのに、汚しにくいめちゃくちゃきれいなお店だったら、子連れの家族は来店しにくくなってしまいますよね。
僕は𠮷野家の河村泰貴社長から「𠮷野家にタキシードを着てくる人はいますか?」と言われました。私たちのお店はそういうお客様が来る場所ではない、と。まさにその通りだなと思うんですね。自分たちのターゲットに合うお店を設計しないといけない。
――お話をうかがっていて、「細部へのこだわり」よりも重要なポイントがたくさんあるということを実感します。
大西:そうですね。お客さんは細かいところは見ていない。ちなみに、最近行ったレストランの床が何色だったか覚えていますか?
――最近行ったレストランの床…。ちょっと覚えていないです。
大西:でしょう? ほとんどのお客さんはそのくらいの認識なんです。だから、デザインにクレームを入れる人ってまずいなくて、例えば床が油で滑るとか、今なら三密になっているとか、そういうことの方が圧倒的に多いんですよね。あとは、照明が明るすぎて目がチカチカするとか。
――そうですね。自分に不利益があるからクレームを出します。
大西:そうですよね。床の色よりも、床が滑らないかどうか、そこをちゃんと押さえるべきでしょう。あとは、お店でカレーの匂いがしたら、カレーを注文したくなりますよね。でも、カレーがありませんと言われたら「なんやねん!」ってなるでしょう。そういう期待はちゃんと満たしてあげないといけない。
――なるほど、細かいデザインにこだわるよりも、相手の期待をちゃんと満たすことが大事と。
大西:そうですね。お客さん、つまりエンドユーザーはそこまでデザインについてよく見ていないと思います。だとするならば、その細かい部分にコストをかけず、回収率を上げたほうがいいと思うんですね。まさにレンガの例で言えば、本物にこだわらずに、レンガ風クロスでいいと。確かに、ちょっと店内がダサくなるかもしれないですが、レンガ風クロスだからクレームを入れるという人はいません。
――本書の「トイレのデザインにも手を抜かない」という部分がありましたが、確かに今、トイレのきれいさでお店を決める客がいます。飲食店におけるトイレの重要さについて、大西さんはどのくらい意識されていますか?
大西:トイレは一人の空間ですから、落ち着く場所にしないといけないと思っています。また、ほとんどの人はトイレに入ったらスマホを触っているんですよ。だから充電ができる環境を作っておくとか、そういう工夫は必要でしょうし、同じ3分のトイレ時間にもリラックスできる環境のあるトイレの方が価値はあるでしょうね。
――そのリラックス時間がリピートに繋がるということもあるわけですね。
大西:そうですね。例えば、居酒屋に会社の人間4人で飲みに来て、上司が愚痴を言い出したりしたら逃げ込む場がほしくなりませんか?
――ほしいですね。ちょっと場を外したいときはトイレに行きます。
大西:そうでしょう。トイレで一度リラックスして、さて戻るか、と。だから単純にトイレも用を足すためだけの場所ではなくなってきているんです。
そういうリラックスできる場所は他にも必要とされていて、例えばアルバイトさんの休憩室。1時間に5分でも休憩できれば作業効率は上がりますよね。アルバイトさんの休憩室ってお客さんから見えないところにあるけれど、そういう場所も重要です。
――本書ではチェーン店の事例が並んでいますが、個人店にもメソッドは使えるのでしょうか?
大西:正直なところを言うと、コロナ禍でしんどい個人店の経営者にこの本を読んでほしいんです。そういう人たちが元気にお店をやってくれないと、自分たちが行く店がなくなってしまうし、そこに食材を降ろしている業者も業績が落ちてしまって、業界全体が暗くなってしまう。
実際この本を出してから、「この本に出会えて良かったです」とか「大西さんのアイデアをもっと早く知っていたら、お店を閉めなくて済んだかもしれません」というような声をいただいています。もちろん、僕とは面識はない方々からいただいた声ですが、そういった苦しんでいる人に希望と勇気を与えたいですね。この本を読んでもらって、飲食を続けて良かったと思ってほしいです。
――また、このコロナ禍でも飲食店を開きたいと思っている方もいると思います。
大西:そうですね。そういう人はこの本を読んで、アイデアを活かして店舗デザインしてほしいです。あとはやはり冒頭にも言いましたが、この本を食品メーカーさんに営業ツール、コミュニケーションツールとして使ってほしいです。「この本、面白かったですよ」と会話のきっかけになるように使ってもらえば嬉しいですね。
(了)
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