久保建英の活躍に現地紙最高評価。それでもベンチから怒声が飛んだ理由
「クボ(久保建英)は驚異の選手である。その点に何の疑いもない。自由を得てプレーするときの彼は、まるで(叩き潰す)ハンマーだ」
スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は、久保のプレーをそう激賞している。
10月22日、ヨーロッパリーグ開幕戦で、ビジャレアルはトルコのシバススポルを5−3で下した。その一戦にトップ下のポジションで出場、1得点2アシストの活躍をしたのが久保だった。今シーズン初となる先発出場で、その価値を示したのだ。
ヨーロッパリーグ初戦のシバススポル戦にフル出場した久保建英(ビジャレアル)
久保は、新天地で着実に道を切り開いている。
スペインでは、勝利を決めるプレーが高く評価される。その点、シバススポル戦の前のバレンシア戦で、久保が交代出場し、ダニエル・パレホの決勝点をアシストしたことは大きかった。2枚のイエローカードで退場処分になった(その後、処分は撤回)ものの、評価を落としていない。
「久保の退場は不運で、ふさわしい処分ではなかった」
スペイン人指導者、ミケル・エチャリもそう力説している。ビジャレアルの監督であるウナイ・エメリがレアル・ソシエダBの選手だった時、監督を務めていた人物だ。
「久保は交代出場で、高い能力を示した。マークの外し方、ボールの運び方、そして守備でもしっかり戻って中を締め、連係してボールを奪う場面もあった。何より、決勝点のシーンは、高い評価を付けられる。一度、コントロールでもたついたにもかかわらず、すかさず修正し、ヒールでパレッホの得点をアシストするなど、才能を証明した」
今シーズン初の先発は、久保自身が勝ち取ったものと言える。その攻撃センスは飛び抜けている。
シバススポル戦の久保は、12分にいきなり結果を残した。サムエル・チュクウェゼの放ったミドルシュートを、敵GKがはじいたこぼれ球を、左足で押し込んだ。ゴールに近いところでの嗅覚に似たポジション取りと、シュートの時の冷静さは特筆に値する。
19分にも、バックラインの前に巧妙に入り、右サイドからボールを受け、左足でコントロール。トップのカルロス・バッカが裏を狙う歩幅に合わせ、左足アウトサイドで完璧なスルーパスを出した。ビジョン、技術、タイミングともに非の打ちどころがないプレーで、バッカは右足を振り切るだけだった。
そして後半になって、56分にも久保は左からのCKを直接、フアン・フォイトの頭に合わせ、3点目を演出している。左足で蹴ったボールは、相手ディフェンスを幻惑させるように曲がって、落ちていた。対処が難しいキックだったはずだ。
試合後、ヒーローインタビューに応えていたように、主役の輝きだった。スペイン大手スポーツ紙『アス』が、0〜3の4段階で最高の3を付けたのも至極当然だろう。
◆「20年前、史上最強と称された日本代表を知っているか」>>
もっとも、その立場は劇的には変わらないだろう。攻撃力の高さとひらめきは群を抜き、バルセロナ、レアル・マドリードの選手と比べてもそん色はない。ただ、エメリが求めているのは、守備の強度と献身なのである。攻から守に切り替わるところで、しっかり下がってポジションを取り、チームとして数的有利で守れるか。
「ベンチからは、ポジション取りの指示の声が止むことはなかったです。特に守備に切り替わるときには」
この試合を撮影していたカメラマンは、エメリの指示の声を聞いていたという。前半、同点に追いつかれた時には、トップ下にいた久保が前に残ってしまい、ボランチが正面から攻撃を浴びて機能しなくなったことで、ベンチからの"叱責"は激しくなった。
「90分間、あまりにたくさんのことが起こっている。結局、我々のほうに有利に働いたが」
試合後、エメリはそう振り返っている。
「(流れを)与えていないのに、かなり苦しめられた。勝利したことはよかったが、我々は自らを省み、然るべき場面での強度について修正しなければならない。選手にプレー時間を与えるための試合でもあったわけだが、今後は能力を引き上げ、改善できるはずだ」
戦術家を自負し、ソリッドな守備構築に定評のある指揮官にとって、2−0から追いつかれ、5−3でようやく勝つ試合の流れは、効率性に欠け、不満が残るものだったろう。あくまでチームへのコメントだが、久保に対して向けられたもののようでもあった。
試合後、久保はテレビのインタビューにスペイン語で堂々と答えている。
「(起用法は)監督が決めることだ。選手は全員、先発でプレーしたいもの。先発でプレーしたくない選手は、チームにいるべきではないでしょう。競争はそこにあるもので、今日はひとつ積み重ねられたし、これからです」
ひとつ間違いないのは、結果を残したという事実である。先発確保に向け、この一戦で取っかかりをつかんだと言える。もともと、攻撃面の非凡さは歴然としているだけに、あとはエメリの守備の要求で最低ラインに達することができれば――。
久保は鮮やかな反撃を見せるはずだ。